表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
チェンジ
20/97

20.決心

 部屋に戻り、私はアンドリューとの再会の余韻に浸っていた。すると、ロザリーが私の目の前で手のひらをブンブンと振った。

「オディール様…あなた様は、アンドリューさんにちゃんと婚約について説明したのですか?」

「え、ええ…」

 でも、その話のせいで、私が大泣きしてしまったことは、言わないでおこう。

「お相手が、バンパイアということは?」

「まだ…」

 すると彼女は、片手を腰に当てながら、自分の目を手の平で覆い隠した。


「では、なぜあいつは、あんなにつきまとってくるのですか!?」

「ロザリー。アンドリューは、雪の上に落ちた私の命を助けたのよ。第一、彼は迷ったからここに来てしまったの。つきまとうは、違うんじゃない?」

「…申し訳ございません」

 ロザリーがふてくされながら、消えかけた暖炉に薪を投げ入れた。真っ赤な炎が、彼女の顔を美しく染めていった。彼女のそばかすが気にならないぐらい、とても綺麗に…


「…もういいです」

「えっ?」

 私のふぬけた声に、ロザリーがため息混じりに私の方に向き直った。

「オディール様は、アンドリューさんのこと好きなのでしょう?」

 …好き?

 そんなこと言われても…私は、好きの意味だなんて、よくわからない。

「もういいです。認めますよ。それで、結婚をやめたってもいいです」

 そして、彼女は「でも…」と言うと、私を鋭い目で見つめた。


「ご自分の幸せ以外にも、他人の幸せも考えた行動を心がけてください」

「他人の幸せ?」

「ええ。まだわかりませんが…」

 ロザリーが、唇を少し噛んだ。

「もしかしたら、オディール様の行動が、アンドリューさんを傷つけるかもしれない。ということです」

 その言葉を聞いた瞬間、自分が青ざめていくのに気がついた。

 アンドリューが傷つく…私をカラスから守ってくれた時のように…?いや、きっと、それだけで済まされない。あの、白骨死体のように…なってしまうんだ!そんなの、そんなの…


「お相手は、バンパイアということを、お忘れなきよう」

 彼女は胸に手を当てながら、私に頭を下げた。



 その次の日、城の壁が前までよりも高くなっていた。理由は…わかっている。もしかしたら、拷問されるのは、時間の問題かもしれない。

 そして、何故か、カラスの数が今まで以上に増えていた。アンドリューが、たくさん倒したはずなのに…

 …ルシフェル伯爵の魔の手が、確実にやってきているのに、私は気づいていないふりをしていた。



 ある日、私はロザリーに頼んで、マリオンを呼び出した。

 しかし、仕事が忙しかったからなのか、晩餐までやって来なかった。


「オディール様。遅れて申し訳ございませんが、もうすぐ晩餐です。短めに頼めますか?」

「ええ。最初から、話すことは決まっていたから」

「もしかして…」

 マリオンは私の心を読み取るように、私の目を覗き込んだ。


「私は、バンパイアと結婚する決心がつきました」


 すると、彼女の表情が、石像のように固まった。何も、言い返せない、という顔で。

「マリオン。あのね。私のせいで傷つけたくない人がいるの。それは、街で会った人もそうだけど、マリオン。あなたのためでもあるの。私がバンパイアと結婚せず、逃げたら…きっと、あなたは残って時間稼ぎをするでしょう?そんなの…私、耐えられないわ。だから、私は結婚する」

「しかし、拷問は!?」

「私がなんとか説得して、ルシフェル伯爵を黙らせるわ。わかった?」

 私の圧に負けたのか、マリオンはしゅんと肩を落とした。


「私の幸せは、オディール様の幸せです。どうか、自由になってくださいませ…」

 彼女はきっと、逃げるための用意や、覚悟がもう出来ていたのだろう。でも、私は、マリオンを死なせたくない。だから…ごめんなさい。

 そう心で謝ると、私はマリオンの横を静かに通って、晩餐に向かった。



 案の定、ルシフェル伯爵の顔は、真っ赤であった。クリスマスの時のマリオンによく似た色に染まっている。

「オディール。昨日、賊が入って、わしのカラスを滅茶苦茶にされた。心当たりはあるか?」

「いいえ。何も」

 薄暗い部屋の中、やつの目がギラリと光ったように感じた。


「オディール。正直に…」

「縁談の件。あれは、いつになるのですか?」

 私が尋ねると、彼は一瞬目の光が鈍った。

「あ、ああ…近日中にはこの城を訪れるそうだ」

「そうですか…」

 私がゆっくりとサラダを噛み締めると、急に寒気が襲ってきた。これが、拷問の術ね。と、今度は冷静に考えられる。


「オディール。何を企んでいる?」

「何も」

 私の耳元で恐ろしい声が聞こえるが、私はなんとも思わない。さすが、十二年間も無心を貫いてきただけあるわね。

 もっと寒気が増すが、今は冬だ。厚着をしすぎている私には、冷静を保つことぐらい、ちょろいものであった。


「食事中に立ち歩くなど、はしたないことは、おやめになられたらいかがですか?」

 私が隣の顔をギロリと睨むと、意外にも大人しく彼は戻って行った。

 席に着くのを確認すると、私はナイフとフォークを皿に置いた。


「伯爵様。取引しません?」

 私は、伯爵が気に入りそうな、悪い笑みを浮かべる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ