30.走れ!
「…」
ロザリーが、全然喋らない。オレンジの服をアンドリューに買ってもらってから、ずっと…
そんなに、センスないかしら?結構、似合うと思うんだけどなあ…
「クレイグ。ロザリーの服、変だと思う?頑張って選んだんだけど…」
「…かわいいよ?すっごく、かわいい…」
クレイグが口元を緩めながら、口ごもる。お熱みたいね。
「サラ。お前、馬乗れるか?」
「アンドリュー…私、幽閉されていたんだけど?」
「ああ。そうだった…」
そう呟きながら、彼が馬を私の方に連れてきた。そういえば、彼は馬借屋やってるんだっけ。
「じゃあ、無理してでも、乗れるようになれ」
「え…!?」
「当たり前だ。俺がサラを乗せて行ってもいいが、そんなに速く走れない。下手したら、落とすかもしれない」
「…」
「一人一頭で乗ってもらう。逃げ切るための術だ。…しょうがない」
私は、そっと馬に手を差し伸べた。急にブルブルと唸り、私はすぐに手を引く。嫌われてるの…?
「ウォルって言うんだ。人見知りするが、結構お前と似ていると思うぜ?」
アンドリューがキラキラとした笑顔を、私に向ける。馬と似てるって…どういうことよ。
「ウォルくん。ごめんね。ちょっと重いかも…」
「ウォルは、女だぞ?」
「…」
ブルブル!
…今、絶対怒られた。無茶苦茶怒られた!
「ウォル。お前は賢いんだろ?だから、こんな天然お嬢様ぐらい、簡単に乗せられるよな?」
アンドリューのイケメンフェイスのおかげか、ウォルさんはすぐに機嫌を直す。…もしかして、私、ライバル化しちゃった?
「ウォ、ウォル…さん」
ブルブル!
きゃ、きゃあぁぁぁ!!
ゆらゆら揺れながら、私達は都に向かう。
ロザリーも初めての乗馬のはずなのに…クレイグとケンカしながら行けるぐらい、余裕があるみたい。本気で、裏切られた気がするわ。
そして、ウォルさん。わざと腰を振って、落ちたらいいのに…と思っているような態度。アンドリューが私に声をかけたら、もっと腰を振るし…喋らせないようにしているわ。
「おい、クレイグ。どっちの道に行くか?」
「んー。左の方は早いけど、道が細い。そして、右は遠いが、大きな道…」
「なのに、矢印は左だけ…どういうことだ?」
「さあね」
アンドリューとクレイグが、馬から降りた。クレイグの地図と、目の前の道を見比べる。
「これ、いつの地図?」
「あのバックから出てきた時点で、察してくれ…」
「…」
アンドリューが頭を抱える。そりゃそうよね。クレイグは宿場経営をしているもん。今は彼の家族に任せているらしいが、宿場をしている人は、めったに旅に出ない。
「もういい。こっちに行くぞ」
アンドリューが選んだのは、ちょうど馬三頭通りそうな道。なんとなく、安全そうに見える道。
その道を、私達は歩いていく。
「…わかるか?」
アンドリューの声に、一瞬で空気が凍る。
「ああ。しかも、人間じゃねえ。多分、バンパイアでも…」
クレイグが、小さく舌打ちをする。人でも、バンパイアでもない…?じゃあ、何に?
「逃げるぞ!」
「え!?ちょ、ちょっと待って!」
すると、アンドリュー達が急に走り出した。でも、ウォルさんは、全然走ってくれない!
「お、お願い!早く走って!」
しかし、彼女はすねて走ってくれない。
「お願い!あなたの身も危ないのよ!」
…無視。ばかなの!?この子!?
…ぞわり。
な、何!?
私は、恐る恐る振り返る。
「大きな…黒い犬?」
そう呟いた瞬間、ウォルが暴れ出した。私は、手綱を放しそうになる。
「ばか!そいつは、狼だ!」
狼…!?
私は、ウォルさんから落とされてしまった。い、痛い!
すると、ウォルさんが、私のことをじっと見た。何よ…いい気味なの!?
と思ったが、そうじゃないみたいだ。ずっと、その場から動かない。ウォルは、私が乗るのを待っているみたいだ。
しかし、狼は、私を狙っている。彼女を逃がさなきゃ…!
「ウォル。早く逃げて!」
私は、近くの木の棒を持って振ってみるが、全く意味がない。
ジリジリと近づいて…ガブ!
嚙みつこうとしたところを、間一髪で避ける。
…大変。これ、私死んじゃうかも…
ブロロロロ!
後ろから何か聞こえたかと思うと、ウォルが私に向かって突進してきた。ウォル!?
すると、ウォルは急に頭を低くし、私の身体を首一本でふわっと浮かす。
ヒヒーン!
私が綱を持つ暇もなく、ウォルは走り出した。私は、落ちそうになるのを、必死に抑える。
「ウォル!早く来い!」
アンドリューの叫びに、ウォルも答える。
ちょっと待ってよ。この状況を見ても、その言葉を言いますか!?
…気絶しそう。




