31.焚き火
馬という生き物は、結構速く走るらしい。しかし、狼も…
「アンドリュー!」
「大丈夫だ!先行ってろ!」
彼が、狼の前に立ちはだかった。
「邪魔だ。立ち去れ!」
そ、そんなので…え?
すると、狼達がそそくさと逃げていった。どういう…こと?
「カラスの時と、似ている…」
「え?」
私は、アンドリューが城に不法進入したことを思い出した。そう言えば、アンドリューはあの時も、カラスから避けられていた。…どういうことなんだろう?
「とりあえず、さっさと行こうぜ」
「うん…」
よく、わかんないなあー
かなりの距離を歩いたあと、アンドリューが不意に止まった。
「ここで寝るか」
アンドリューが声をかけると、私達は馬から降り、その場に座った。地面の匂い…気持ちいいな。
「春でよかったね。野宿も、そんなに苦じゃない」
クレイグのセリフに、アンドリューの眉がピクリと動く。しかし、彼は黙って火起こしを始める。
「でも、問題はバンパイアだね」
クレイグがポツリとつぶやく。心配そうに、彼は自分の剣を見つめた。
「アンドリューさんとクレイグさんが守るんでしょう?」
「え?」
ロザリーのセリフに、クレイグの腑抜けた声が、暗い森に響く。パチっと、火が燃えだした。
「守ってくれるから、ついて来たんです。今更、無理とか言わないでください」
彼は、ロザリーの真剣な目に戸惑っている。彼女は、服を買ってもらってからずっと不機嫌だったから、この言葉にもっと驚いたんだろう。
「ロザリー?」
「…」
「あのさ…?」
「…」
「あれ?」
クレイグが、ロザリーの顔を覗く。すると、ため息まじりに、私達に笑いかけた。
「寝ちゃったみたい。もしかしたら、今の寝言だったかもね」
彼の苦笑いが、炎の陽炎と重なる。消えそうな笑顔。でも、その彼の消えそうな笑顔で、ロザリーを守っていくのだろう。
私は、アンドリューと顔を見合わせ、小さく笑った。
ロザリーの髪をすっと撫でる姿が、とってもお似合いだ。
「でも、どうする?バンパイア対策」
クレイグが尋ねると、アンドリューは肩をすくめた。
「テントあるし、大丈夫だ」
「…何それ?」
「招かれない限り、バンパイアは入ってこれねえから、問題ない」
「でも…!」
「もちろん、焚き火をしておく。それだけでも、結構対策になると思うが?」
「…」
二人が黙り込む。クレイグはもちろん、アンドリューも少し心配なんだろう。これで大丈夫か…
「アンドリュー。俺、今から見張りするから、お前は寝とけ」
「は!?」
「俺の腕を信用していないのか?」
クレイグの目に、アンドリューはため息を吐く。
「…おやすみ」
アンドリューが雑にロザリーを持ち上げると、テントの中に入っていった。
「まだ、寝ないのかい?」
「うん。あまりにも変な日だったから、今日は眠れそうにないわ」
ふふっと笑うと、彼は苦笑いを浮かべる。
「追われてる身の上が、よく言うな」
「大丈夫よ。あなたとアンドリューがいるもの」
「俺、ロザリーに怒られたくないんだけど?」
「大丈夫。友達として話すだけ。口説かないわ」
私はにやりと笑うと、クレイグも一緒に笑った。
「ねえ。クレイグはさ。なんでウォルが私を助けたと思う?」
すると、彼はすっとウォルに目を向けた。彼女も夜だから、熟睡している。
「多分さ。ウォルにも君の気持ちが伝わったんだと思うよ」
ウォルに…?気持ちが…
「動物って不思議なもんだ。結構、俺らの気持ちを読み取れるからさ。きっと、ウォルも、サラが必死になって助けようとしているのに、気がついたんだよ」
なんだか、ウォルを急に撫でたくなった。
でも…変な人。いつもは、ちゃらんぽらんの代名詞と言わんばかりの人なのに、急に的を得たことを言ったりする。しっかりしてるか、そうじゃないか、よくわかんない人ね。
「じゃあ、もう一個質問してもいい?」
「なんなりと。お嬢様?」
お嬢様って…もう、違いますよーだ。
「クレイグも、アンドリューぐらい強いんでしょ?」
「あいつにはかなわないけどね」
「じゃあ、その剣もお揃い?」
「ああ。これ?」
すると、彼は自分の剣を、鞘からすっと取り出した。月の光にかざして見せる。
「これ、アンドリューの親父さんからもらったんだ」
「アンドリューの?」
「うん。いい人だった…」
「死んじゃったの?」
私が尋ねると、クレイグは少し口ごもった。
「…ああ。俺はアンドリューと一緒に剣術を教えてもらっていて、その時にもらった。アンドリューの誕生日に、なぜか一緒に俺も…」
「いくつぐらいのこと?」
「五歳の時…」
「え!?そんな歳で、剣なんて持っていいの!?」
「…えっとね。あいつの親父さん、持病でさ。本当は十二歳の時に渡すつもりだったらしいんだけど、死ぬ前にって」
「…ふーん」
私が不満げに答えたからか、彼は立ち上がって、私を見上げた。
「さあ。こっからは、男のエリアだ。俺は稽古をしながら、見張りをしておくから、お嬢さんはもう寝た寝た!」
私はぷーっと頬を膨らました。
もう…子供あつかいして。
「いいわ。私はもう寝るね。見張り番、よろしく」
「了解」
私が手を振りながらテントに入ると、二つの寝息が聞こえた。
アンドリューとロザリー。二人とも疲れたみたい。
私は二人にタオルケットをかぶせて、自分も夢の世界に落ちていった。
「勝手に色々喋りやがって…」
俺は自分の赤毛を払いのけた。




