32.お久しぶりです。
朝、私達はアンドリューの声で、目を覚ました。
ちょっと怖くなって、アンドリューの服とかを見たが、怪我をした様子がなくて、心からほっとした。昨日の狼が怖かったから、少し…いや、かなり心配していた。
クレイグが持ってきたパンと、湧き水で朝食を済ませ、私達は馬に乗った。
「ウォル。よろしくね」
私が声をかけると、ウォルは少し顔を横に向けた。しかし、ウォルは私の方に目だけ向け、「ウォルさんとよびなさい」と言っているようで、少し可愛らしかった。ウォルも女の子なのね。
「さあ。行くぞ」
アンドリューが馬を叩き、私達は都に向けて足を速めた。
「今日のウォルさんは、機嫌がいいですね」
ロザリーさんもね。彼女も、元気に馬を走らせた。
二人…いや、一人と一頭が元気だったおかげで、意外と都にすんなりとついた。
都は、たくさんの人ばっかり。アンドリューの街の、約三倍…?四倍!?
すっごいわね…
そして、一本道の奥に、大きなお城。悠然と佇むその姿は、なんとも言えない光景だった。
「ねえ。誰か、ここに来たことあるの?」
私の質問に、全員が同時に首を横に振る。
「じゃあ、どうしましょう?」
「そうだな。とりあえず、宿場を…」
…宿場だらけね。
何か違いがあるの!?
全員で肩を落として、意気消沈。
「とりあえず、馬をどうにかしよう」
「…クレイグ。それも、どうすりゃいい?」
「…」
チームボーイズの魂が、どこかへさよならしちゃったようだ。
しょうがなく、私は馬からゆっくりと降りた。
「アンドリュー。私とロザリーで、とりあえず行ってみるわ。馬をよろしく!」
「「はぁ!?」」
私はすぐにロザリーの手を握り、走り出した。
ごめんなさいね。アンドリューとクレイグ。
人混みで、全然前が見えない。
「あてはあるんですか?」
「無いけど、動かないと何にもならないでしょ?」
私が答えると、ロザリーがふふふと笑った。
「どうしたの?」
「いえ…ただ、変わったなーと思いまして」
「変わった?私はそんなに変わった覚えは…」
「変わりましたよ?きっと、アンドリューさんと会ったからですね。ちょっとだけ、悔しいですけど」
彼女の少し悲しげで、嬉しそうな笑顔は、とても可愛く見えた。
私達はゆっくり歩いていると、目の前で何かの特売をしていた。たくさんのおばさま達が、ひっつきもっつき。…邪魔だなあ。
「サラ様。避けていきましょう」
「そうね…」
そう言って私達は、そーっと特売組を避けて行った。すると…
「うわっ!」
私は集団から飛ばされた誰かに、押しつぶされてしまった。
「イテテテテ…」
「大丈夫ですか!?サラ様!」
「え!?サラ様!?」
…え?
彼女が私から降りると、ひょいと持ち上げ、立たせてくれた。
「私ですよ!マリオンでございます!」
「「マリオン!?」」
とりあえず、私達はすぐそこにあったカフェに入った。さっきまでの喧騒は、ドアでいい感じに小さくなり、私達はやっと落ち着いた。
とても素敵なカフェ。人も少ないし、コーヒーを挽く音と、レコードの音しか聞こえない。私達は、自然と小声で話し出す。
「よかったですわ。サラ様が、無事で」
「ちょっと待って。なんで、マリオンは私の本名を知っているの?」
「聞いたからですよ」
…聞いた?
「いつ?」
「サラ様の名前を、ルシフェル伯爵様が変えた時です」
さあ。記憶を戻そう。
私が城に連れて行かれた日。名前をつけられた日。…あれ?あ、ああ!
「私に服を着させてくれた時!?」
「そうですよ!というか、忘れてしまったのですか!?私とサラ様の初対面の日を!」
…忘れてた。気がつかなかったわ。
マリオンは、思いっきり頭を抱える。…ごめんなさい。
「で?どうしてマリオンさんは、ここにいるんですか?」
「ああ。ここの近くに、夫の家兼貸家があるの」
「え!?」
私は驚きで声も出ない。そもそも、マリオンに夫がいるのもびっくりだが、それ以上に…
「ナイスタイミングすぎるわ」
「本当ですね。狙ったようにやってきましたね」
マリオンが眉を寄せて頭を傾げた。
「マリオン。貸家の空きあったりする?」
「おせえ」
アンドリューが呆れ顔で私達を迎えた。クレイグは、立ちながら綺麗に寝ている。
ロザリーがちょっとつつくと、クレイグがバタンと倒れ、それでやっと目を覚ました。
「いたーっ!」
「いやー。これだけで倒れるとは思っていませんでした」
「…」
クレイグの目に、黒い影が映る。
「ロザリー、覚悟!」
すると、急に笑い声が響いた。…こちょこちょしてる。
「あいつらは、無視しよう」
ため息まじりに、アンドリューがマリオンの方を向いた。すると、彼はあっと声を上げる。彼の顔から、血の気が引く。
「こ、こここここ、こんにちはぁ…ま、マダム…」
アンドリューが思いっきり頭を下げる。…少し、震えている。なんで?
「あれ?あなた、どこかで会ったかしら?」
「あ、会ってません!」
…なんで、ずっと頭を上げないの?アンドリューの顔を覗くと、彼は顔を思いっきり歪ませていた
「こら。あなた、顔を上げなさい!」
「ひいっ!」
アンドリューが顔を上げると、ガクガク震えている。目線を私に向けて、助けを求められる。
「あなたがアンドリュー?」
「は、はい…」
「あなた…やっぱり…」
「あなたが家を貸してくれるんですね!ありがとうございます!」
すかさず、彼はまた頭を下げる。瞬時の行動…
「まあ、いいわ。私の後についてきなさい」
「ありがとうございます!」
アンドリューが彼女が遠くに行くまで、ずっと頭を下げ続けた。
「アンドリュー。どうしてマリオンを怖がっているの?」
彼がゆっくり頭を上げると、私に苦い顔を向いた。
「気絶させたから…」
「あ…」
時は戻ること、アンドリュー不法進入した日。彼が私の部屋に入った後、すぐにマリオンがやってきてアンドリューが気絶させた。首を絞めたはずだったよね?
つまり…彼女はアンドリューの顔をしっかり見ていたはず。
「追い出されねーように、気をつけないと…」
「…」
謝るという手は無いの?




