37.真っ赤
ちょっと、グロテスク表現をしています。予め、ご了承ください。
「ロザリー。嘘と言って」
「…すみません。あれは嘘でも、幻でもありません!」
分かってた。分かってたけど、ロザリーに言われた瞬間、本当に現実だったと気づく。
あのバンパイアの集団…城にいた、召使い達だ…
「ロザリー、みんな確実に逃がしたんじゃ無かったの!?」
「逃げきれなかったのでしょうか…?」
そう言いながら、彼女は疑問符をつけている。確実に逃がしたつもりだったんだろう。あの、召使いにはもったい無いロザリーよ。そんなドジ、起こすはず無い。
じゃあ…どうやって…?
「バンパイアは、嗅覚が人間よりよく効くらしいです」
「…」
「ルシフェル伯爵様やサタン様は、魔術を使える…」
「…」
「何を私が言いたいか…わかりますか?」
…完全犯罪は無理だった。でしょ?
私達は、人知を超えた能力を彼らが持っていることを、完全に忘れてしまっていた。
多分、伯爵は逃げていった召使いを全員捕まえて、バンパイアにした。そして、私を追わせるように仕向けた…
「アレクさんが言ってた。理性の無いタイプのバンパイアだって」
「サラ様を追いかける以外、考えられないようにしたんでしょう…」
彼女は伏し目がちにつぶやいた。
怖い…怖いよ!
アンドリューやクレイグが、私の友達の召使いと戦うだなんて…して欲しくない!
そう思った時には、私の足は走り出していた。
「サラ様!」
彼女の声は届かない。
「アンドリュー!」
私は叫んだ瞬間、目の前が真っ白になってしまった。
あ、あたま…?
あたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたまあたま…
「キャーーーーーーー!!!!!!」
私は何が起きたか、全くわからなかった。苦しい。怖い。寒い。辛い。わからない。助けて。
「おい、サラ!出てくるなと言っただろう!」
私は、アンドリューの姿を凝視する。…あれ?真っ赤だよ…?
「アンド…」
そうつぶやいた瞬間、私のご飯を作ってくれていたシェフが、彼の首筋に牙を剥いた。一瞬で気づいたアンドリューが、至近距離で、彼の首をはねた。
転がるあたま。おびただしい血。アンドリューの緑の服が赤に染まり、私の頬を生暖かい液体が伝っていく。
私は、重力に引かれるように、ぐちゃりと座り込んだ。
「アンドリューのばか。私の…私の大切な人を…!」
私の目から、透明な血が流れ出した。二つの血は、私の心をかき乱していく。
「ばか!アンドリューの、アンドリューの…っ!」
私は逃げ出した。すべてのものを捨てて…
俺は、一瞬呆然としてしまったが、すぐに気を引き締めた。
目の前の敵を無視できない。全部消す。全員、天国へ送ってやる…そう思って行動しなきゃいけねーのに。
俺は次々と敵を倒していった。クレイグはもちろんだが、アレクさんの剣が恐ろしい。首を一瞬で切りつけ、他に怪我を絶対させない。
他人から見たら、この勇姿は恐怖にしか見えないんだろう。だが、これはきっと彼のポリシーからだ。アレクさんは、こんな風にバンパイアにされた人間を、救済するために戦っている。一度バンパイアにされたら戻れない…そう、割り切って。
「アンドリューさん!」
…ロザリー?
俺は敵から距離を置き、彼女の元へ走った。
「どうした!?今、忙し…」
「罠です。これは、絶対罠です!」
ロザリーが必死に目で訴えた。冷静沈着な彼女にしては珍しい、恐怖で起こる震えをしていた。
「今、わかったんです。アンドリューさんは、必ずバンパイアを殺めることに対して、ちゅうちょがない…と」
「…」
ど、どういうことだ…?
俺は、ばかだ。こんな言い回しされたら、どう答えればいいかわからない。
「つまり、アンドリューさんがサラ様の大切な友達を殺して、サラ様がヒステリーを起こすことを、やつらはわかっていたのです。きっと、あなたが渡したバンパイア対策のグッズも、すべて捨てて行くだろうと…」
その瞬間、俺はやっとこの事態の深刻さに気がついた。
「今頃、サラ様はまんまと罠にはまり、今頃バンパイアの誰かに捕まって…」
俺はロザリーの言葉を無視して走り出した。
アレクさんはもちろん、クレイグもとても強い。俺がいなくても大丈夫だろう。信頼してるぞ…!
…ぞわり。
バンパイア…近くにいる…!
きっとそこにサラも!
俺は、そんなヤマカンで、道を選ぶ。
待ってろ…バンパイアになるな、サラ!




