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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
都へ
32/97

32.お久しぶりです。

 朝、私達はアンドリューの声で、目を覚ました。

 ちょっと怖くなって、アンドリューの服とかを見たが、怪我をした様子がなくて、心からほっとした。昨日の狼が怖かったから、少し…いや、かなり心配していた。

 クレイグが持ってきたパンと、湧き水で朝食を済ませ、私達は馬に乗った。

「ウォル。よろしくね」

 私が声をかけると、ウォルは少し顔を横に向けた。しかし、ウォルは私の方に目だけ向け、「ウォルさんとよびなさい」と言っているようで、少し可愛らしかった。ウォルも女の子なのね。

「さあ。行くぞ」

 アンドリューが馬を叩き、私達は都に向けて足を速めた。



「今日のウォルさんは、機嫌がいいですね」

 ロザリーさんもね。彼女も、元気に馬を走らせた。

 二人…いや、一人と一頭が元気だったおかげで、意外と都にすんなりとついた。


 都は、たくさんの人ばっかり。アンドリューの街の、約三倍…?四倍!?

 すっごいわね…

 そして、一本道の奥に、大きなお城。悠然と佇むその姿は、なんとも言えない光景だった。


「ねえ。誰か、ここに来たことあるの?」

 私の質問に、全員が同時に首を横に振る。

「じゃあ、どうしましょう?」

「そうだな。とりあえず、宿場を…」

 …宿場だらけね。

 何か違いがあるの!?

 全員で肩を落として、意気消沈。


「とりあえず、馬をどうにかしよう」

「…クレイグ。それも、どうすりゃいい?」

「…」

 チームボーイズの魂が、どこかへさよならしちゃったようだ。


 しょうがなく、私は馬からゆっくりと降りた。

「アンドリュー。私とロザリーで、とりあえず行ってみるわ。馬をよろしく!」

「「はぁ!?」」

 私はすぐにロザリーの手を握り、走り出した。

 ごめんなさいね。アンドリューとクレイグ。



 人混みで、全然前が見えない。

「あてはあるんですか?」

「無いけど、動かないと何にもならないでしょ?」

 私が答えると、ロザリーがふふふと笑った。


「どうしたの?」

「いえ…ただ、変わったなーと思いまして」

「変わった?私はそんなに変わった覚えは…」

「変わりましたよ?きっと、アンドリューさんと会ったからですね。ちょっとだけ、悔しいですけど」

 彼女の少し悲しげで、嬉しそうな笑顔は、とても可愛く見えた。


 私達はゆっくり歩いていると、目の前で何かの特売をしていた。たくさんのおばさま達が、ひっつきもっつき。…邪魔だなあ。

「サラ様。避けていきましょう」

「そうね…」

 そう言って私達は、そーっと特売組を避けて行った。すると…


「うわっ!」

 私は集団から飛ばされた誰かに、押しつぶされてしまった。

「イテテテテ…」

「大丈夫ですか!?サラ様!」

「え!?サラ様!?」

 …え?

 彼女が私から降りると、ひょいと持ち上げ、立たせてくれた。


「私ですよ!マリオンでございます!」

「「マリオン!?」」



 とりあえず、私達はすぐそこにあったカフェに入った。さっきまでの喧騒は、ドアでいい感じに小さくなり、私達はやっと落ち着いた。

 とても素敵なカフェ。人も少ないし、コーヒーを挽く音と、レコードの音しか聞こえない。私達は、自然と小声で話し出す。


「よかったですわ。サラ様が、無事で」

「ちょっと待って。なんで、マリオンは私の本名を知っているの?」

「聞いたからですよ」

 …聞いた?

「いつ?」

「サラ様の名前を、ルシフェル伯爵様が変えた時です」


 さあ。記憶を戻そう。

 私が城に連れて行かれた日。名前をつけられた日。…あれ?あ、ああ!

「私に服を着させてくれた時!?」

「そうですよ!というか、忘れてしまったのですか!?私とサラ様の初対面の日を!」

 …忘れてた。気がつかなかったわ。

 マリオンは、思いっきり頭を抱える。…ごめんなさい。


「で?どうしてマリオンさんは、ここにいるんですか?」

「ああ。ここの近くに、夫の家兼貸家があるの」

「え!?」

 私は驚きで声も出ない。そもそも、マリオンに夫がいるのもびっくりだが、それ以上に…

「ナイスタイミングすぎるわ」

「本当ですね。狙ったようにやってきましたね」

 マリオンが眉を寄せて頭を傾げた。

「マリオン。貸家の空きあったりする?」



「おせえ」

 アンドリューが呆れ顔で私達を迎えた。クレイグは、立ちながら綺麗に寝ている。

 ロザリーがちょっとつつくと、クレイグがバタンと倒れ、それでやっと目を覚ました。


「いたーっ!」

「いやー。これだけで倒れるとは思っていませんでした」

「…」

 クレイグの目に、黒い影が映る。

「ロザリー、覚悟!」

 すると、急に笑い声が響いた。…こちょこちょしてる。


「あいつらは、無視しよう」

 ため息まじりに、アンドリューがマリオンの方を向いた。すると、彼はあっと声を上げる。彼の顔から、血の気が引く。

「こ、こここここ、こんにちはぁ…ま、マダム…」

 アンドリューが思いっきり頭を下げる。…少し、震えている。なんで?


「あれ?あなた、どこかで会ったかしら?」

「あ、会ってません!」

 …なんで、ずっと頭を上げないの?アンドリューの顔を覗くと、彼は顔を思いっきり歪ませていた

「こら。あなた、顔を上げなさい!」

「ひいっ!」

 アンドリューが顔を上げると、ガクガク震えている。目線を私に向けて、助けを求められる。


「あなたがアンドリュー?」

「は、はい…」

「あなた…やっぱり…」

「あなたが家を貸してくれるんですね!ありがとうございます!」

 すかさず、彼はまた頭を下げる。瞬時の行動…


「まあ、いいわ。私の後についてきなさい」

「ありがとうございます!」

 アンドリューが彼女が遠くに行くまで、ずっと頭を下げ続けた。


「アンドリュー。どうしてマリオンを怖がっているの?」

 彼がゆっくり頭を上げると、私に苦い顔を向いた。

「気絶させたから…」

「あ…」

 時は戻ること、アンドリュー不法進入した日。彼が私の部屋に入った後、すぐにマリオンがやってきてアンドリューが気絶させた。首を絞めたはずだったよね?

 つまり…彼女はアンドリューの顔をしっかり見ていたはず。

「追い出されねーように、気をつけないと…」

「…」

 謝るという手は無いの?

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