表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最後のクリスマス
2/97

02.私の小さな世界

 一日の出来事なんか、絶対覚えない。と、いうより、覚えられない。

 だって、本当につまらないのですもの。覚えられるはずがない。

 五歳までの記憶だって、ほとんど忘れた。



 でも、一つだけ覚えている事がある。

 私の誕生日の、十二月二十五日。

 そう。私はクリスマスに生まれたんだ。


 クリスマスでは、伯爵は夜になっても起きたりはしない。きっと、聖夜だからだろう。

 なので、私たちはその日までに睡眠時間を増やし、クリスマスは一日中起きて、仲が良い召使いたちと遊ぶのだ。



 引き取られた後で知ったのだが、召使いはみんなバンパイヤではなく、私と同じで人身売買で買われた人間だそうだ。だから、私と召使いとは友達のような関係だ。




 そして、十七回目のクリスマスがもう少しで来るある日、召使いのロザリーが、私の部屋を訪ねた。


「お嬢様。クリスマスが近づいてきましたね」

「ロザリー。お嬢様はやめてくださる?」

 私はそっと読みかけの本を閉じた。



 ロザリーは、私と同い年の召使い。いつも、茶色の髪を二つに三つ編みでくくり、おさげにしている。そばかすが鼻の上にあるがチャームポイントで、彼女の自慢らしい。


 すると、ロザリーはふふっと笑い、私に駆け寄った。


「オディール様。気持ちはわかりますが、こんなにも美しいあなたをお嬢様と言う以外、何と呼べばよろしいのですか?」

「あら、お口が達者ですこと」

 私は苦笑いをしてため息をつき、真っ暗な窓の外を見た。

 私のセミロングの黒髪が、闇に溶け込んでいき、白い肌と青い目を異様に目立たせる。


 …この窓の奥の世界には行けないのね。

 窓に映る私は、この世界には合わない顔をしていた。



 オディールとは、白鳥の湖に登場する悪魔の娘の名前だ。妖艶、きらびやかという表現が似合うキャラクター。

 だけど、どちらかというと私は大人しい方で、召使いは私のことをよくフランス人形のようだと言う。

 ルシフェル伯爵がわざわざつけてくれた名前通りには、私は育たなかったみたい。



「ねえ、今年のクリスマスは何をしましょう?」

 私は横目でトランプを見た。


「今年もトランプよね?絶対そうよね!」

 私のお気に入りの、綺麗な絵柄のあのトランプ。毎年ポーカーもババ抜きも負けているけど、そんなの忘れちゃうぐらい綺麗。

 …まあ、負けたとしても、クリスマス以外ではあんなに大人数でトランプはできないから、とっても楽しみ。


「まあ。そんなこと言って、また負けてしまうのでは?」

「し、失礼ね!」

 負けてもいいのよ!別に!!

 でも…とロザリーが呟くと、ニヤリと笑った。


「でも、オディール様。今年は街に行きましょう」

「え…?街へ?」

 ロザリーはニヤリとした笑みを浮かべた。


「ええ。召使いみんなで何年も前から決めていたのです。ね?行きましょう?」

 彼女はまるで姉におねだりをする妹のように手を引っ張った。


 でも、私はルシフェル伯爵のあの大きな牙が私の脳裏を掠めた。


 私はルシフェル伯爵と始めて会った時、ルシフェル伯爵と私との間で駆け引きが始まった。私が悪いことをしたら、ルシフェル伯爵に血を吸われて、死ぬ、または感染してバンパイア。何もしなかったら、私はいつまでも人間。

 だから…私はあいつに逆らわない。そういう、戦いなの。


「きっと、ばれてしまうわ。それに…ばれたら、ロザリーの方がまずいんじゃない?」

「ああ、何を言い出すと思えば…」

 すると、ロザリーは呆れた様子で、どかりとベットに座った。

 あらら。召使いらしくない態度ね。


「あのですねえ。昨年、私達はあんなにどんちゃん騒ぎしたのに、ルシフェル伯爵様はピクリともしなかったのですよ?一日ぐらい、消えてたって大丈夫、大丈夫〜」

「あら、そう?」

 そういえば、昨年はひどかった。私の広い部屋で踊ったり、歌ったり、椅子取りゲームをしたり…よく起きなかったわね。耳に何か悪いものが詰まっているんじゃないかって、期待してしまったぐらい。

 街に…行ってもいいのかしら?


「じゃあ、トランプは?」

「街だって、真夜中にはみんな寝静まります。だから、帰ってからでも遊びましょう」

 まあ、それもそうね。でも、ロザリーったら…悪い子ね。


「そうね。ロザリー…」

 …考えるだけでも、しましょうか。



 でも…心が躍る。冷静なんて保てない。


 この森では降らない、雪っていうものが本当に降るのかしら…?真っ白で、ふわふわなのよね。

 それに、きっとみんな、カラフルで素敵なドレスを着ているのよね。私は…デザインはいいかもしれないけど、黒ばかり。聖夜に真っ黒な服なんて、着て行ってもいいのかしら?



 そんなことを悩み始めた自分に向けて、思わず失笑してしまった。

 街へ行くだなんて、絶対ありえないのに…


 なのに…おかしいわ。

 とても、楽しい。



 見失いかけていた感情に気づき、なぜか私はホッとした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ