46.I don't know him.
…嫌いになっただろうね。
俺は、ため息をつかず、心の中で押しとどめておく。
辛いのはあっちなんだ。俺がそんな対応しちゃ、もっと嫌われるだけだ。
「父さん。どこ行くの?」
「ちょっと悪者を退治してくるよ」
彼は俺の髪を、くしゃくしゃとかき回す。父さんと全く同じ色…よく、近所のおばさんに褒められた。
きっと、アンドリューくんは、将来お父さんのように、強い剣士になるんでしょうね、と。
いつも鼻が高かった。カッコイイお父さん。大きくて、強いお父さん。同じ髪色のお父さん。
だから、俺は、全く心配していなかった。父さんが悪者を退治する、ということは誇らしかったし、きっと悪い奴らはみんないなくなるだろうと、信じて疑わなかった。
「アンドリュー。我が息子よ。ちゃんと、お母さんとシャーロットを守れるかい?」
「もちろんです。父さん」
すると、父さんは満面の笑みで頷き、荷物を肩にかけ直した。
「行ってくるよ。留守番頼んだ」
「はい!いってらっしゃい!」
ドアが開いたその奥から光る太陽に消えていくように、父さんは旅立った。
それは、そのままの意味でもあり、比喩的意味でもあった。
父さんは、帰って来なかった。
父さんの同僚だと言った男が尋ねてきて、きっと死んだだろうと、無情なことを言ったのだ。その人は、父さんのように強そうな人だった。
頭が真っ白になった。
父さんが死んだ。全然理解出来ない。
でも、俺は男だ。
『ちゃんと、お母さんとシャーロットを守れるかい?』
その時、俺は約束したんだ。絶対二人を守るって。だから、早く立ち直らなきゃ。
このセリフに、一部の人は無神経だ、と思うかもしれない。
だが、父さんとの最後の約束。ちゃんと守らないと。
そう心に決め、俺は父さんが旅に出る前にくれた剣を、重さでぶれないようにしっかりと構えた。
数日経っても、俺の家の女性陣は、悲しみに明け暮れていた。しかし、俺達が生きてくため、一人で買い物をしたり、料理をしたり、スズメの涙ほどの金を稼いだり…そうして、なんとか生きていた。
そんなある日、バンパイア荒らしが起きた。その犯人は…もちろん、あの男。
そして…俺は家族を守れなかった。
「俺の家にバンパイアがやって来たってわかったときには、母さんはもうバンパイアに噛まれていた。今でも夢に出るよ。母さんの血がだんだん吸われて、蒼白になり、皮膚がシワになって…まるで、ミイラができていくような。ってわかる?」
私は首を横に振りかけ、思い直した後すぐに縦に頭を振った。
想像…出来てしまった。アンドリューを城から逃す時、私達が入った秘密通路。そこで見かけた、白骨死体。もしかして…もしかすると…
そんな死に方をしてしまったのかもしれない。
ふと、アンドリューの方を向いた。
彼の目に、闇夜が美しく映る。さっきから、ずっと目を閉じていない。そんな彼の眼は、感情が全然見えなかった。
「その様子を、俺は遠くから見つめていた。怖くて、怖くって。そして、目が合った。バンパイアと」
彼の口角が、ちょっとだけ上がる。
「それが、俺の親父だった。その時の寒気、その時の落ちていくような感覚。本当に怖かったよ。今でも思い出す」
そして、彼の目に一瞬星の光が反射した。
「気付いたら、俺の手は汚れていた。真っ赤に染まっていた…いや、真っ黒だ。気付いた頃には、もう変色していた。もっと時間が経ってハッとしたら、父さんと母さんは片付けられ、なぜか俺は賞賛されていた。びっくりしたよ。君は勇者だって」
アンドリューは目を閉じ、眠たそうな顔をした。その表情は、何か…わからないけど、たくさんの何かを悟っているような、そんな顔だった。
「そして、シャーロットは真っ暗な部屋に閉じこもり、俺はたった一人で最後の家族を守ることになったんだ。まさに、お涙頂戴物語…だろ?」
…どうしよう。
聞いておきながら、何も答えられない。ちゃんと、話すことが…!
「俺の気持ちを理解していたのは、クレイグだけ。他のみんなは、まさに現実という模範解答を述べていた。現実が怖かった。バンパイアになっちまった親父より、怖かった」
「アンドリュー…」
「あ。わかったようなことを言うなよ。それだけは…許せないから」
その経験しました。と言わんばかりの言葉は、きっとそんな辛い思いをしたからだろう。
周りの人はもちろん、きっと、クレイグにも当たってしまったんだ。クレイグにとっても、アンドリューのお父さんは、第二のお父さんみたいな存在だったんだろう。きっと、アンドリューと同じぐらい、悲しんだ。
でも…あくまでも、第二。クレイグには、本当のお父さんがいる。アンドリューの気持ちを百パーセント理解する、というのは、元から不可能だったんだろう。
「嫌いになった?」
アンドリューの声に、私はハッとする。私はずっと固まってしまっていたことに、気付けていなかったんだろう。
「嫌い…だなんて…」
「じゃあね。俺、忙しいから」
私は、アンドリューの姿を目で追いかける。でも、動けない。足に力が入らない。
アンドリューが言った話と似た光景…光に消えていくみたいな。
彼がいなくなってしまいそうで…私は何もできない。
そして、数日後。
アンドリューとクレイグは、バンパイア狩りに向かった。
方角は、だいたい、私がいたあの大きな城。目的地かは、知らないけれど。
もう一度。ちゃんと話したい。ちゃんと理解したい。
それが、彼を傷つけてしまうかもしれないとしても。
お願い。神様。もう一度、チャンスを。
次回からアンドリューサイドの新章に入ります。
もっと暗い話になると思いますが、お付き合いください。
感想待っています!
Bye, see you next story...




