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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
チェンジ
28/97

28.おさらい

「サラ。よかったな。逃げられて」

「うん!」

 私が満面の笑みで答えると、二人分の「え!?」が聞こえた。


「オディールじゃないの!?」

「オディールじゃないのか!?」


 …あれ?あ、ああ!

「もう、自由だ。隠す必要は、もうないんじゃないか?」

 目の前の彼に諭され、私はゆっくりと頷いた。

 誰も追ってこないから、私達はのんびりと馬を歩かせていた。右に左に、ゆっくり進む。真っ暗のはずの森は、なぜか木漏れ日が見えていた。

 こんな世界だからね。言おうと思ったのは…


「あのね。昔、ルシフェル伯爵が、私の名前が気に入らなくて、名前をつけたの。それがオディール。だから、私の本当の名前は、オディールじゃないの」

「じゃ、じゃあ…オディール様の本当の名前は?」

 恐る恐る尋ねた彼女に、私は優しく答えた。


「サラよ。やっぱり、こっちの名前の方が、かわいいでしょ?」


 そう言うと、なぜかロザリーの目に水が溜まっていった。

「やっと…やっと教えてくれましたね…!」

 感無量、とはこのことを言うんだろう。彼女の涙は、すっと頬を流れて、白いエプロンにシミをつけた。

「ロザリー…」

 クレイグが、ロザリーの頭をそっと撫でた。一度触っただけで、それ以外、彼は何もできなかった。その代わり、というべきなのか、黙って馬にまた一歩歩かせる。



「じゃあ、おさらいしましょうか」

 私が空気を変えるようにアンドリューに言うと、彼はとぼけた顔をして肩をすくめた。

「アンドリューがリーダーなんでしょ?あの計画について、出来るだけ詳しく教えて」

「…知らねーよ。監督、演出はそこの毒舌メイドだ」

「はい?」


 え?さっきまで泣いていた女子のボイス?

 彼女の声で、急に空気を凍らせる。すると、クレイグが、ちょっと肩を縮める。

 …ロザリー。私対応と、ボーイズ対応の違いすごいね。

 でも、ドスの効いた声を出している割には、ロザリーは静かにクレイグと一緒に馬に乗っている。意外とお似合いかもよ?

 アンドリューと目が合い、彼は隣の馬に苦笑いを浮かべる。


「…わかりましたよ。話せばいいんでしょ!話せば!」

 ちょっとキレ気味に、彼女は話し始めた。




「私は、お嬢様が本当に恋をしているってわかってすぐに、行動を開始しました」

「行動って?」

「もちろん、お嬢様を確実かつ安全に逃がす方法です」

 クレイグが、ふーん。と、納得する。

 すると、彼は小さく声を上げた。


「ロザリー。恋って…」

「そして、新しい秘密通路を見つけました」

「おい。話しをき…」

「それが、オディ…サラ…様?」

「サラでお願い」

「おい。俺の…」

「サラ…を、トマト祭りから連れ去った通路です」

 ちょっと上から、笑い声が聞こえた。クレイグの話しが、ことごとく遮られているので、アンドリューにつられて私も笑う。

 クレイグも諦めて、ブスリとする。


「あの通路から逃がす。そこから、計画を立てました」

 そして、彼女は自慢げに話し出した。少し、頬が赤くなる。


「まず、アンドリューさんと、クレイグさんに話しをつけました。バンパイア相手に、喧嘩しようって」

 その時に、ロザリーはあの人達がバンパイアって言ったのね。私は怖がらないように、隠していたのに…


「アンドリューさんは、牧師に。クレイグさんは、先日勝手に侵入してきた、ある男のふりをしろ。ということです」

「ある男って…」

 不服そうに、アンドリューがつぶやく。


「結婚式当日、クレイグさんにマジックで、あの教会もどきを、トマト祭りの会場にしてもらいました。そして、喧騒に紛れて、アンドリューさんがサラ…お嬢様を奪いにきた、というふりをしてもらいました。いくらサタン様でも、敵を目の前にしたら、絶対にお嬢様から手を離して戦うことは、目に見えていました。その瞬間を見計らい、私がお嬢様を通路を使ってさらった、ということです」

 あれは、全て偶然が重なってできたと思った。すべて、ロザリーの計画…?ただ者じゃないわ…


「あの通路は、お嬢様の部屋の建物につながっていました。そして、トラブル発生。お嬢様が、気を失ってしまいました。しかも、剣士達が、なかなかやってこない…戦闘に発展してしまったのは、近くにいなかった私でも想像がつきました」

「…ロザリーちゃん。お言葉だけど、このトラブルは許容範囲内でしょ?」

「いいえ?」

 ロザリーがとぼけて見せるが、きっと、できる自分アピールをしたくないんだろう。…この行動も、アピールになっちゃってるけどね。

 そのことを感じ取ったクレイグが、話し手を交代した。


「最初、俺とアンドリューは、サラを逃したら、すぐに一緒に逃げろって言われていたんだ。でも、俺は後でロザリーに呼び出されたんだ。『戦闘に発展したら、屋根から逃げ道を作る。完全勝利は諦めて』って」

「…なんで、言わなかったんだ?」

「『血気盛んなアンドリューさんじゃ、先にこのことを言ったら、絶対戦闘に持ち込むからやめて〜』って」

「…」

 クレイグのテンションは、アンドリューの手を震わせる。

 …ロザリーの言ったことは正論だけど…ねえ?


「それで、お嬢様がさっさと目が覚めるように、必死に叩きまくりました。お嬢様が起きたらすぐに、屋根に登って、穴を開けました。もちろん、事前に予定していた場所は、木の枝を払っておいたので、バンパイアが通れないように対策しておきました。えらいでしょ?オディール様!」

「サラ…もういいわ。オディールでも」

 ロザリーのキラキラお目々にはかなわない。そんなにかわいい顔でこちらを向いたら、クレイグが落ち込むわよ?


「ちなみに、城の周りの木は、ほとんど切ってしまったので、あそこはしばらく晴れですよ〜」

 ああ。だから、葬儀の時、あんなに明るかったのね。

 本当、この子は、逃走に関しては、天才的ね。

「わかりましたか?…サラ!」

「ええ。わかったわ」

 あなたがとっても有能ってことがね。

次回からです!

次回から、新シリーズ始めます!

お楽しみに!


Bye, see you next story...

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