表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
チェンジ
23/97

23.悪魔の口説き

「…オディール様?」

「お願い。黙っていて」

 私は、ロザリーの声を遮った。


 きっと、自分の後ろ姿は、悲哀に満ちた背中なのだろう。でも、本当の私の感情とは、全然シンクロしていなかった。

 空っぽな感情。それ以外、何も当てはまらない。

 私のまぶたが、ゆっくりと下がっていく。すべて、なかったことにするように。すべて、黒にしてしまうように…

 その時、私は涙を流したことを、気づくことができなかった。

 …彼女は、気づいたが。



 黙っていても、結婚式が近づくだけ。でも、そのことについて、私は特になんとも思わなかった。

 自分がバンパイアになるのは嫌だ。ロザリーとさよならするのだって…

 でも、諦めている。もう…どうでもいい。そう思わないと、なんだか変になりそうだから。


「なあ。オディールさん」

 私が窓から目を離し、招き入れていないはずの客を確認した。

「サタン。いつきたの?」

「さっきですよ」

 すると、私の近くに彼は跪いた。その姿が一瞬アンドリューと重なるが、すぐに現実に戻らさせる。目の真剣さが、やっぱり違う。


「いつになったら、俺の方を向いてくれるのですか?」

「…どういうこと?」

「俺は知ってるんですよ。不法侵入者に恋をしたらしいですね」

 そのセリフに、私は一瞬歯ぎしりをしかけた。ルシフェル伯爵ね…アンドリューのこと、そんな風に言ったのは。

「やっぱり、同じ種族のことを好きになってしまうのはわかります。俺なんて、バンパイアってわかるだけで、運命を感じますからね」

 …それは、絶滅危惧種だからでしょ?ちょっと気の抜けた声に、私は思いっきり呆れてしまう。


「だいたい、君はバンパイアに育てられたのでしょう?自分のことを、もうバンパイアと思っちゃった方が…」

「あんな伯爵さんが、私を育てたと思うの?」

 私の挑戦的な視線に、サタンは呆れ顔を浮かべる。

「でも、これまで生きてこれたのは、ルシフェル伯爵様のおかげなのでしょう?」

「サタン。理屈詰めに解釈しないで。あいつは金で私買ったの。金で育ててきたの。生きてこれたのは、伯爵様のおかげかもしれないけど、育ててもらったとは意味が違うわ」

 すると、急に彼は私の目を真剣に覗いた。


「でも、君は俺と結婚するために、もらわれた子なのだろう?」

「…そうだけど」

 そして、サタンは私の横に座った。

「じゃあ、好きになれよ。俺のものになれよ」

「…!」

 その強引さに、むかつくを通り越して、呆れてくる。彼は私に色気を出してくるが、そもそも、ロザリーに牙を剥いた男だ。好きになるわけない。


「それとも…今、君を無理矢理俺のものにしようかな?」

 その冷徹な声に、私は背筋を凍らせた。振り向きたくない。振り向いたら、何か悪いものを見てしまう気がしたから。

 でも、その心の欲求より、もっと違う欲求が勝ってしまったみたいで、嫌でも後を振り返ってしまった。

 後にあったのは、私の予測通り、彼の真っ白な牙だった。 その牙の奥から見える歯肉が、彼の歯の白さを際立たせていた。


「…なんてね。そんな方法で捕まえるだなんて、俺のポリシーに合わないから」

 そんな優しいセリフを言われても、私の心は悪い意味で高鳴る。

 …気に入らない。やっぱりこの人、嫌いにしかなれない。

 でも、結婚式まではバンパイアになる事はないだろう。

 その事実だけで、私はなんとなくほっとしてしまったのだ。




「アンドリューさん。本気で、オディール様のことを守ると誓ってください」

「…ロザリーらしくないな。何か企んでるだろ?」

 彼女は図星と言わんばかりの表情を見せて、俺に向かって堂々とため息をついた。ロザリーはしょうがないと心の中から聞こえるかのような態度で、俺にほぼ不可能な計画を話した。

 俺の嫌いなタイプの計画だった。無鉄砲で、成功率が低くて…でも、俺にやれと言わんばかりの計画。


「…本気か?」

「本気ですけど?」

「相手は、伯爵なんだろ?」

「伯爵相手だったら諦めていいんですか?」

 …こいつ、正論吐きやがって。ほんとにこいつ、召使いにはもったいない人材だ。

「しゃーねーな。乗ってやるよ。でも、期待するな。俺は、万能人ではない」

 おかしいな。期待するなと言ったはずなのに、彼女はサラにしか見せない満面の笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ