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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
都へ
31/97

31.焚き火

 馬という生き物は、結構速く走るらしい。しかし、狼も…

「アンドリュー!」

「大丈夫だ!先行ってろ!」

 彼が、狼の前に立ちはだかった。

「邪魔だ。立ち去れ!」

 そ、そんなので…え?

 すると、狼達がそそくさと逃げていった。どういう…こと?

「カラスの時と、似ている…」

「え?」

 私は、アンドリューが城に不法進入したことを思い出した。そう言えば、アンドリューはあの時も、カラスから避けられていた。…どういうことなんだろう?


「とりあえず、さっさと行こうぜ」

「うん…」

 よく、わかんないなあー



 かなりの距離を歩いたあと、アンドリューが不意に止まった。

「ここで寝るか」

 アンドリューが声をかけると、私達は馬から降り、その場に座った。地面の匂い…気持ちいいな。


「春でよかったね。野宿も、そんなに苦じゃない」

 クレイグのセリフに、アンドリューの眉がピクリと動く。しかし、彼は黙って火起こしを始める。

「でも、問題はバンパイアだね」

 クレイグがポツリとつぶやく。心配そうに、彼は自分の剣を見つめた。


「アンドリューさんとクレイグさんが守るんでしょう?」

「え?」

 ロザリーのセリフに、クレイグの腑抜けた声が、暗い森に響く。パチっと、火が燃えだした。

「守ってくれるから、ついて来たんです。今更、無理とか言わないでください」

 彼は、ロザリーの真剣な目に戸惑っている。彼女は、服を買ってもらってからずっと不機嫌だったから、この言葉にもっと驚いたんだろう。


「ロザリー?」

「…」

「あのさ…?」

「…」

「あれ?」

 クレイグが、ロザリーの顔を覗く。すると、ため息まじりに、私達に笑いかけた。

「寝ちゃったみたい。もしかしたら、今の寝言だったかもね」

 彼の苦笑いが、炎の陽炎と重なる。消えそうな笑顔。でも、その彼の消えそうな笑顔で、ロザリーを守っていくのだろう。

 私は、アンドリューと顔を見合わせ、小さく笑った。

 ロザリーの髪をすっと撫でる姿が、とってもお似合いだ。


「でも、どうする?バンパイア対策」

 クレイグが尋ねると、アンドリューは肩をすくめた。

「テントあるし、大丈夫だ」

「…何それ?」

「招かれない限り、バンパイアは入ってこれねえから、問題ない」

「でも…!」

「もちろん、焚き火をしておく。それだけでも、結構対策になると思うが?」

「…」

 二人が黙り込む。クレイグはもちろん、アンドリューも少し心配なんだろう。これで大丈夫か…


「アンドリュー。俺、今から見張りするから、お前は寝とけ」

「は!?」

「俺の腕を信用していないのか?」

 クレイグの目に、アンドリューはため息を吐く。

「…おやすみ」

 アンドリューが雑にロザリーを持ち上げると、テントの中に入っていった。



「まだ、寝ないのかい?」

「うん。あまりにも変な日だったから、今日は眠れそうにないわ」

 ふふっと笑うと、彼は苦笑いを浮かべる。


「追われてる身の上が、よく言うな」

「大丈夫よ。あなたとアンドリューがいるもの」

「俺、ロザリーに怒られたくないんだけど?」

「大丈夫。友達として話すだけ。口説かないわ」

 私はにやりと笑うと、クレイグも一緒に笑った。


「ねえ。クレイグはさ。なんでウォルが私を助けたと思う?」

 すると、彼はすっとウォルに目を向けた。彼女も夜だから、熟睡している。


「多分さ。ウォルにも君の気持ちが伝わったんだと思うよ」

 ウォルに…?気持ちが…

「動物って不思議なもんだ。結構、俺らの気持ちを読み取れるからさ。きっと、ウォルも、サラが必死になって助けようとしているのに、気がついたんだよ」

 なんだか、ウォルを急に撫でたくなった。

 でも…変な人。いつもは、ちゃらんぽらんの代名詞と言わんばかりの人なのに、急に的を得たことを言ったりする。しっかりしてるか、そうじゃないか、よくわかんない人ね。


「じゃあ、もう一個質問してもいい?」

「なんなりと。お嬢様?」

 お嬢様って…もう、違いますよーだ。


「クレイグも、アンドリューぐらい強いんでしょ?」

「あいつにはかなわないけどね」

「じゃあ、その剣もお揃い?」

「ああ。これ?」

 すると、彼は自分の剣を、鞘からすっと取り出した。月の光にかざして見せる。

「これ、アンドリューの親父さんからもらったんだ」

「アンドリューの?」

「うん。いい人だった…」

「死んじゃったの?」

 私が尋ねると、クレイグは少し口ごもった。


「…ああ。俺はアンドリューと一緒に剣術を教えてもらっていて、その時にもらった。アンドリューの誕生日に、なぜか一緒に俺も…」

「いくつぐらいのこと?」

「五歳の時…」

「え!?そんな歳で、剣なんて持っていいの!?」

「…えっとね。あいつの親父さん、持病でさ。本当は十二歳の時に渡すつもりだったらしいんだけど、死ぬ前にって」

「…ふーん」

 私が不満げに答えたからか、彼は立ち上がって、私を見上げた。


「さあ。こっからは、男のエリアだ。俺は稽古をしながら、見張りをしておくから、お嬢さんはもう寝た寝た!」

 私はぷーっと頬を膨らました。

 もう…子供あつかいして。


「いいわ。私はもう寝るね。見張り番、よろしく」

「了解」

 私が手を振りながらテントに入ると、二つの寝息が聞こえた。

 アンドリューとロザリー。二人とも疲れたみたい。

 私は二人にタオルケットをかぶせて、自分も夢の世界に落ちていった。



「勝手に色々喋りやがって…」

 俺は自分の赤毛を払いのけた。

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