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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
チェンジ
27/97

27.さよなら、黒。

 …ちっ。

 あれ、結構やばい毒が塗ってあるぜ。

 あの太刀が地面をかするたび、大理石っぽい地面が、ちょっと溶ける。当たったら、まずいぜ…

 大きな太刀を避けるため、距離をとって、走り回る。…いっこうに近づけない。これじゃ、永遠に仕掛けられねー。


「アンドリュー、危ない!」

 クレイグの声がして、パッと殺気がする方を向いた。

 …は、伯爵!?

 大きな牙を持ったじじいが、飛びながら襲いかかってきた。


「どりゃぁぁーー!」

 クレイグが叫びながら、伯爵を横に切り倒した。


「お一人様、ごあんなーい」

「ばか。首切らねーと、殺せないんだぜ?」

「あれ?そうだっけ?」

 クレイグが余裕の笑みで、とぼけて見せる。

 背中合わせに立つ彼は、とても頼りになった。いつものクレイグとは、大違いだ。


「まあ、助かった」

「どーも」

「やっぱり、お前はマジシャンより、剣士の方が向いてる。俺と互角でやりあえるんだから」

「んー。考えとく」

 そう言って、彼は自分の剣を、伯爵にすっと向ける。さっきとは違う、真剣な顔で。


「逃げよう」

「…は?」

「結構あいつ切ったんだけどさ…全然終わんなくって。面倒だし、ずらかろうぜ」

「おい、クレイグ!」

 俺が怒鳴った瞬間、彼は俺の足を地面にのめり込ます勢いで踏んだ。


「お前の役目は、彼女を守ることだ。ここで、犬死することじゃねえ」

 …珍しく、正論言いやがって。


「作戦、あるんだよな?」

 俺の耳に、彼は小声で説明する。

「そんなこと、わざわざ言う必要ない」

「えー?」

 クレイグ…余裕だな。

 まあいい。始めるか。



 目覚めた時、その光景に目を疑った。

 …え?私の…部屋!?

 もう、来るとは一切思っていなかったので、本気で驚いた。布団の匂いが、なぜか懐かしく感じる。


「オディール様!ああ。やっと起きましたね」

 ロザリーの顔が、泣き笑いで、私に抱きついた。

「オディール様!オディール様!」

「ロザリー…!もしかして、私が死んじゃったとでも思った?」

「いいえ!計画が狂いそうで、ヒステリーを起こしそうになったんです」

 …けろりと言わないで。そんなに、なぜ?みたいな顔しないで…


「さて。起きた後すぐで申し訳ございませんが、早く行きますよ」

「い、行くって、どこへ?」

 すると、彼女は人差し指を、上に向けた。



 嫌いな作戦だ。こんなに不安がある。だけど…心のどっかで、このスリルを味わっている自分もいる。

 …あー。おかしいな。


「アンドリューよ。友人を犠牲にするのかい?」

「えー?そんな風に見えるー?」

 クレイグが、サタンと対峙する。

 あいつは、いつもそうだ。強い敵に対して、口の態度と身体の態度に、差ができる。

 声は、挑発しまくっている。かなり、態度がでかい。なのに、体勢は全然違う。顎を引いて、鷹のように睨みつける。敵を尊敬しているように。

 これは、普通かもしれない。でも、彼のおかしな殺気の出し方は、俺には真似できない。


「わしを甘く見るなよ」

「ふっ…見てねーよ」

 伯爵さんが、バンパイアらしいマントを、コウモリのように広げる。

 サラを何年もの間、拘束できていたんだ。結構な力量があるのは、言われなくてもわかるさ。


「いくら楽な相手だとしても、絶対切るな」

「ああ」

 クレイグの計画…いや、絶対、あの切れるメイドの計画だろうが、そのためには、伯爵は『しばらく』切っちゃいけない。

 そのくらいなら、誰だってできるさ。

 ただ…タイミングだけだ。


 伯爵は、思いの外強かった。空を飛んでくれているだけで、結構危ない。上に避けられないのは、かなりきつかった。

 ただ、サタンの戦いの後じゃ、かなり楽だった。

 不意に、クレイグの方を向いた。…押されている。

 攻めは諦めて、剣は持っていないから身軽だけど、疲れが見え出している。

 …いつだ。いつ来るんだ!


 バリ…バリバリバリ!


 木のクズが落ちてきて、思わず上を向いた。…時間だ。

 俺は瞬時に伯爵を切りつけた。不意を突かれて、さすがの伯爵も、しばらくは動かないだろう。

 その後、俺はすぐに振り返った。


「アンドリュー!」

「行くぞ!」

 声をかけられ、俺はクレイグの方へ走り出した。

「いっせーのっ」「せ!」

 俺は彼の手で作られた踏み台に乗り、一気に飛ばしてくれた。俺はクレイグの頭を超え、宙を舞う。


「さらばだっ!サタン!」

 すると、すぐにサタンは、俺の攻撃をあの太刀で抑えた。


 …ビンゴ!

 俺の後ろから現れたクレイグが、サタンの腕をガシッと持った。

 クレイグがサタンの骨のどこかを外し、太刀がするりと落ちる。彼はサタンの腕を掴んで、振り回す。


「ふっ飛べーー!!」

 彼はハンマー投げの要領で、サタンを壁に投げつけた。

 凄まじい音を立てて、やつは打ち付けられる。

 彼はサタンを見て、鼻で笑った。


「キャラ被りしやがって…髪を血の色で染めろ」

「そうなると、俺と被るんだけど?」

 すると、後ろでまた、凄まじい音を立てて、何かが…屋根が落ちてきた。

 眩しいけど…これは、未来への光だ。

「助けに来ましたよー」

 おせーよ。毒舌メイドと…天然お嬢様。



「堂々と出て行って、大丈夫なの?」

「ああ。伯爵は結構疲れているはずだし、サタンは壁に埋め込まれている。安心しろ」

 …壁に…?

 ちょっと、手荒いんじゃない?まあ、いいか。


「さあ。お嬢様?」

「アンドリュー。ひどいわ」

 私はふっと笑って、彼の手に私の手を重ねる。大きな手で、私の心がちょっと落ち着く。

 なれない馬に私はゆっくりと乗った。動物の命の音がする…目の前の色が、カラフルになっていく。


「逃げよう。サラ」


 アンドリューが私の後ろに乗り、馬をパシッと叩いた。

 私がアンドリューに笑いかけると、彼も笑う。


 素敵な世界に、私は足を踏み入れた。

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