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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
すれ違い 〜アンドリューサイド〜
47/97

47.嫌いな自分

 ドアから部屋を覗くと、予想通りの光景が広がっていた。

 悪者が母さんを噛んでいる…目を覆いたくなる光景が。俺の大切な人が、だんだん真っ青になり、しわくちゃになっていく。


 …気持ち悪い。

 親なのに。大切な人なのに、思ってしまった。

 そして、俺は…動けなかった。

 衝撃的な姿。自分の感情の無情さ。…行かないといけないのに、何かが止めている。


 ギロリと男が俺の方を向く。目が…赤い。

 その時、俺はもっと動くことができなくなってしまった。


 父…さん…!?


 腕が震え、粘っこい汗が流れる。母さんのことを投げ捨てた後、奴は俺に近づいて来た。ふらりと頭を揺らしている。

 俺は、恐ろしくなって、自分の部屋の鍵をかけた。しかし、男の足音がズンズンと近づいて来て、ドアをガタガタを揺らす。俺はドアを必死に押さえるが、全く効果がない。


「…くそっ」

 俺は歯をカチカチと震わせる。

「……くそっ!」

 俺のドアを押さえている腕に限界が来そうだ。

「………くそっ!!!」

 俺は一瞬でベットの下まで入り込んだ。

 真っ暗な世界の中で、冷たい棒をさっと掴む。中途半端な重み。手で感じられる、鞘の美しい装飾。緊張感ばかりが増えていく。


 大きな音を立ててドアが破られる。ドアがボロボロと砕かれていった。

 せめて。せめてだ。

 シャーロットを守るんだ。絶対に…絶対に!


「うわあああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!!」

 涙目でバンパイアに…いや、父さんに向かって走りだす。

 すっと何かに剣が刺さっていく。

 気持ち悪い感覚だ。なめらかに男の腹に、するりと。


 ハッとして、父さんを見上げた。

 俺は思わず、うっと顔をしかめた。口から滴り落る血。母さんの血…

「ふざけんな…っ」

 俺は目を見開く。涙が必要以上に出てくる。

 ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。


「消えろぉーーーーー!!!!」

 むちゃくちゃに剣を振りまくる。何が傷つくか、何が壊れるかだなんてどうでもいい。そんなことより、とにかく守らないと、守らな


 ゴトン。


 ハッとして、目を開ける。

 …え?頭?

 父…さ



「ん!?」

 バッと体をあげると、荒い息で呼吸していた。

 な、何が…あった?


「大丈夫か、アンドリュー?」

 ビクッとして後ろを振り返った。

「な、なんだ…クレイグかよ」

「なんだとは、なんだ。大切な友であるぞ」

「はいはい」

 俺は彼の心配そうな表情を見ないように、顔を背けた。


 そっと手を握りしめる。あの腹に剣が入る感覚。親父の頭が落ちた瞬間の音。未だに忘れていなかったか…

 記憶というものは、時として恐ろしいものだ。


 この世で殺しても問題の無い種族。それは、バンパイアだ。

 元人間の親父を殺しても、俺は罰を与えられなかった。むしろ、褒められてしまった。いっそのこと、牢獄にぶち込まれた方がマシだった。


 そして…俺は真っ黒になってしまった。

 親を殺してしまったんだから。


 なのに…サラと会った時、何かが変わった。

『星に向かって、ごめんなさいしたらいいよ』


 あの時、あののんきな声に一切イラッとしなかった。なんと言うか…助けられた気がした。

 罪の意識が薄れたとかじゃない。この罪を、ちゃんと償おうと思ったからだ。


 バンパイアは敵だ。でも、一度は人間だったんだ。

 奴らが手を汚す前に、天国に送ってやる。もうすでに汚れた俺の手で…ってとこだけ、申し訳ないけど。



「久しぶりだな。その悪夢を見たのは」

「ああ…なぜだろうね」

 すると、彼は少し悩んでいるように腕を組んだ。そして、少し俺のペンダントを覗いた。


 俺は戦いに出る前、サラがペンダントを机に置きっぱなしにしているのを見て、持って行こうと思った。

 バンパイア避けになる十字架は、バンパイア討伐にむしろ邪魔だと思う。だが、サラが着けていた、という事実だけで、なんとなく勇気がもらえた。

 …というのもあるが、サラには俺のことをしばらく忘れて欲しいと思ってしまうところもあった。


「何かあったのか?」

「何かって?」

「…あるだろ?サラが呼び出したこと…さ」

 しかも、汗かきまくってただろ?と、彼は付け足す。

 こいつ…さすが、と言うべきなのかな?


 クレイグはできるだけその事は気にしないようにしていたみたいだが、さすがに見逃せなかったみたいだ。

 要するに、俺が危なかっかしい行動をしていたって事だよな?そんなに寝相が悪かったのかな?

 ため息まじりに俺は小声で話し出した。


「全部話した」

「何の?」

「俺が…俺達が必死に隠してた、昔のこと全部」

「そっか…」

 バンパイア討伐に向かいながら、俺達はひそひそと話し合っていた。


「それでサラは、悲しみに明け暮れた…とか?」

「俺が突き放した。なんだか…中途半端に同情されそうな気がして」

 俺がぼそっと言うと、彼は思いっきりため息をついた。


「サラがそんなことすると思う?」

「…は?」

「サラは、そんな子じゃない。むしろ、いつものメンバーの中じゃ、一番アンドリューのことを理解してくれるんじゃないか?」

 …一番って。

 それでも、俺のことを完璧に理解してくれる人はいない。

 そうして、俺はいつまでも、彼女を避けていくのだろう。


「アンドリュー。自分を閉ざすな。辛くなるのは、お前の方だ。大切な人が自分を理解しようとしてくれる。それがどれだけ素晴らしいことか、ちゃんと分かるべきだ」

「…」

 …わかってるよ。わかっているからこそ、こんな自分がウザったらしいんだ。

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