11.知りたい感情
ロザリーが私を見つける頃には、さすがの私も泣き止んでいた。…かなり遅かったけど、どれだけ話していたのかしら?
目が腫れないように、とアンドリューが彼のハンカチを濡らして、私の目に当ててくれていた。そのおかげで、ロザリーは私がアンドリューと何を話していたか、についていは何も言わなかった。
「ねえ。サラ。いつまで街にいれる?」
アンドリューが私に耳打ちした。ロザリーは、クレイグとまた話している。
「十二時には帰らないといけないの。だから…多分、十一時ぐらい」
「そっか。じゃあ、九時にもう一度会わない?」
え?と、私がアンドリューの方を向くと、彼は頭をかきながら目をそらした。
「ちょっと…詫びたいんだ。泣かせてしまったし」
「あれは私のせいよ」
「追い詰めたのは俺だ」
「あなたは事実を言っただけじゃない」
「でも、女を泣かせたことも事実だ」
アンドリューの真剣な態度に、私はしょうがなく折れた。
「もう…わかった。お詫び、期待しているね」
「おう」
彼が照れ笑いをすると、私はその姿に思わず目を疑った。
…あれ?アンドリューって、こんな人だっけ?
彼の周りだけ空気が違うように感じるのは、なぜだろう?
「太陽が雪に反射して、綺麗に見えたんじゃないですか?」
ロザリーが、あごに手を当てながら、私の質問に答えた。
アンドリューとクレイグと別れ、私はロザリーと一緒に街を歩いていた。
「あ、オディール様。ホットチョコレートを売っています。マシュマロを入れたら美味しいですよ」
「ロザリー。話を逸らしていない?」
私の言葉に、ロザリーはとぼけるように頭をかしげる。
「ロザリー。あなたはそんな風に見えたことがあって?」
「ホットチョコレート、二つで」
「それより、太陽が雪に反射して、そんなに綺麗に見えるの?」
「マシュマロをたくさん入れてね」
「ロザリー!」
「オディール様!!」
ロザリーの声に私は口を開けることをやめた。店の人が、彼女の恐怖に、ホットチョコレートをこぼしてしまった。
「オディール様にはお辛いことだと思います。でも、あなた様にとって、それは知ってしまった方が辛い思いをするだけです。だから…抑えて下さい。耐えて下さい」
私は、ロザリーの言葉の意味がよくわからなかった。
みんなは持っている感情。もちろん、しゃべっているロザリーも。なのに、私はその感情を知っちゃいけない。
知ったら、辛い?でも、知りたい。
この街で、私はおかしくなった。何かわからない感情を、私は探している。
九時になった。…が。私は完全に忘れていたことがあった。
集合場所…決めてなかった!
ああ、約束を破ってしまうわ…と、うなだれていると、ロザリーは私の肩を叩いた。
「オディール様。広場で今、ダンスパーティーがおこなわれいるらしいですよ」
「ダンスパーティー?」
「ええ。もちろん、気取ったようなものではないそうですよ。どうですか?」
「そうね…見てみたいわ」
アンドリューもそこにいるのかしら?と、少し心の端で思って答えた。
さっそく、マジックをやっていたあの広場に行くと、男女が目を回す勢いで踊りちらしていた。アンドリューとクレイグも、中心で踊っている。
くるりと女性が回ると、季節はずれのお花畑に見える。マントのおかげで気がまぎれていたのに、また、黒い服を着ている自分に劣等感が現れる。…もっと、かわいい色がよかったな。
「オディール様。踊られますか?」
「え?えっと…別にいいわ。私、踊れないもの。あんなに速く動けないわ」
私が苦笑いをロザリーに向け、ダンスに見入る。
ペアが次々と変わるダンスらしく、女子の顔を見ると、どういう思いを持っているかわかりやすい。というか、面白い。
特に、クレイグ。彼にあたった瞬間、乙女達の顔は足元に向けられる。彼は足をよく踏むらしく、ひどい時は、一瞬しかペアにならないはずなのに十五回も被害が出る。
本当におかしな人だ。
そして、アンドリュー。彼にあたった女子は、うるうるの目を上目遣いで向けるのだ。そして、なぜかあたってなくても、彼の背中には、熱い視線が集まっていく。
しかし、彼は完璧なエスコートをするのに、心ここにあらず、という表情だ。
罪な人間ね。
曲が終わると、クレイグが私達を見つけ、駆け寄ってきた。…また自然と、ロザリーが私の前に立つ。
「どうかされましたか?」
「いや。またあえたね。僕はとても嬉しいよ」
「残念。私は嬉しくありませんよ」
「またまた。強がらなくても…」
「強がっていません!」
ロザリーが、また番犬みたいに、クレイグを睨む。
「サ…オディール?」
アンドリューの声がして、私は振り返った。女子の群れをかき分けてきたみたいだ。
「オディール。ごめんね。場所言うの、忘れてて」
「その割には、楽しそうに踊っていたじゃない」
「君を見つけるには、広場の中心でぐるぐるしていた方がいいかなって」
彼の理にかなっているのか、いないのか、わかりにくい言葉に私は肩をすくめるしかなかった。
「オディールは踊れないのかい…?」
「う、うまくはないわ…」
本当は、ほとんど踊れないんだけど…
彼が何を話すか困っている時、不意に上品な男の声がした。
『次はラストダンスです。男性は、好きな女性をダンスに誘ってください』
すると、私達の間に謎の間が発生した。
クレイグが優しいため息をつくと、ロザリーに跪いた。
「ロザリー様。今夜のお相手は?」
「いないけど?」
「では…」
クレイグが急にロザリーのことを引っ張ていった。
ああ…また、どっか行っちゃった。
「オディール。君もどうだい?」
アンドリューも跪き、私に手を向ける。
「オディールじゃないわ。サラよ」
私の手は、彼の手で包んでくれた。




