24.白い葬儀
真っ黒なドレス。いつもと全然変わらない。ただ単に、ボリュームが増えただけだ。
私は、そのウエディングドレスを着ても、その程度の感想しか浮かばなかった。
きれいだとは思う。でも、ただそれだけ。喜びも、悲しみも…何も浮かばない。
ああ。私はここまで堕ちてしまったのね。と、自傷的な笑顔をするしか、今の私ができることはなかった。
コンコン…
いつもより、弱々しい音。きっと、サタンではない。
そう思って、私は自らドアを開けに行った。
「ロザリー…」
「オディール様。ご用意ができました」
「用意って?」
「…あなた様の葬儀です」
葬儀…だなんて、不吉なこと言うから、もしかして結婚式のことを指しているのではないかと思った。
しかし、本当に葬儀らしくって、結婚式を予定していた場所とは反対側の、召使いがよく使う場所に案内された。
そこは、驚いたことに太陽が見えていた。 窓にカラフルなセロハンを貼ったおかげで、とても美しい光の世界だった。私は見たことがないが、教会のステンドグラスはこんな感じなのだろう。本で読んだ時に想像した光景と、とても似ているし。
そして、目の前にいるたくさんの召使いたちは、私は初めて見る白い服に身を包んでいた。
この様子に、私は昔読んだ物語を思い出した。たくさんの精霊たちが、ある1人の男を囲んで踊る物語。現世かあの世か見分けがつかなくなる、美しい物語を。
「オディール様。本日が太陽を見られる最後の日でございます。今晩、サタン様にバンパイアにされてしまった後に太陽の下に行くと、あなた様は灰になってしまう。オディール様。この景色は、今日で最後でございます」
念を押すマリオンの姿は、なんとなく悲しそうに見える。
私は太陽とは特に縁がない。でも、縁がなかったとしても、当たり前にあるものがもうないと思うと、やっぱり悲しいものがあった。
しょんぼりしている私の横に、ロザリーは硬い表情で立った。
「そして、オディール様。私たちといられるのも、これで最後です。私たちは、結婚式に参加することができません。そして、生ける屍になった後のオディール様とも…」
生ける屍。
そのセリフが、私の胸に刺さった。これから…私、死んじゃうんだ。永遠の命を得ることにより…死んじゃうんだ。
そして、マリオンが袖を振りながら、私たちに別れの挨拶を促した。
何人ものの召使いが、涙を流しながら、私との思い出をたくさん語った。
そして、最後にロザリーの番が回ってきた。
「オディール様…」
「もう…やめてよ。私のことを、オディールって呼んでちょうだい」
そう私が言うと、ロザリーが下げていた顔をすっと上げた。
しかし、その顔は、私はきっとバンパイアにされるだろうという話をした時のような、涙でぐちゃぐちゃな顔ではなく、かなり冷静を保っている表情だった。
「ロザリー。どうした…の?」
「オディール様。今日の結婚式に、知っている人がやってきても、人名を言ってはいけません。絶対に、です」
「え…それって…?」
「オディール様!ああ、幼きころからの友よ!」
いきなり、劇団みたいなテンションでこないでよ…
しかし、その振り切ったふざけ方から、言及するな!と言われているみたいで、しょうがなく私は彼女のエチュードに乗ってあげたのだった。
ルシフェル伯爵のエスコートで、私は前へ進む。サタンがいる方へ、バンパイアへの道へ、着実に進んでいる。
右にも左にも、長椅子にいかにもお偉い方たちが、狭そうに座っている。
時々見える歯は、多分、私を狙っているのだろう。ひどい話だ。
ルシフェル伯爵の冷たい手が離れると、次に若々しい冷たい手が待っていた。ルシフェル伯爵は、年齢的に冷たくても納得はギリギリできる。でも、サタンのような、「青年」と呼ばれる年の人間の手が氷のように冷たいのは、気色の悪いものだった。ああ…サタンは、バンパイアだったわね。
そして、私と彼は、練習通り前に進んでいく。
目の前には、真っ黒なローブを着た男が立っていた。神父…?とは、ちょっと違うんだろうが、まあ、九割はあっているだろう。
「ミスター・サタン。あなたは、ミス・オディールを永遠に愛することを誓いますか?」
…面倒な、言い回し。眠たくなるわよ?
その時だった。
バン!
「ちょっと待ったー!」
…う、そでしょ?
私は生きてきた間で、ここまで驚いたことはなかった。ここまで自分の目を疑ったことはなかった。
な、なんで…
なんで、クレイグが、ここに来るのよー!?




