36.嘘と言って
その冷たい風を、アンドリューとロザリーも感じ取ったらしい。クレイグも、酔いながらも、フラフラと起き上がった。
「奴らだ」
アンドリューが呟くと、階段を駆け下りて行った。私もつられて行こうとしたが、一瞬止まった。
「ロ…」
「早く行ってください!」
彼女は血相を変えて、クレイグのために、コップに水を入れた。
私は一瞬はばかったが、すぐに気を引き締めて階段を下りた。
「アレクさん…」
下の部屋に行くと、アンドリューがアレクさんに詰め寄っていた。一方、アレクさんはさっきまでの酒飲み男とは違い、真剣な目で正面を見つめていた。
「理性の無いタイプのバンパイアだ。久しぶりに来たな…」
アレクがそうつぶやくと、赤い舌をチロリとみせた。獲物を狙う蛇のようで、少し怖かった。
「理性のないタイプ…?」
アンドリューがつぶやくと、だんだん彼の顔が真っ青になっていた。何かを思い出したのだろうか?彼は寒そうに腕をさすり始めた。
「理性があるやつの方が手こずる。人数は多いが、これはラッキーと思うべきだ」
そう言うと、アレクさんがのっそりと立ち上がった。それはまるで、冬眠から凶暴なクマが起きてしまったような…そんな貫禄が、まだ若いはずの彼のオーラから見えていた。
すると、アレクさんは私の方を向いた。
「お嬢さんは、ここから出るな。絶対だ」
そう言った後に私の肩をたたくと、身支度を始めた。
「サラ。これ…」
すると、アンドリューは私に彼の大切なペンダントを渡した。
「これ…持ってて」
「ダメよ、アンドリュー!あなたの大切なペンダントだし、これを持っていたら…」
「サラ。それは違う。俺はやつらを消さないといけない。逃げてもらっちゃ困るんだ。わかったか?」
私はそっと彼の宝物を持つ。そして、彼はそっと私の手を握った。
「待ってろ」
アンドリューが真剣な目で頷き、勢いよく出て行った。
「アレクさん。どうやれば、倒せますか?」
「首を切るだけだ」
「…」
さすが、フィーリング系剣士。これが精一杯の説明なんだろう。
ため息をついたら、クレイグが歯ぎしりしながら外に出てきた。
「バンパイアはどこだ!?」
「…来る」
アレクさんが呟くと、その時には近くまでやって来ていた。
…っ!
切る…切ってやる!
ロザリーが窓から声を張り上げた。
「も、もしかして、これ…」
私も窓に近寄ると、私はあっけにとられて、口を押さえていた。
…誰か、嘘と言って?




