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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
チェンジ
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15.究極の選択

「オディール様。大丈夫ですか?」

 久しぶりのロザリーとの会話で、彼女は私を心配してくれた。それだけの事実で、私の心は安らいだ。


「ええ。大丈夫よ。少しだけ…ひどい風邪を引いたような気分だっただけよ」

「ああ、やっぱり…」

 ロザリーは、こめかみを押さえながら、唇を噛んだ。彼女の表情が、恐ろしく青ざめている。

「とにかく、早く部屋に向かいましょう。温かい紅茶を用意しているので…」

 つまり…こうなることは、ロザリーとマリオンは予測できたということ?

 そう思ったけど、きっと聞かなくても答えてくれると思い、黙って彼女の後ろを歩いていった。



 ロザリーがコンコンと戸を叩くと、音もなく扉が開いた。小さく頭を下げながら召使いの一人が出て行くと、ロザリーが私より先に部屋に入っていった。

 彼女は寒かったからか、すぐに紅茶をカップに注ぎ、両手でそっと包み込んだ。


「ねえ、ロザリー。どうしちゃったの?いつも以上に、感情的だわ」

 ロザリーが背中を震わせながら、潤んだ目で私を見つめた。小さい時に見つけた、うさぎによく似た、彼女の目だった。

「オディール様。ルシフェル伯爵様のあれ…ご存知でしたか?」

 あれって言われても…文章が成立していなくて、よくわからない。

「オディール様は、あの魔術にかかったのは初めてなのですか?」

「ま、魔術!?」

 ルシフェル伯爵が、魔術!?そんな話、聞いたことがなかった。

「実は…私はつい最近初めて聞いたのですが、ルシフェル伯爵様は魔術で拷問をするそうなんです」


 拷問…!そこで、急に私の記憶の紐が、全て繋がった。

 なぜさっき、うさぎの事件を思い出したか…それは、拷問の呪文の記憶が思い出されたから。あの時、ルシフェル伯爵は、私に拷問をしたんだ!

 そして、私はガクガクと震えることもできず、固まってしまった。

「ね、ねえ。もし、ロザリーがお皿を割らなくて、私の意識が戻らなかったら?」

「きっと…アンドリューさんの名を言ってしまったでしょう」

 一瞬でアンドリューの無残な姿が目に浮かび、嗚咽を漏らしながら口を押さえてしまった。


「オディール様。ここからは、私が」

 急に電気が消えたかと思うと、クリスマスの時のように、ろうそくを持ったマリオンが現れた。

「ロザリー。オディール様の部屋に入ったら、すぐに電気を消して、ろうそくをつけなさいと言ったでしょう!」

「ご、ごめんなさい!」

 ロザリーが思わずカップを落としかけた。そのせいで、紅茶が少し溢れたが、ロザリーがエプロンで適当に拭いただけで済んだようだ。

 マリオンがろうそくを机に置くと、用心深そうに周りを見渡した。


「オディール様。これから話すことを聞いた上で、あなた様のお気持ちをお聞かせください」

 私とロザリーは、同時に息を飲んだ。マリオンが、そっと息を吸い込む。

「オディール様は、あの赤いスープは何かご存知ですか?」

 私は小さく頭を振った。が、ずっと前から何か知っていたのかもしれない。

「あれは、いつもはトマトのスープですが…時々、拷問で悪事がばれてしまった召使いの血がスープになるのです」

 私の想像力が要らぬ仕事をしてしまった。思わず、吐き気がしてしまう。

「と言っても、悪事だなんて、たかが知れています。正直言って、無差別に血が犠牲になっていると言っても過言ではありません」

 そういえば、何人か、消えてしまった人がいた。この生活が辛くて、自ら命を絶ったと思っていたが、やっぱり…スープに。

「オディール様も、うさぎを殺された事件で、魔術をかけられましたね。それと同じ呪文なのです」

 私が大きく頷くと、彼女はさっきよりもっと暗い顔になった。ろうそくの火が、マリオンの顔を明るく照らす。


「これで終わりならいいんです!でも、伯爵様は、他の魔術もきっと使えるだろうし、必ずこれで終わりのはずがない…伯爵様は、オディール様の嘘に感づいてしまいました。これから何度拷問にかけられるかわかりません。そこで、オディール様が恋してしまった彼の名を言ってしまった場合、その人は消されてしまう。もし言わなくても、オディール様の身に何かが起きてしまうのは、ほぼ確定した未来です」

 そして、マリオンは私の方をじっと見つめた。


「オディール様。わかりましたか?あなた様には、とてつもない危険が迫っています」

 少し助けを求めるように、私はロザリーを見た。しかし、彼女は横に頭を振るばかりだった。

「あなた様のお気持ちをお聞かせくださいませんか?」

 マリオンの言葉に、私のお腹がずんと重くなる。

「少し…少し考えさせて」

 私は、ろうそくの火から逃げるように、一番遠いベットに腰掛けた。

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