青簾と土を舐める
ネブラスカは16歳
色が白くて唇がいつでも紅色で、髪は淡くて脆そうなプラチナブロンド、目はガラス細工のようで手足は細くすんなりと伸びた少年だった
そんな美しい少年にも悩ましい春を想像する時期は来るものであり、特にネブラスカのそれは一般的な目で見るとより一層悩ましいものであった
その時期の少年の性対象といえば異性であるはずだが彼の場合は人ではなかった
レザーだったのだ
彼の変態性欲の対象が異物になっていった発端こそがレザーであった
だが 成績も良く、性格も芯があり、そして容姿端麗、何でもそつなくこなしてしまう、いわば優等生の彼の歪んだ性事情を人に打ちあけるなんぞできたものではなく、ましてや家族に至っては
「ネブラスカ!!何を言ってるの?あなたにはそんなこと考えてる暇があるの?もっと他にやるべき事があるはずよね?!」
と言葉も理解されずにテキトウに促されてしまうことがはっきりと思いやられてしまうものだ
ネブラスカにはまだまだ悩ましき事はあるようで、1つは、自分は誰もが見てわかるが確かにに異国の血が流れているのだが、彼の両親は日本人である
母親は可愛らしいが、父親に至っては純日本人とも言えるような平たくて面長で言うほど身長が高くない、全くネブラスカには2人の要素はないのであった
そしてもう1つの悩ましいことと言えば、その父親のことである
昔からネブラスカに対して、母親には秘密で性的な嫌がらせを行っていた 俗に言う変態であった
父自身が受けるストレスやら何やらを自分より優れた容姿の子供に鬱憤ばらしに屈辱的行為を行うことで自分に粘液をかけるような感覚で快感を得ていた
ある夏の日、「ネブラスカ、私買い物行くけど欲しい物ある?」と珍しく母親が優しい声でネブラスカに聞いた 彼はオドオドしつつも
「アイスクリームが食べたい…」
「チョコクッキーが入ってるヤツ…」
ボソボソと答えた
テレビをつければ美空ひばりが、ラジオをつければ上を向いて歩こうと、坂本九が…
簾の内側はもう心地よいのが当たり前になるそんな季節でもっと涼を求めていた
簾の届かないところから漏れ出すジリジリと暑い日の光がネブラスカの、黒子が比較的多くある二の腕から脇にかけてを照らし、首から垂れる汗が肩、乳首へとツーと流れ行く
母親が帰ってきた時、ネブラスカは失望した
買ってきてくれたアイスクリームは自分が望んだものではなく、ミカン味のシャーベットであった
いつもなら仕方がないかと溜息ながらにシャクと食べるものだが、茹だる暑さに気持ちが異様に昂り、
「何で母さんはいつも僕の言うことを聞いてくれないの?!」
涙が溢れてしまう。
ここまで怒る必要はないのに、何も買って来てくれないよりは良いはずなのに、ここまで失望してしまう理由が見つからないのに涙をこぼしながら、顔を真っ赤に染め上げながら怒鳴ってしまう
夕日を深い青と紫が襲い、月が空の真上を漂う頃に父親は帰ってきた
母親から事の顛末を聞かされた父は
「ネブラスカ、来なさい」
と【まるで】怒っているかのように振る舞い、縁側付きの渡り廊下の奥の埃臭く薄暗い物置まで連れて行かれた
まず自分に目隠しをされた
そして「なあ、お前のために新しく拵えたんだぞ」と生暖かい息を吐きながら、目が見えない僕の鼻にソレを近づけた
不覚にもそれはまだ新しいレザーのロープのようで、独特な匂いに自分で首を絞めるようなハメにしてしまったのだ
新しいレザーの匂いに気分が高揚し、背徳感と期待感と快感が体に入り混じった
その新調されたレザーによって手を縛られて思うように動けなくなってしまった
せっかくお母さんはお前のためにアイスを買ってやったのになぁとか何とか、まるで正しい父親のような事を言っていたが、目が見えずとも、父は口角をニヤニヤと上げながら言っている事がよくわかった
父親への屈辱感と恐怖感、ピカピカのレザーに対しての性的興奮と期待感にネブラスカは身をよじらせた
だが物置部屋は鍵と物干し竿を扉に掛けて
叫声嬌声大きな物音耳に入るだけで痛い物を打つ音を響かせている
ネブラスカはまだ、物置の湿気た床を這い、舐めることしかできない位置にいる