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黒から私は色を作る  作者: 西川 涼
最後のクリスマス
11/97

11.知りたい感情

 ロザリーが私を見つける頃には、さすがの私も泣き止んでいた。…かなり遅かったけど、どれだけ話していたのかしら?

 目が腫れないように、とアンドリューが彼のハンカチを濡らして、私の目に当ててくれていた。そのおかげで、ロザリーは私がアンドリューと何を話していたか、についていは何も言わなかった。


「ねえ。サラ。いつまで街にいれる?」

 アンドリューが私に耳打ちした。ロザリーは、クレイグとまた話している。

「十二時には帰らないといけないの。だから…多分、十一時ぐらい」

「そっか。じゃあ、九時にもう一度会わない?」

 え?と、私がアンドリューの方を向くと、彼は頭をかきながら目をそらした。


「ちょっと…詫びたいんだ。泣かせてしまったし」

「あれは私のせいよ」

「追い詰めたのは俺だ」

「あなたは事実を言っただけじゃない」

「でも、女を泣かせたことも事実だ」

 アンドリューの真剣な態度に、私はしょうがなく折れた。

「もう…わかった。お詫び、期待しているね」

「おう」

 彼が照れ笑いをすると、私はその姿に思わず目を疑った。

 …あれ?アンドリューって、こんな人だっけ?

 彼の周りだけ空気が違うように感じるのは、なぜだろう?



「太陽が雪に反射して、綺麗に見えたんじゃないですか?」

 ロザリーが、あごに手を当てながら、私の質問に答えた。

 アンドリューとクレイグと別れ、私はロザリーと一緒に街を歩いていた。


「あ、オディール様。ホットチョコレートを売っています。マシュマロを入れたら美味しいですよ」

「ロザリー。話を逸らしていない?」

 私の言葉に、ロザリーはとぼけるように頭をかしげる。

「ロザリー。あなたはそんな風に見えたことがあって?」

「ホットチョコレート、二つで」

「それより、太陽が雪に反射して、そんなに綺麗に見えるの?」

「マシュマロをたくさん入れてね」

「ロザリー!」

「オディール様!!」

 ロザリーの声に私は口を開けることをやめた。店の人が、彼女の恐怖に、ホットチョコレートをこぼしてしまった。


「オディール様にはお辛いことだと思います。でも、あなた様にとって、それは知ってしまった方が辛い思いをするだけです。だから…抑えて下さい。耐えて下さい」

 私は、ロザリーの言葉の意味がよくわからなかった。

 みんなは持っている感情。もちろん、しゃべっているロザリーも。なのに、私はその感情を知っちゃいけない。


 知ったら、辛い?でも、知りたい。

 この街で、私はおかしくなった。何かわからない感情を、私は探している。



 九時になった。…が。私は完全に忘れていたことがあった。

 集合場所…決めてなかった!

 ああ、約束を破ってしまうわ…と、うなだれていると、ロザリーは私の肩を叩いた。


「オディール様。広場で今、ダンスパーティーがおこなわれいるらしいですよ」

「ダンスパーティー?」

「ええ。もちろん、気取ったようなものではないそうですよ。どうですか?」

「そうね…見てみたいわ」

 アンドリューもそこにいるのかしら?と、少し心の端で思って答えた。


 さっそく、マジックをやっていたあの広場に行くと、男女が目を回す勢いで踊りちらしていた。アンドリューとクレイグも、中心で踊っている。

 くるりと女性が回ると、季節はずれのお花畑に見える。マントのおかげで気がまぎれていたのに、また、黒い服を着ている自分に劣等感が現れる。…もっと、かわいい色がよかったな。

「オディール様。踊られますか?」

「え?えっと…別にいいわ。私、踊れないもの。あんなに速く動けないわ」

 私が苦笑いをロザリーに向け、ダンスに見入る。


 ペアが次々と変わるダンスらしく、女子の顔を見ると、どういう思いを持っているかわかりやすい。というか、面白い。

 特に、クレイグ。彼にあたった瞬間、乙女達の顔は足元に向けられる。彼は足をよく踏むらしく、ひどい時は、一瞬しかペアにならないはずなのに十五回も被害が出る。

 本当におかしな人だ。

 そして、アンドリュー。彼にあたった女子は、うるうるの目を上目遣いで向けるのだ。そして、なぜかあたってなくても、彼の背中には、熱い視線が集まっていく。

 しかし、彼は完璧なエスコートをするのに、心ここにあらず、という表情だ。

 罪な人間ね。


 曲が終わると、クレイグが私達を見つけ、駆け寄ってきた。…また自然と、ロザリーが私の前に立つ。

「どうかされましたか?」

「いや。またあえたね。僕はとても嬉しいよ」

「残念。私は嬉しくありませんよ」

「またまた。強がらなくても…」

「強がっていません!」

 ロザリーが、また番犬みたいに、クレイグを睨む。


「サ…オディール?」

 アンドリューの声がして、私は振り返った。女子の群れをかき分けてきたみたいだ。

「オディール。ごめんね。場所言うの、忘れてて」

「その割には、楽しそうに踊っていたじゃない」

「君を見つけるには、広場の中心でぐるぐるしていた方がいいかなって」

 彼の理にかなっているのか、いないのか、わかりにくい言葉に私は肩をすくめるしかなかった。


「オディールは踊れないのかい…?」

「う、うまくはないわ…」

 本当は、ほとんど踊れないんだけど…

 彼が何を話すか困っている時、不意に上品な男の声がした。

『次はラストダンスです。男性は、好きな女性をダンスに誘ってください』


 すると、私達の間に謎の間が発生した。

 クレイグが優しいため息をつくと、ロザリーに跪いた。

「ロザリー様。今夜のお相手は?」

「いないけど?」

「では…」

 クレイグが急にロザリーのことを引っ張ていった。

 ああ…また、どっか行っちゃった。

「オディール。君もどうだい?」

 アンドリューも跪き、私に手を向ける。

「オディールじゃないわ。サラよ」

 私の手は、彼の手で包んでくれた。

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