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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
都へ
42/97

42.シャーロット

 走馬灯のように駆け巡った記憶。キュッと締められる心臓。目から落ちる水。

 その全てが、彼は運命の人と教えている。

 ふと、五歳の頃のアンドリューを思い出した。あの頃から、赤髪と緑の服は変わってない。まるで、他の服を考えるのもめんどくさいと言うように。

 私を見下げた彼は、もう大人の顔をしていたが、面影が残っていた。


「背、高くなったね…」

「…今更気づいたのか?」

「ごめん…」

 すると、あの時のように、アンドリューが私と背中合わせに座った。


「俺は、最初から気づいていたよ。お嬢様の格好をしていたから、もしかして違うかも?って思ってたけど、サラの話を聞いて確信した」

「そうなの…」

 私の適当な返事に文句を言うように、アンドリューが私の頭を自分の頭でコツンと叩いた。

「ちょっと!何するのよ!」

「あの時のお返しと、俺のこと忘れてた罰。痛かった?」

「痛かった!」

「はは。ごめん、ごめん」

 アンドリューが笑いながら、私に手を差し出した。


「帰ろう」



 俺は、嬉しかった。

 サラが忘れてなかったのが、とても嬉しかった。あの時のサラが、俺の前にいた。それが、本当に嬉しかった。

 でも…

 と、俺は彼女の顔を盗み見た。


 運命とか、ちょー重いこと言っちゃった…

 今更、顔を真っ赤にしてしまう。夜だからわからないだろうが、なんとなくサラには全部お見通しな気がして、俺はさっきから喋らないようにしていた。

「ねえ。アンドリュー」

 その呼びかけにハッとすると、俺は背中を丸めて足元を見た。


「な、何?」

「私、思い出したんだけど、私がアンドリューと初めて会った時、妹さんいなかったよね?両親が埋葬されたのに…」


 彼女が少し疑問と悲しみを混ぜたような声で、俺に尋ねた。

 俺はパッと立ち止まると、サラの首にかかっているロケットを開けた。

 …普通、こんなことを女子がされたら、悲鳴をあげたり、恥ずかしがるのに、彼女は静かに中身を覗こうとする。さすが、天然お嬢様。

「これ…俺の妹のシャーロットって言うんだ。妹は、両親が死んでから、ふさぎこんでしまったんだ。部屋から出ずにカーテンを閉め切って…」


「その時、妹さんは?」

「四っつ。感受性豊か…って言うのかな?そういう時期でさ」

 妹は、ずっと顔を真っ青にし、毎日動かずに年齢と背丈だけ大きくなっていった。そんな彼女を見て、俺は何もできなかった。兄なのに、お兄ちゃんだったのに…


「そして、サラが街にやって来るちょっと前に、バンパイア荒らしの被害に遭ったんだ」

「バンパイア荒らし?」

「うん。その名の通り、バンパイアが街に来て、無差別に血を吸う事件だ。そのせいで、沢山の人々が失血で死んだり、バンパイアになっちまったりするんだ」

「じゃあ、アンドリューの妹さんも…」

「行方不明…だけど、きっともう、手遅れだ」

「そうなのね…ごめんなさい、こんな辛いこと聞いてしまって…」


「いや。いいんだ」

 俺はそっとペンダントを彼女から外した。少し笑って見せると、彼女は逆に心配そうな表情になってしまった。

「妹は、四歳から社会的にも精神的にも、何も成長していない。…そんな妹が、バンパイアに連れて行かれて…自分の情けなさに、呆れてしまうよ」

 俺は爪が皮膚に食い込むぐらいに、手を思いっきり握りしめた。大事な妹を守れなかった。だから、だからこそ…俺は、隣にいる女の子を守りたい。守り抜かないといけない。

 ふとサラを見ると、彼女は沈んだ表情をしていた。


「アンドリュー。私、シャーロットさんの気持ちわかるわ。小さな部屋に一人ぼっち。私には召使いもいて、幽閉の割には緩かったけど、やっぱり辛いわ」

 そう言って、サラは空を見上げた。

 きっと、彼女は星にすっと手を合わせた。きっと、俺の妹に話していると思ってた.


 もう直ぐ、太陽が来る。

 ここは、この街一番に、太陽が挨拶する場所。

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