25.トマト祭り
「あっれー?結婚式と聞いていたのだが、これじゃあ、まるで葬式だ。ひどいねえ」
そう言いながら不敵に笑うと、クレイグは少しかびた燕尾服を翻した。
私は、名前を呼ぶのを、間一髪で抑える。これって、もしかすると…ロザリーが何か知っているの?
「こんな黒ばかりなら、僕の服はもっと奇抜な色の方がよかったかな?」
そして、上着を脱ぎ、闘牛士のように、両手でばさりと音を立たせた。持ち上げた服から覗く彼の目が、ダイヤモンドのようにキラリと光る。
「美しき花嫁へ。僕からのプレゼントを受け取ってくれるかい?」
「皆の者。やつは、わしの城に不法進入した男だ!とりおさえろ!」
ルシフェル伯爵は、勘違いしている。この人は、クレイグよ!アンドリューではないわ!
そう叫ぼうとした瞬間、クレイグの声に遮られた。
「レディース・アーンド・ジェントルマン!さあ。赤い血しぶきを!」
な、なんでそんな不吉なことをっ!
そう思った瞬間、彼の燕尾服から真っ赤なボールが、宙に舞う。あれって…と、トマト!?なんで、トマト!?なんで!?
その赤の軍団達は、天井の近くまで飛んだあと、急にここが地球だったと思い出したかのように、私達の方に出撃してきた。
悲鳴と歓喜が入り混ざる。落ちてきたトマトが痛そうだけど、赤い血に似た液体が頭にふっかかって、興奮しているのだろうか?
この喧騒に乗じて、次々と召使い達が入って来る。片手には、熟したトマトをバスケットに入れて。
そうして、トマト祭りが始まる。投げて、投げて、投げて。べちょん、ばちょん、けちょん!
…全員、解雇決定ね。私は、片方の口角をピクピクさせる。
しかし、隣にいるサタンが、急に私のことを守るように…いや、私が逃げないように、ぎゅっと抱きしめた。
「早く…!早く捕まえろ!オディールをとられるぞ!」
血相を変えて、彼は叫ぶ。いくら大好きな赤色でも、こんなに無差別にやって来られたら、怒りを隠せないのだろう。
サタンが少し爪を噛むと、私をちらりと見た。
「いっそのこと、今すぐお前を俺のものにしてやろうか?」
大きな牙が、私の顔の色を変えていく。
「それは、無理さ。俺が…彼女のナイトがいるからね」
…ない…と?
そのときだ。光が差し込んだように見えたのは。
そして、彼はローブをすっと外した。トレードマークの緑の服が覗く。ニア神父から現れたのは、私が最も会いたい人物だった。
「このアンドリューがいる限り、サラは絶対渡さねえ」
サタンの首に、アンドリューの真っ直ぐな剣が、向けられる。
「…へえ。不法進入者って、お前のことか?」
「失礼なことを言うな。俺は道に迷っただけだ」
…いや。不法進入者には、変わりないと思うが…
「黙ってサラから手を離せ」
「はっ!バカな。こいつは、俺の嫁だ。だいたい、この女の名は、オディールだ。間違えるな」
「間違えているのは、お前だっ!」
その瞬間、アンドリューの手から、一つの赤い実が放り投げられた。ちょうど、彼の金髪の上に、赤が塗られていく。
…彼のこめかみで、恐ろしいほど怒っていることがわかる。
アンドリュー、彼はバンパイアなんだよ!そうそう簡単に、ケンカを売ってはいけないの!
その心からの叫びは、かき消されてしまう。
「邪魔だっ…!」
サタンの手が私から離され、アンドリューと対峙する。彼は牙を剥き出し、アンドリューが剣を構える。
「…なーんてね」
アンドリューがふっと笑うと、私は誰かに背中から掴まれた。真っ赤な袖だけど、この服は…召使いの!?
「オディール様。行きますよ!」
「…!?」
ロザリー!ロザリーなのね!
そうホッとした瞬間、自分の身体が、すっとどこかに落ちた。お、落ちた!?
「きゃあーーーーーー………」




