26.悪魔の坊ちゃん
どこかに…どこかに落ちていく。
というか、ここ、どこなのよ!?
その事が確認できる前に、私は気を失った。
「オディールは、どこへ行った!?」
「さーね。誘拐されたんじゃない?」
俺は、目の前の男に向かって、嫌みたらしい笑顔を浮かべる。だめだな。戦いで一番大切なのは、『クール』でいることだ。怒りに任せて、剣を振るうのは、ばかがすることだ。
『召使い以外は、全員バンパイアよ。気をつけて』
緊張感、一切なしに言ったロザリーの姿を思い浮かべる。…あいつ、俺が死んでも、それはそれでいいかな?ってぐらいにしか思っていない。
本当に、俺を何だと思ってるんだ。さすがの俺も、怪物と手合わせをしたことはないぞ?
「名乗れ」
「やーだね」
「なぜだ」
「理由がないから」
俺は、片足でステップを踏みながら、やつの心をかき乱す。
「俺の名は、サタンだ」
「へえ…サタンってことは、悪魔君なんだね」
「…!」
「じゃあ、言わないといけないか…俺の名前は、アンドリュー。かっこいいだろ?悪魔君」
「その呼び方を、やめろ!」
やつの牙がキラリと光ると、一瞬で俺との間を縮める。勢いよく、サタンの口が閉じられ、俺はぱっと横に飛んだ。うわっ…噛まれたら、痛そー。
俺が体制を立て直すと、サタンはにやりと笑い、何かをつかむように右手を握った。現れたのは…太刀!?
ま、まずいな。俺より…いや、サタンよりでかい太刀だ。少ない光を集めるように、やつの武器はギラリと光る。しかも、さっきからトマトが太刀に当てられているのに、すぐに蒸発する。
…わけわかんねーよ。あのトリックが。
クレイグ…お前、バンパイアに負けたな。
「ふっ…怖じ気づいたか」
「さすが、生ける屍。目がもう死んじまったか?」
俺はにやりと笑ったが、状況はかなり悪いのは、俺の身体が一番分かっているようだ。冷や汗が、すっと落ちていく。腕の震えが止まらなねえ。こりゃ、武者震いじゃないだろうな…
彼が、ブンと腕を振る。あんなに大きな太刀なのに、スピードがおかしい。速すぎる!
バク転をして避けるが、耳元で風の音がした。パッと、数本の赤髪が落ちる。
また、恐ろしい刃先が俺の前に襲って来る。俺はすぐに剣で対抗するが、火花が散る。やべえ。剣のダメージが…!
その音がしたからか、その場にいたバンパイア達が、すぐさま逃げていく。
「おめえらも逃げろ!早く!」
俺が歯ぎしりをしながら言うと、召使い達が震えながら逃げていった。
…これでよかった。これでいいんだ。
俺の力量じゃ、こいつに勝てねえ。…挑発した時点で、俺の負けは決まってたのか。
その時、不意にサラの姿を思い出した。
…ちょっと待てよ。もし、俺が負けたらどうなる?俺が死んだら…サラのことを守るやつはいなくなる。そしたら…この男は、サラのことをバンパイアにするんじゃないだろうか?
「死んでられなねー…」
「は?」
俺は鼻で笑った後、太刀を跳ね返して、距離をとった。
「ここでくたばってらんねーってことだ!悪魔の坊ちゃんよ!」




