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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最後のクリスマス
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04.私の理解者

「縁談ですって!?」

「ええ」

 平然と答える私を、ロザリーは凝視した。

 またいつものように、ロザリーが私の部屋に訪れていた。紅茶の優しい香りが、部屋を満たしている。


「ほ、ほほほ、本気なんですか!?」

 ロザリーが持っている紅茶に小波ができる。

 私も、クリスマスでもう十七歳だ。縁談ぐらいあって当たり前じゃないの…?


「何をそんなに恐れているの?」

 私が尋ねると、彼女は重い表情で私の方に体を向けた。


「オディール様は、バンパイアの数が年々減っていることはご存知ですか?」

「ええ。でも、それとこれとは…」

「関係あるのです」

 彼女の顔はどんどん青くなり、私から目をそらした。


「人間という生き物は、学ぶ生き物です。人々は、バンパイアは生きている間に悪いことをした人間がなると知り、対策を施していきました。また、血を吸われて感染するというのも、同様です。

おかげで、自然とバンパイアの数が減っていく。いくら伯爵の地位にいるルシフェル伯爵様でも、黙っていられない事態でしょう。


しかし、バンパイア絶滅の危機だからと言って、伯爵というプライドもある。無差別にバンパイアを増産するのは、彼のポリシーに反する。そこで考えたのが、美しい少女を養女として招き入れ、金持ちのご子息あたりと結婚させる。そして…少女をバンパイアにさせる。

そうして、バンパイア絶滅の危機の活動に一応賛同した…という体裁を作るという考えなのです」

 少女をバンパイア…?


「ちょっと待って。私、バンパイアになるの!?」

「そうに決まっています!想像できなかったのですか!?」

「だって…ルシフェル伯爵のいとこの息子…でしょ?」

 …ば、バンパイアに決まってるじゃない!そうに決まってる!


「でも、私をバンパイアにしちゃったら…」

「オディール様。はっきり言います」

 ロザリーが、私をじっと見据えた。



「あなたと伯爵様との駆け引きは、最初からあなたの負けと決まっていたのですよ」

 …その通りだ。

 私が勝手に、伯爵と同じ位置に立っていると、勘違いしていたんだ。


「じゃあ、私は…年が明けた後…」

「血を吸われるでしょう」

 ロザリーが冷たく答えた。


 彼女は紅茶を一気に煽り、がちゃんと音を立ててコップを置いた。


「では、これで、失礼します」

 ロザリーがぺこりと頭を下げ、私の顔を一切見ずに去ろうとした。



「ちょっと待って!まだ、時間あるでしょ?」

 すると、ロザリーの背中が小さく震えだした。鼻をすする音もしてきた。


「…オディール様。今度から、お茶に呼ばないでください」

「どうして?」

 彼女は振り返り、ぐっちゃぐちゃの顔を一瞬あげ、すぐに両手で覆い隠した。



「だ、だって!オディール様がバンパイアになっちゃったら、私、私…どうすればいいのですか!?」

「どうすればって…?」

 私は急いでハンカチを持って、ロザリーに駆け寄った。

 そっと、泣き顔を隠すための手を外し、私はロザリーの顔を優しく拭いた。まるで、母親が娘をなだめるように。


 それでも、ロザリーの涙は止まらない。しかし、彼女は必死に喋ろうとする。


「私…オディール様がこの城にやってくる直前に、オディール様のためだけに私は拾われました。だから…私の人生に、あなた無しは…考えられません」

 バンパイアになっちゃったら…私はロザリーと離れないといけない。離れないと、私はロザリーを傷つけてしまうかもしれない。


「私も、ロザリーと離れたくない。離れたく…ないよ」

 なぜか私の目にも水が溜まってきた。


「バンパイアなんか、なりたくないよ…」

 そう口に出しながら、私はちゃんと必ずやってくる未来に気づいていた。


 十七回目のクリスマスが…十七歳の誕生日が、きっと、最後のロザリーと遊べる日。

 バンパイアなんか、なりたくない。でも、絶対避けられない。なら、せめて…最後のあの日は…



「ロザリー。クリスマスの日。ここから抜け出そう。私、最後に街に行きたい」

 私はロザリーに優しく笑いかけた。

 彼女も、私の未来の予想できているみたいで、泣き笑いに似た笑顔を私に向けた。


「ええ。行きましょう」



 私の小さな世界で、一番私を理解しているのは、ロザリー。

 でも、外に出てしまったら?


 最大の理解者が、他にいるかもしれない。という、小さな恐怖が、私の心に潜んでいた。

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