18.ミッション・イン・ポッシブル!
「マリオンの服を借りましょう!」
「こいつを盾に、ここから出よう!」
同時に出た言葉は、二人とも違っていた。
アンドリューがかっこつけていたから、同じだと思ったのに…
「おい。サラは俺に、追い剝ぎじみたことをさせたいのか?」
「でも、それしか方法がないじゃない!」
「女の服を盗んで変装するほど、俺は落ちぶれてはいない」
落ちぶれたとか、どうとかの問題じゃないでしょ…
「だいたい、アンドリューみたいなのっぽが、マリオンの後ろに隠れられる訳ないじゃない」
「こんなに図体でかい女なら、俺は余裕だ」
…そんなセリフを言う時点で、結構落ちぶれているわよ。
矛盾したことを言っちゃって…本当に、彼はばかなのね。
そうなると、どうしたらいいのよ。
彼は一応不法侵入者。朝になったら、まだ簡単に脱出できるかもしれない。でも、召使いに見つかったらまずいし、ルシフェル伯爵に急に会ってしまう可能性も否めない。伯爵のカラスがアンドリューを見つけて消えたのは、もしかしたら、彼が入ってきたのを報告するためかも…
あー!どうやって、彼を逃がそう!
コンコン。
…え?
こ、こんなタイミングに、誰よ!
「オディール様。失礼します」
な、なんとかしなきゃっ!
「ロ、ロザリー!どどど、どうしたの?」
「あの…大きな物音がしたので。もしかして、オディール様が何かにぶつかったのかと…」
ロザリーの目が、マリオンに止まる。
「大丈夫よ〜私が、少し足を滑らしただけだから〜」
「…」
アンドリュー、それは苦しいわ。
アンドリューは余裕な顔でマリオンを持ち上げているが、喉を押さえながら高い声を出している。
ロザリーの表情が、恐ろしくて寒気がする。背中から、圧が出ているわよ。
すると、彼女の完璧な演技が始まった。
「どうしたのですか!?マリオンさん!頭をだらーんと下げて!調子が悪いのですか?お部屋に送りましょうか?」
「い、いいえ!別に大丈夫よぉ〜おほほほ…」
そして、ロザリーはマリオンの後ろに回り、ギロっと彼をにらみつけた。
「何でいるんですか?アンドリューさん!!」
事情をロザリーに説明すると、彼女は口角をピクピクさせながら、腕を組んだ。
「アンドリューさんの身体能力と、ばか度を甘く見ていました」
「は?お前の大事なご主人様助けたんだぞ!感謝ぐらいしろよ」
「じゃあ、今から私があなたを助けるので、感謝してください」
その声に、私とアンドリューは顔を見合わせ、同時にロザリーを凝視した。
「不法侵入者と言えど、私は人をそう簡単に見捨てることはできません」
アンドリューが苦い顔をしながら、目をそらした。彼はほんの少し、自分のサラサラヘヤをいじる。
「お前の力借りなくても、自分は自分で守れるし、ここから出る力ぐらいはある」
「私はあなたのために言ってるんじゃありません」
出ていきかけたアンドリューを、彼女は冷ややかな声で止めた。
「あなたが見つかって迷惑がかかるのは、私達、召使い。それ以上に迷惑がかかるのは、オディール様です。あなたが無事に帰れるかどうかなんて、関係ありません」
すぐに、アンドリューがムッとした顔をする。
彼らの間に、火花が…犬猿の仲というのは、こういうことを言うのね。
「とりあえず、マリオンさんを、まともな場所に移動させておいてください。風邪引きますから」
ロザリーが一瞬、私に子供のようなふてくされた表情を見せる。
私が小さく手を合わせると、彼女は優しいため息混じりに、ここから出て行った。
私は、ロザリーが嫌がらせをするためにメイド服を持ってくると思ったが、男物の召使いの格好を持ってきた。とてもすらっとした、綺麗なシルエットのタキシードだ。ふざけたことができないような、結構まずい状況なのだろう。
「いいですか?アンドリューさんは、オディール様の召使いです。今からオディール様に話す時は、敬語を使ってください。また、召使い同士でも敬語を使ってください」
へいへいと面倒そうに答えると、彼はメガネをつけてぐらっとよろけた。
「おい!これ、伊達眼鏡じゃねーのかよ!」
「この城で、変装する必要性はありませんので」
ロザリーが冷たく言い放つと、ドアを開けた。
「なあ。サ…オディール…様。おま…あなた様は来ない方がいい…よろしいかと」
ふふ。アンドリュー。敬語が使えなかったら、銃士になれないわよ。
「アンドリューは、メガネで前がよく見えていないのに、まともに歩けるの?それに、こけかけた時、ロザリーに頼りたいの?」
「…」
彼は黙って、私の一歩後ろから、袖を引っ張った。誰からもばれないように…
本来、これは逆でしょ?と思いながら、なかなか見せない可愛らしい彼に、私は少し嬉しく思った。
「…ぜってー走るなよ」
私はニコリと笑って答える。ロザリーが、少し睨んでくるが、ムシムシ。
久しぶりに私が部屋から出たおかげか、何度か私達は召使いに声をかけられた。しかし、ロザリーがこれまた美しくかわしていく。あの子…本当に、召使いにはもったいない子ね。
でも、ちょっとまずいと思ったからか、彼女はすっと壁を動かした。…え?ええ!?
「秘密通路を使いましょう。ここなら、ほぼ安全に食料庫に行けます」
真っ暗な道は、下に下にと続いている。
すると、ロザリーは、私に向き直った。
「オディール様。あなた様はもう帰ってください。これ以上、危険な目に合わせられませんし、こんなに道の悪いところは、通ってはいけません」
「でも…」
「でも!」
私の言葉を遮って、彼は叫んだ。
「オディール一人の方がまずい思うぜ」
「…そうなの?」
私が尋ねると、ロザリーが舌打ちをしかけた。
「伯爵はオディールを嫁に出そうとしてるんだろ?それは不幸な結婚だから、お前は止めている。でも、ガードマンがいなくなったら、急にさらってどっかに消えちまうかもしれないぜ?」
そして、彼はメガネを取って、代わりに剣を腰に構えた。
「足元はロザリーが守れ。俺は、それ以外の全部を守るから」
振り返った彼は、少しネクタイを緩めた。




