第3話 忘れられない想い
次の日の朝。
あの悲劇からからもう1ヵ月が経とうとしている。
俺はいろいろあり過ぎてクタクタだ。
「おはようございます、兄さん」
俺が部屋から出ると早速未来が出向かえてくれたのだ。
「ああ、おはよう。早速今日から世界大会に向けての選抜をするんだったな」
俺達はテーブルに用意された料理を頂くため、椅子に腰を掛ける。
「ええ、その通りです。ちなみにその選抜は兄さんがするらしいですよ?」
「は!?聞いてない!俺はてっきり参加が決定されただけかと思ってた…」
俺達は食事を進めながら話も進めている。
「そんな事だろうと思いました…。今日はこの王城の訓練場で元高校生の軍人300万人の前で自己紹介するんですよ?」
待て、何もかも聞いてない。
昨日は何も言ってなかったぞ?
「とにかく自己紹介でいいんだな?それ以外はほんとに知らないからな」
「それで構わないと思いますよ」
俺達は食事を済ませ、俺のもう実の弟である明と合流し、訓練場に到着した。
「おい、あんた」
あんたって俺か?
「何だ明?」
「俺はあんたを許してはいない。1度逃げた人間がノコノコと…」
明がブツブツと何か言いながら俺に向かって睨んでくる。
「明兄さん?いい加減にしないと斬りますよ?」
え?未来怖っ。ニコッとしながら物騒な事言いやがる。
やっぱ嫌ってんだな。
「ちっ、わーったよ。それよりあんた、そろそろ出番っぽいぜ」
俺はくるりと振り返り訓練場の方を見た。
ぞろぞろと白い軍服を着た少年少女達が集まり始めた。
「あー、ちょっと行ってくるわ…」
俺は用意されている朝礼台に上がり、マイクを手に取った。
『あ、あ〜…』
辺りはシーンと静まり返る。
『初めまして。俺は新谷…、いや、神道 唯だ。』
クスクスと笑い声が聞こえる。
どいつもこいつも俺の名前で笑いやがって!
『皆も知ってると思うが今回、ファランクス国で行われていた武闘大会というか…、戦術大会が公式的に世界大会として起用される事になった!』
辺りは静まり返ったまま。
このまま俺の話を最後まで聞くつもりなのだろう。
『そして俺がその大会の代表者を務める。さらにこの大会は4人1組で行われる為、その代表選手を選抜するのも俺の役目だ。もちろん俺は参加する』
やはり騒めき始めたか。
まあ、当然だろう。今まで世に名前が出なかった人物が代表者で、300万人の中から必然的に代表入りなんだ。
仕方無い、これがこの国のやり方なんだ。
『そこで代表の選抜方法なんだが、強さで決定するのではなく、大会の訓練を行う中で俺がこの目で見て選抜する事にした』
騒めくどころかブーイングの嵐となった…。
『以上で説明は終わりだ。訓練は今日から開始する。各々この王城の訓練場を使用し訓練を行ってくれ。ペアを組んでも構わないし単独でもOKだ。』
俺はマイクをマイクスタンドに戻し、朝礼台から降りた。
「お疲れ様でした兄さん!いい演説でしたよ」
演説じゃねーよ。
「あんた、俺の実力は知ってんだろ?俺を選抜に…」
「駄目だ」
「ちっ、お堅い奴だ」
あ、そういえば未来はどうなんだろうか。中学生は出場出来るのか?
「なあ、未来。お前は中学生だよな?」
「ええ、そうですけど?」
こくりと首を傾げる未来。
「中学生でも希望すれば出場できるんじゃないのか?」
ルール表には武器が禁止ぐらいしか書いてなかったしな。
「本当ですか?私も出場したいです」
「俺の候補に入れといてやる」
「むむぅ…」
未来は頬を膨らし、上目使いで見てくる。
くそ…、可愛いじゃねーか。
「さあ、俺達も巡回しながら訓練するぞ。人数は多いんだ、早く行くぞ」
俺は新たな道を歩み始める。
あいつらは今何をしているのだろうか。
この世界大会に向けて猛特訓しているのだろうか。
ちゃんと俺の代わりのメンバーは補充できただろうか。
俺の魔剣は見つけてくれただろうか。
俺はいつなん時もあいつらの事を忘れてしまう事はないだろう…。




