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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
チェンジ
19/97

19.敵の襲撃

 コツン、コツン。

 真っ暗な穴から、一人の足音が聞こえる。それにつれて、アンドリューの姿がだんだん薄くなっていく。

「アンドリューさんは、相当の切れ者なのか、ただのばかなのか…本気でわからなくなりますね」

 逆光で彼女の顔はわからないが、きっと、呆れながらも、信用した顔をしているのだろう。俗に言う、『ツンデレ』とは、こう言うことを指すのかしら?

「さあ。オディール様。早く行きましょう。この通路を、早く隠さないと…」

「そうね」

 ロザリーと私が中に入ると、彼女は鎖を強く引っ張った。静かに背中のドアが閉まっていく。パタンと少しホコリを立てながら、私達は閉じ込められた。


「アンドリュー。すぐそこにいるのでしょう?できれば止まってくれない?真っ暗で何も見えないの」

「早く慣れろ。あと…声潜めて」

 彼の緊迫した空気に、私とロザリーは思わず手をつないだ。

 アンドリューのおかげでか、すぐにこの秘密通路がただの通り道じゃないことがわかった。…いや、秘密通路の時点で、普通じゃないけれど。

 何かわからない物が。とてつもなく、大きな何かが…近づいている気がする。でも、いくら目が慣れてきたと言えど、その正体に気づくことができない。

「気づくか?多くの殺気、多くの目が、俺達を睨んでいる。それも…人間じゃない」

 その時、私は急に恐ろしい予感をしてしまった。…まさか、ル、ルシフェル伯爵…!?


 パアァァァン…!

 アンドリューが、不意に手を鳴らした。あまりにも大きな音で、私の肩がピクリと震える。

「…カラスだ。なのに…奴ら、消えねーぞ!」

「…」

 アンドリュー。だから、それは違うと思うわよ。


「くそっ…100羽はいるぜ。こいつら、カラスのくせに、すごい殺気を出しやがる。…ただのカラスじゃないらしいな」

 私は、カラスだなんて見つけられない。なのに、彼は数までわかっている。アンドリューって…なんだかんだ言って、すごい人なのかも…

「ロザリー。今から、俺が石を投げる。それとは反対に逃げて、一旦身を隠せ」

 彼女は答える代わりに、私の前に立って身構える。


 カツン。カラカラカラ…

「行きましょう」

 ロザリーが私の肩を持って、横に逃げる。

「カァ、カァー!」

 アンドリューが声マネをすると、一気に彼めがけてくちばしが飛びかかる。

「そんなに下手だったか?」

 彼がにやりと笑って、剣を鞘から出した。その剣先が、少し不気味にに光る。

 …まるで、小さな台風が現れたかのようだ。攻撃してきたカラスが、一気に体制を崩していく。

「今晩のメニューは、焼き鳥だっ!」

 そう言った瞬間、彼はカラスの身体に、穴を開けた。


「あ…!」

 その無残さに、私は思わず腰を抜かして、地面に手をついてしまった。すると、汚らしい白い棒に私は触れてしまった。…これが、白骨死体と完全に理解するには、かなり時間がかかった。

「きゃ、きゃぁぁぁぁーーーーー!」

 腕が震えると同時に、私は、自分が命の危機にあっていることに気がついた。

 カラスが全部、私に向かってやってくる…!声に出ない恐ろしさに、私の目を閉じることしかできなかった。

 その瞬間、目の前に大きな何かが立ちはだかった。


「…っ!」

 アンドリューの痛々しい声がする。彼はすぐに立て直し、見事な剣さばきでカラスを倒していく。

「ロザリー!すぐに彼女を抱えて、外に出ろ!俺もすぐに追う!」

「わかった!」

 ロザリーが私の肩を持って、ゆっくり歩かせる。

 アンドリューが怪我をしたのは…私のせい?


「早く行け!オディール!」

 間違えてサラと言わないんだから、まだ、精神的には大丈夫なはずだ。

 彼は、私達の後ろを守りながら、カラスの大群を確実に減らしていく。

「もう、外に出れます!」

 ロザリーの声と同時に、目の前が開けていく。



 アンドリューが、間一髪でカラスを秘密通路に閉じ込めた。

 思わず、同時にため息をついた。

「さあ。早く行きましょう。アンドリューさん」

 ロザリーは一切感謝せず、冷たい態度で彼を案内した。



「ロザリー。二人にしてくれない?」

 私がお願いすると、彼女は目を大げさに開けてリアクションして見せた。でも、すぐに折れ、わざとらしく呆れた仕草をした。ロザリーがアンドリューを一瞬睨むと、肩をすくめながら立ち去った。


「アンドリュー。ありがとうね」

「お前。嘘ついただろ?」

 私の感謝の言葉を、すぐに遮った。

「…こっちでも、オディールと呼ばれているじゃないか。城の外だから、偽名を使った訳じゃないんだろ?」

「…」

「サラって名前が、お前の名前なのか?オディールが、お前の名前なのか?はっきりしろ!」

 私は黙ってそっぽを向いたが、彼の強い眼差しに負けてしまい、しょうがなく彼の目を見た。


「サラってのがね。私の本当の名前。でも…それを知っているのは、あなたと伯爵だけなの」

「よくわかんねーんだけど?」

「…私がここに来た時、伯爵が私の名前が気に入らなくて、オディールって名前をつけたの」

「だから、ロザリーも…」

「…うん」

 私がしゅんとしながら、彼を上目遣いに見た。すると、アンドリューが重々しい表情で、私を見つめる。

「つまり、サラは…」

 そこで言葉を止めると、彼は私から目を逸らした。

「…ごめん」

「いいのよ。嘘ついていた私の方が悪いわ」

 そう、私はからりと笑うと、アンドリューが私の頭にそっと手を乗せた。


「また来る。必ず…来るよ。今度は、迷わないように気をつける。そして、ロザリーに見つからないように、もね」

 いたずらっぽく笑うと、彼は、食料庫の穴に姿を消した。

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