第2話 約束
俺達はファランクス国軍防衛隊に入隊する事が決定した。
王室を退出した俺達は、結衣菜姫の案内でこの国での下宿先へと向かっている途中だった。
「あの、宮城会長。俺達は防衛隊に入る訳ですが、具体的に何をすればいいか分からないんですが…」
「先程頂いた資料を見た限り、この国は他国からの防衛一筋に絞っているらしい」
攻める事はせず、この国の安全を第一に考えた訳だな。
「そしてこの防衛隊は大きく、前衛隊と後衛隊に別れている。で、俺達は前衛隊の中の前衛を任せられた」
1番危ない役割じゃねーかよ…。
「その中でも小隊に別れてて、俺達は新しく第15小隊を立ち上げたんだ」
「なるほど、分かりました。要するに俺達は前衛で死にかけろって事ですね」
「まあ、間違ってはいないだろうな」
この人は相変わらずこういう事をさらっと言うな…。
「ねぇ、唯先輩」
誰だ俺の事を唯と呼ぶ奴は…、お前か、瑞希ぃ。
「なんだ瑞希」
俺は不機嫌ながらも俺の後ろを歩いている瑞希の方へ振り向く。
「唯先輩のその腰の剣。戦ってた時、抜刀してましたけど使ってませんよね?」
「私もそれは気になってたわ。剣で戦わず、剣をかざして魔法を使うだけだったわね。切れないのかしら?」
皆してなんだよ!俺が戦ってなかったんじゃないかとか、この剣が切れないオンボロ剣だとか、酷いじゃないか!
「神崎と宮城会長には言ったが、これは魔剣だ。魔力を増幅させるためだけにある。後、切れますからね?」
「では、なぜ形が剣なの?カッコつけたいだけかしら?」
やめて…、俺を中二扱いしないで…。
「なるべく大きい方がいいんだよ。その方が増幅量が上がるんだ」
「そう?なら仕方ないわね…」
なんか不満そうだな神崎さん。
「あ、あの…下宿先、こちらになります…」
そう言って結衣菜姫は立ち止まる。
しかし、思っていたよりでかいな。貴族のお屋敷みてーだな。
「結衣菜様、本当にこの家を我々だけで使ってもよろしいんでしょうか?」
宮城会長が申し訳なさそうに結衣菜姫に問いかける。
「か、構いなせんよ!元々使われていなかったので、ぜひどうぞ…」
「そうですか…、なら遠慮なく使わせて頂きます」
そう言って宮城会長は頭を下げる。
「では、私はこれで…」
結衣菜姫は軽く礼をし、くるりと振り返り背を向けた。
そして首だけをひねり俺の方を見る。
「唯さん、また明日」
俺に…、別れの挨拶をしてくれるのか!?
「え、あー、結衣菜。結衣菜姫、また明日!」
俺は結衣菜姫を前にするとうなく喋れないな…。また変になってしまった。
「結衣菜でいいですよ!」
結衣菜姫は、これまで以上の笑顔でそう言ってきた。
「ああ、結衣菜。また明日!」
俺がそう言った直後、耳元に何やら声が聞こえてきた。
「唯先輩、デレデレしすぎじゃないですかぁ~?」
瑞希か!?君、意外に怖いな。
「す、すいません…」
俺達は結衣菜別れてお屋敷に入る。
少し古風な感じだが、十分な広さがあるからこれはこれでいいだろう。
辺りは白い壁で覆われており、広い玄関の先にはリビングや、キッチン、風呂がある。このお屋敷は2階建てで、2階は全て俺達の個室となっていて、ベランダもある。庭も広くトレーニングも行えそうだ。
「じゃあ、とりあえず個人の部屋に入って荷物を置こう。今から1時間後にリビングに集合だ」
そして各々自分の部屋に向かった。
部屋は1Kといったところか。
俺はさっさと用事を済ませて、残りの時間は休む事にした。
俺がベットに腰をかけた時、コンコンと扉を叩く音がする。
誰だ?
「どうぞ」
ガチャ…と音をたて扉が開く。
「新谷、少しいいか?」
宮城会長だった。俺は軽く頷いた。
「新谷、あの事は隠しておけよ」
あの事とは俺が神道家だったという事か?
「俺が神道家だという事をですか?」
「ああ、そうだ」
「でも、今更隠す必要なんてあるんですか?むしろ俺が神道家だという事を明かしておかないと、隠しててバレた時がどうなるぐらい宮城会長にも…」
「確に新谷の言う通りだ。しかしな、もしこの事を明かしてしまえばお前は禁術を使う事になる」
「俺が禁術を使ってはいけないと?」
「使ってはだめだ。例えどんな状況であろうとも。俺はお前を死なせたくない、しかもお前には魔剣があるじゃないか」
確かに宮城会長の言う事も分かる。けどな俺だって何でも宮城会長の言う事を聞くわけにはいかない。
「分かりました、隠しておきます。しかし、条件があります。この仲間が危険に晒された時にだけ禁術を使わせてもらいます」
さあどう出る?宮城会長。
「分かった、それだけは約束しよう。くれぐれも無茶はするなよ、新谷」
「はい」
俺の禁術は自分を死に近づける事ぐらいは分かっている。俺が禁術を使っている時は他人の5倍の時間が過ぎていくんだから…。もし使い続ければ、皆より5倍の早さで死ぬ。そんな事は分かっている。
なのに俺は…。
仲間の為にこの術を使おうとしているのか…。