40.何者
「…っ!」
嘘だろ!?
謎の女は、俺の攻撃をスルリとかわしながら笑い声を上げている。なのに、息も上がってない。
…俺は、もうそろそろ倒れそうなのに。
ぐっと心臓の辺りを掴む。必死に息をすると、俺はバンパイアから距離を取った。
「オディール殿と共に逃げるべきだったな」
「…くそっ」
どうしたら、こいつに…こいつにっ…!
ふと顔を上げると、彼女は、宙に短剣を投げて遊んでいた。月の光に、剣が反射する。…ふざけやがって。
こんな時、クレイグなら…クレイグ…なら?
…そうか!
俺は肺の中にめいいっぱい空気を入れると、目を閉じて、思いっきり剣を後ろに放り投げた。
剣が地面に突き刺さる音がした。
「戦意喪失…か?」
奴の言葉を無視して、俺はカッと目を見開く。
敵が不敵に笑うと、一瞬で間を詰めて、攻撃してきた。
両手に持っている短剣は、俺の心臓や脳天を狙って来るが、剣を捨てた俺は身軽だから全部避けきってる。
…しかし、このままだと、攻撃が出来ない。バンパイアの体力がどれほどかは知らないが、俺の体力は限界が見え始めている。
バンパイアの動きがのろくなった瞬間、俺はバク転の要領で、足を使って片手の短剣を弾いた。ハッと敵が焦った瞬間、俺は短剣を拾い、奴の首に刃先を向ける。
「焦ったところで、もう遅い」
俺は左手を使って相手の腕を拘束し、背負い投げをして気を失わせた。
俺は、女だろうが男だろうがバンパイアは殺す。天国に…いや、こいつは地獄か…そこに送ってやるのが、俺のポリシーだ。
「面白い戦いだった」
送る前に敵の顔を拝もうと、俺は仮面に手を掛けた。…あれ?
「と、取れない!?」
俺が思いっきり引っ張っても、びくともしない。ただただ、顔がくっついて…なんだこれ?
「お前には、外せないさ…」
「なっ…!」
奴は知らない間に、意識を取り戻していた。
俺は一瞬で短剣に持ち替え、敵の喉元に向けた。
「うわっ!」
急に、奴の体から、無数の真っ黒なコウモリが湧き出てきた。俺は、近づいて殺そうとするが、コウモリのバリアーのせいで、前に進めない。
「お、お前…!」
「今回は、オディール殿のことは諦めよう。だが、次は…」
「…っ!待てっ!」
本当に、これは現実なのか?
真っ暗闇に消えていく女を、俺は凝視する。
何者だったんだ…
あのバンパイア、サタンの手下なのか…?
あ…!
「サラ!」
私はやっと丘についた。とても綺麗な星…まるで、真っ暗だけどキラキラ光る、海の中に沈んでしまったみたい…
だなんて。
私、海なんて行ったことないじゃない。ああ…どんなところなのかな?きっと、私が考え以上に素敵な場所でしょうね…
「綺麗なところだよ。冷たくて、とっても気持ちがいい。あ、結構しょっぱいけどね」
「アンドリュー!」
私は驚いて後ろを振り返った。
「大丈夫だった?ケガは?」
「大丈夫。このくらい、楽勝…と言いたいところだけど、逃しちまった。ごめんな」
「ううん。私はアンドリューが無事なだけで、十分…」
彼は、何かに思いをはせるように、空を眺めていた。
「ねえ。サラ。子供の頃のこと、覚えていない?」




