28.おさらい
「サラ。よかったな。逃げられて」
「うん!」
私が満面の笑みで答えると、二人分の「え!?」が聞こえた。
「オディールじゃないの!?」
「オディールじゃないのか!?」
…あれ?あ、ああ!
「もう、自由だ。隠す必要は、もうないんじゃないか?」
目の前の彼に諭され、私はゆっくりと頷いた。
誰も追ってこないから、私達はのんびりと馬を歩かせていた。右に左に、ゆっくり進む。真っ暗のはずの森は、なぜか木漏れ日が見えていた。
こんな世界だからね。言おうと思ったのは…
「あのね。昔、ルシフェル伯爵が、私の名前が気に入らなくて、名前をつけたの。それがオディール。だから、私の本当の名前は、オディールじゃないの」
「じゃ、じゃあ…オディール様の本当の名前は?」
恐る恐る尋ねた彼女に、私は優しく答えた。
「サラよ。やっぱり、こっちの名前の方が、かわいいでしょ?」
そう言うと、なぜかロザリーの目に水が溜まっていった。
「やっと…やっと教えてくれましたね…!」
感無量、とはこのことを言うんだろう。彼女の涙は、すっと頬を流れて、白いエプロンにシミをつけた。
「ロザリー…」
クレイグが、ロザリーの頭をそっと撫でた。一度触っただけで、それ以外、彼は何もできなかった。その代わり、というべきなのか、黙って馬にまた一歩歩かせる。
「じゃあ、おさらいしましょうか」
私が空気を変えるようにアンドリューに言うと、彼はとぼけた顔をして肩をすくめた。
「アンドリューがリーダーなんでしょ?あの計画について、出来るだけ詳しく教えて」
「…知らねーよ。監督、演出はそこの毒舌メイドだ」
「はい?」
え?さっきまで泣いていた女子のボイス?
彼女の声で、急に空気を凍らせる。すると、クレイグが、ちょっと肩を縮める。
…ロザリー。私対応と、ボーイズ対応の違いすごいね。
でも、ドスの効いた声を出している割には、ロザリーは静かにクレイグと一緒に馬に乗っている。意外とお似合いかもよ?
アンドリューと目が合い、彼は隣の馬に苦笑いを浮かべる。
「…わかりましたよ。話せばいいんでしょ!話せば!」
ちょっとキレ気味に、彼女は話し始めた。
「私は、お嬢様が本当に恋をしているってわかってすぐに、行動を開始しました」
「行動って?」
「もちろん、お嬢様を確実かつ安全に逃がす方法です」
クレイグが、ふーん。と、納得する。
すると、彼は小さく声を上げた。
「ロザリー。恋って…」
「そして、新しい秘密通路を見つけました」
「おい。話しをき…」
「それが、オディ…サラ…様?」
「サラでお願い」
「おい。俺の…」
「サラ…を、トマト祭りから連れ去った通路です」
ちょっと上から、笑い声が聞こえた。クレイグの話しが、ことごとく遮られているので、アンドリューにつられて私も笑う。
クレイグも諦めて、ブスリとする。
「あの通路から逃がす。そこから、計画を立てました」
そして、彼女は自慢げに話し出した。少し、頬が赤くなる。
「まず、アンドリューさんと、クレイグさんに話しをつけました。バンパイア相手に、喧嘩しようって」
その時に、ロザリーはあの人達がバンパイアって言ったのね。私は怖がらないように、隠していたのに…
「アンドリューさんは、牧師に。クレイグさんは、先日勝手に侵入してきた、ある男のふりをしろ。ということです」
「ある男って…」
不服そうに、アンドリューがつぶやく。
「結婚式当日、クレイグさんにマジックで、あの教会もどきを、トマト祭りの会場にしてもらいました。そして、喧騒に紛れて、アンドリューさんがサラ…お嬢様を奪いにきた、というふりをしてもらいました。いくらサタン様でも、敵を目の前にしたら、絶対にお嬢様から手を離して戦うことは、目に見えていました。その瞬間を見計らい、私がお嬢様を通路を使ってさらった、ということです」
あれは、全て偶然が重なってできたと思った。すべて、ロザリーの計画…?ただ者じゃないわ…
「あの通路は、お嬢様の部屋の建物につながっていました。そして、トラブル発生。お嬢様が、気を失ってしまいました。しかも、剣士達が、なかなかやってこない…戦闘に発展してしまったのは、近くにいなかった私でも想像がつきました」
「…ロザリーちゃん。お言葉だけど、このトラブルは許容範囲内でしょ?」
「いいえ?」
ロザリーがとぼけて見せるが、きっと、できる自分アピールをしたくないんだろう。…この行動も、アピールになっちゃってるけどね。
そのことを感じ取ったクレイグが、話し手を交代した。
「最初、俺とアンドリューは、サラを逃したら、すぐに一緒に逃げろって言われていたんだ。でも、俺は後でロザリーに呼び出されたんだ。『戦闘に発展したら、屋根から逃げ道を作る。完全勝利は諦めて』って」
「…なんで、言わなかったんだ?」
「『血気盛んなアンドリューさんじゃ、先にこのことを言ったら、絶対戦闘に持ち込むからやめて〜』って」
「…」
クレイグのテンションは、アンドリューの手を震わせる。
…ロザリーの言ったことは正論だけど…ねえ?
「それで、お嬢様がさっさと目が覚めるように、必死に叩きまくりました。お嬢様が起きたらすぐに、屋根に登って、穴を開けました。もちろん、事前に予定していた場所は、木の枝を払っておいたので、バンパイアが通れないように対策しておきました。えらいでしょ?オディール様!」
「サラ…もういいわ。オディールでも」
ロザリーのキラキラお目々にはかなわない。そんなにかわいい顔でこちらを向いたら、クレイグが落ち込むわよ?
「ちなみに、城の周りの木は、ほとんど切ってしまったので、あそこはしばらく晴れですよ〜」
ああ。だから、葬儀の時、あんなに明るかったのね。
本当、この子は、逃走に関しては、天才的ね。
「わかりましたか?…サラ!」
「ええ。わかったわ」
あなたがとっても有能ってことがね。
次回からです!
次回から、新シリーズ始めます!
お楽しみに!
Bye, see you next story...




