17.ミッション・イン・ポッシブル?
「なんで…こんなところに…?」
私はもうろうとする頭で、ゆっくりと起き上がった。ポロリと私のおでこから、アンドリューの濡れたハンカチが落ちた。
ハッと気がついて、私はアンドリューを凝視した。
「アンドリュー!なんで、こんなところにいるの!?」
「なんでって…道に迷った」
「迷ったからって、勝手に入ってきちゃ…」
「お前が落ちた瞬間を見たんだよ。サラさんは、今が冬ってことを忘れてこんな態度をとっているのかい?」
アンドリューの面倒な言い回しの後、私は口を尖らせながら、謝った。
私は、あれ?と思い、小さく首を傾げた。
「あなた…どうしてここに入れたの?しかも…カラスもいない」
私は周りを見渡した。
この城は、とてつもなく大きな壁が周りを囲んでいる。私がうさぎを見つけた後、知らぬ間に現れたのだ。それに、カラス。私はよくわからないけど、マリオンが恐れて、違うルートで街に行く方法を教えたのだ。あのたくさんのカラス達は、ルシフェル伯爵の使いというのは違いない。
「お前…忘れたのかよ。俺は、剣士見習いだぜ?こんな壁なんて、銃士試験の壁に比べたら、薄くて低い壁だ」
「でも、カラスは?」
アンドリューは、にやりと笑うと、手をパシンと鳴らした。あまりの音の大きさに、私は肩をピクリとあげた。
「これで、いなくなった!」
「…」
アンドリュー、多分、それ違うわよ。
「そんなことより、君がここにいたことの方が驚きだよ。まさか…こんなに近くにいただなんて」
「そんなに近いかしら?」
彼にとっての『近く』は、私の定規じゃ『近く』じゃないということを、口から出ないようにする。
だいたい、アンドリューの格好、かなり遠出用じゃないの?と、じっと彼の服を見る。赤茶色の髪が生える、黄緑の長袖シャツ。それに、深緑のベスト。茶色のズボンのベルトには、いろんなものが下げてある。剣もそうだけど、ポケットみたいな小さなカバンもかかっている。
それに…あれ?
「ねえ、アンドリュー。これ、何?」
私は、ベストから覗いたペンダントを触った。綺麗な模様が入っている、バツの形のペンダント。一緒に、銀色の丸いチャームも付いている。
「これ、ロケットペンダントだよ。中に写真が入っているんだ」
アンドリューが、ぱかりとロケットを開けると、何枚かの写真が現れた。一枚目は、クレイグの偶然にもマジック成功時の写真。二枚目は、ある女の子との写真。…誰よ、この子。胸が少しきゅーっとしめつけられる。
「これは、クレイグ。で、この子は、俺の妹」
「あ、ああ…そうなのね」
私は何故か動揺を隠せないでいた。
「あと一枚目入るんだ。すごいだろ?」
すごいって言われても…普通のロケットがどんなのかわかんないから、なんとも言えない。
「それより、これは?」
「ああ。これ、知らない?」
アンドリューが、もう一つのチャームを手に取った。
「十字架。俺、一応キリスト教徒だし。ちょっと、不真面目だけどさ」
彼の苦笑いが、とっても可愛い。私は、不覚にも、彼ともっと話したくなってしまった。
でも、私の中に一応正気があったみたいだ。
「そんなことより!アンドリュー」
私はじっと彼のことを見た。
「今すぐ、帰らないと!伯爵に…怒られちゃうから」
「…そんなに、伯爵が嫌いなのか?」
「大っ嫌い」
「親父なのにか?」
「親じゃないよ。あんな人…」
「でもな。いくら嫌いでも、血が繋がった…」
「違うの。本当に、血が繋がってないの。私は、あくまで養子だから」
「養子って…どういう意味?」
「それは…」
私は、うまくごまかそうと思ったが、アンドリューの澄んだ瞳に負けてしまった。
しょうがなく、私は何故伯爵の養子になったかを話した。しかし、彼がバンパイアということを抜いて、だが。
「なるほど…そりゃ、まずいや」
アンドリューが、大きな壁を見上げた。
「でも、帰れる自信もねーしな…」
困っているアンドリューを見て、思わず、とてつもなく滑稽な提案をしてしまった。
「食料庫から、帰れるわ」
なんてことを言っちゃったのかしら…
私を引っ張りあげてくれているアンドリューを見つめて、思わずため息が出た。
この城には、一つしか中に入る門がない。だから、先にアンドリューが壁を登り、私の部屋に入り、そのあと、私をあげてもらっているのだ。
「ほら。着いた」
アンドリューが、私に手を差し出した。
部屋に入れたはいいけれど、ここからどうしよう…このままじゃ、この部屋から出れない。
コンコンコン…
…え?
マリオン!?
「どうしよう!アンドリュー!マリオンが、マリオンが!」
「落ち着けって。というか、マリオンって誰?」
「オディール様?」
ノック無しに入って来たマリオンを、彼は…「うぐっ」
「アンドリュー!何したのよ!?」
「敵かと思って、倒した」
「倒した!?」
首を絞められた彼女は、口から泡を出しながら、ぱたりと倒れている。
「大丈夫。気を失っているだけだ」
「そういう問題じゃないでしょ」
私は、顔を覆いながら、マリオンを見た。
…あ!
「アンドリュー。いい考えがあるわ」
「偶然。俺もたった今、名案が浮かんだよ」
きっと、同じだろうね。と、彼はずる賢い子供のように笑った。




