44.親父
「ば、バンパイア討伐!?」
「うん。行ってくるねー」
ロザリーの口が、中途半端に開いている。唖然の模範解答ね…
一方、討伐組のクレイグは、そのままピースをするくらい、気楽なテンション。腕はいいけど…
「こんなに気楽でいいの?」
「よくねーけど、ロザリーの前で心配させちゃいけないだろ?」
「まあ、そうだけど…」
アンドリューだって、気楽なくせに…と、私は膨れてみせる。彼は強いけど…正直言って、バンパイア相手では勝てる可能性は低い。もうすでに何人かと手合わせしたはずだけど、戦いの後に『勝ちました』と、言ったことはない。
だから、私はバンパイア討伐に行って欲しくなかった。
「アンドリュー。バンパイア討伐って、何人で行くの?」
「ん?ああ。大体、二十人ぐらい?それが、どうかした?」
「ううん…別に…」
…別に、じゃないでしょ!私は聞きたい事を、うまく聞くことができない。
「アンドリュー達は、いつ討伐に…?」
「三日後。唐突過ぎるだろ?」
アンドリューは不満そうな内容の言葉を発したが、声は少し弾んでいる。
その理由が私の予想通りかもしれない…と思うと、声をかける勇気も出なかった。
「どうかした?サラ」
彼の声にハッとすると、私は右下に目を逸らした。
「後で、二人で話したいことがあるの。いい?」
すると、アンドリューの顔が真っ赤に染まる。少し顔を隠しながら、ぼそっと「いいよ」と返す。
…ちゃんと、聞かなきゃ。
多分、このことは、ちゃんと知らないといけない。
「指輪を用意しろ!」
「いやいや、それはねーよ!」
「馬鹿野郎!タイミング的に…」
「だから、それはない!」
…相変わらず、クレイグは俺の思った通りに言いやがる。
俺とクレイグは、銃士隊の稽古の合間に小声で話していた。
男が死ぬ可能性がある戦いに出る前に、女が大事な話をしたがる…これは、引き止めるとしか思えない。あわよくば…って何考えてんだ。
「好きって言いたいのか?」
「…!?」
こいつ…察しすぎてホラーだ。長年仲良くしてきた俺たちだが…さすがにホラーだ。
「なんで、そんなことを言わないといけない?サラは俺にそう言われたいから、呼び出したのか?」
「さて。どうかな?」
クレイグの不敵な笑顔に、俺はあきれる。こんな顔ができるなら、もっとロザリーを大切にしたらどうだ?
「アンドリュー」
きりっとした男の声が、俺の頭の上からした。
「アレクさん!」
「アンドリュー。期待するな。彼女はそんな話をするわけない」
アレクさんの冷たい声に、俺は少しイラッとしてしまった。
「そんなことありません!サラは、俺のこと…」
…どう思っているんだ?彼女は俺の…ことを?
「サラはお前のことを好いているだろう。しかし、それと今回の話は関係ないだろう。とにかく、ちゃんと答えることだな」
「ご忠告、どーも」
すると、アレクさんが俺に向かって睨みつけた。…殺気の量ひでー。
俺は心の中で舌打をした後、「…すみません」と、気持ちの欠片もない声で謝る。
すると、彼は俺の配慮なしに、わざとらしく舌打をする。
…なんなんだよ、こいつ。うっぜ。
「親父みたいか?」
「…は?」
…お、親父?
俺は、薄い記憶から、親父の姿を思い浮かべる。大きな背中や、無駄にでかい筋肉。だが、どんなことを言っていたか、どんな雰囲気だったか…全く記憶にない。
「俺は、ビルの友だった。だから、アンドリュー。君のことを、自分の息子のように思っている」
「…」
「だから、口うるさいと思うが、ちゃんと聞いてくれ。俺が言うのはおかしいが、俺をビルと思ってくれ」
…あっそ。
うざいのに、なんだか嬉しい。
多分、このイライラは歯がゆさから…嬉しすぎて歯がゆいからだろう。
…こんな風に親父みたいな人に褒められると、本気で困るよ。




