43.嘘と真実
嘘だ。
あとになって、私はやっと思い出した。そしてやっぱり、悲しかった。
『あいつの親父、持病でさ』
『…二人共、バンパイアに殺されたんだ』
アンドリューとクレイグ。どちらかが嘘をついている。
彼の両親は、どんな理由で死んだんだろう…
こんな不謹慎なこと、知るべきじゃない。でも、知らないといけない。そんな気がしていた。
「俺に聞いたところで何も出ないぞ」
「いいえ。私を舐めないでください?」
私はにやりと笑うと、アレクさん肩をすくめたあと、また剣の稽古を始めた。
他の銃士隊員は昼ご飯を取ったり、休憩したり…とにかく、人が近くにいない。なのに、アレクさんはご飯を食べる様子は全くない。いつも、みんなのいないところで稽古をしている、努力を見せたくないタイプ…恥ずかしがり屋さんなのね。
「今、何か失礼なことを考えたか?」
「正解だけど、大事な話を脱線させないでくださる?」
「はいよ」
シュッと剣の風が吹く。とても強い突き。彼の汗で、髪が張り付いている。
「アンドリューのお父さんのこと、知ってるでしょ?」
「だから、知らないって」
「アレクさんの年齢から考えて、知っているはずですよ」
「…っ!」
アレクさんは私に剣を向けた。彼の肩は上下に動き、顔を真っ赤にさせ、動揺の色を隠せないでいる。
「そんなこと、聞いてどうする?」
「アンドリュー、またはクレイグがどうして嘘をついたのか、ちゃんと知りたいんです。アンドリューの両親の死に、何か悪いことがあったのですか?」
「…あった、だろうか」
アレクさんの動きがすっと止まった。そして、重い顔をしながら、ゆっくりと手を下ろしていく。
「一度しか言わねーぞ。よく聞け」
彼の台詞で、私は身を乗り出した。
アレクさんはなめらかな動きで、剣を鞘に収める。
「アンドリューの父は、俺の戦友だ。そう、奴の名は…ビル」
「ビルはアンドリューと似た、赤茶色の髪を持っていた。俺よりも強くって、本気で羨み、本気で越そうとしていた」
まあ、ちょっと先輩だったから、無理だったかもしれないけど。と、彼は付け足す。
その目はいつものきりりとしたアレクさんではなく、また、ちゃらんぽらんなアレクさんの目でもなかった。まるで、孫を見るおじいさんのような…
そんな連想をした瞬間、私はハッとした。アレクさんの目元のシワに。
なんだか、ちょっとだけ寂しくなってしまった。
「俺の先輩だったビルは、反抗期だった俺をよく育ててくれた。俺は銃士隊の二番手。つまり、ビルが一番手だったんだ。とても強かった。本当に…」
その言葉を聞いて、私は顔を下げた。だめだよ。ちゃんと聞かなきゃ…
だけど、私の頭が重くって、全く動かなくなってしまった。
「しかしビルは、はぐれ者というのか…一匹オオカミというのか…とにかく、皆の輪に入ることを嫌う人間だった。その様子を見て、俺たちの上の人間が、ビルのことを嫌うようになってしまった。そして、ある日」
アレクさんは言葉を止めた。一度ため息をしたあと、一気に息を吸って言った。
「たった一人で、バンパイア討伐に行かされた」
私は顔を上げたあと、大きく目を見開き、小さな悲鳴をあげる。
たった一人で…?
私は、サタンやルシフェル伯爵。そして、おふざけ仮面女のバンパイアを連想した。…あんなに強いバンパイアがいるのに!?
いくらアレクさんより強いとしても、あの三人…いいえ。もっといるわ。そのバンパイア達を一人でだなんて…
「このことが、何を示すかわかるか?」
…ビル。アンドリューのお父さんの、死。
「わかったのならば、早く帰れ。もう直ぐ昼休みが終わる」
「じゃあ、アンドリューのお母さんは!?どうして!」
「あと一つ、君にヒントをやる」
アレクさんは私に背を向け、剣を太陽を刺すように、グッと空に向けて突きをした。
「アンドリューの母は、ビルがバンパイア討伐に行った数日後、バンパイアに殺されたらしい」
私は気がついた。気がついて…しまったのかもしれない。
「バンパイアが街にやってきて、無差別に血を吸うことを、俗称」
「「バンパイア荒らし」」




