第5話 動揺に動揺
桜が舞い散る中、俺達第15小隊は学校へと向かう。
基本は徒歩通学な為、いろんな生徒と出会う事もある。
「新谷~、お前も候大に出るんだって?実はさ、この俺も出場するんだわ~」
候大というのは、全国軍隊候補生向上大会の略だそうだ。
今、俺に話しかけてくる金髪男は、俺の同じクラスの榊 祐也だ。ちなみにこの国の王子らしい。
という事は必然的にあの結衣菜お姫様の兄という訳なので、多少面倒くさくても相手をしているのだ。
「ああ、訳あって出る事になったんだ。校内選抜ではお手柔らかに頼むよ」
と、こんな感じで良い人ぶってるって事よ。
「なんだ新谷。入校早々友達ができたのか」
「あ、はい隊長。一応隣の席なんで仲良くしてもらってます」
なんで俺がこんなに下手にでなきゃならんのだ。仲良くしてやってるのは俺の方だぞ!まあ、これは全て結衣菜姫の為だ。
「お前らもしかして軍の所属か?」
おっとまずいな…。これはバレたらダメなやつか?
俺はチラッと宮城隊長の方を見る。
宮城隊長は笑顔で軽く頷いた。バレていいんですかね?
「ああ、そうだよ。訳ありでな、見習いでやってるんだ」
「へぇ~、じゃあ俺達と同じだな!俺ぐらいの実力にもなれば軍の見習いで戦場にも出られるんだ。この前もウィルネスの方へ言ったぜ」
そう言えば結衣菜姫もあの時いたな。こいつも相当の実力の持ち主なんだろう。
「けど、お前の名前は聞いた事ないなー。軍に入れるほどの実力ならば、俺も知ってるはずなんだがな~」
忘れていた。こいつは俺がウィルネス出身だって事を知らないんだった。知ってるのは正規軍と国王、そして結衣菜姫だけか。
国王直々に在住許可は得たしバレても大丈夫なんだろうけど、結衣菜姫はともかくこいつに知られたら厄介な事になりそうだ。
「もしかしてお前がウィルネスの…」
「おっと、そろそろ学校に到着するなー。じゃあな瑞希!宮城隊長もまた放課後に!神崎ー、教室に行くぞー」
少しばかり大袈裟だったが、まあ大丈夫だろう。
「唯せんぱーい、また後で~」
「しっかり勉強しろよ、新谷」
「あなたと一緒に行きたくないんですけど…」
俺はスタスタと校門に向かって歩き出した。競歩でな。
「お、おう…、まあいいか」
良かった、榊もそんなに深くは考えていないようだ
そして、俺達は本日の日課を終え、候大に向けての訓練の為に借りた、校内にある訓練場に集結した。
校内には20近くの訓練場が配備されており、全てドーム状になっている。広さは野球場と同じくらいだ。
この訓練場には俺達以外にもいて、トレーニングや戦術などの訓練を行っている。
「では、今から候大に向けての訓練を始めるぞ」
「まず1ついいですか?」
「なんだ?新谷」
「俺は一度も大会に出たいと言ってませよ。後、存在すら知りませんでしたよ」
まあこの人の事だ。どうせ笑って誤魔化すだろう。
「これも国王からの指令だよ、新谷」
誤魔化してはなかったが笑ってやがる。
「だが、何も言わなかったのは謝る。神崎、一ノ宮」
俺は?
「いえ、これも必要な事だと隊長が判断したなら構いません」
「私も面白そうなので別にいいですよ~」
俺、こういうチームワークなスポーツ嫌なんだよー。
「じゃ、試しに2対2の模擬戦をしてみようか」
俺達がチーム分けで揉めた結果、俺と瑞希が組む事になった。流石に俺と宮城隊長が組むのは紳士的ではない。
「せーんぱいっ!頑張りましょうね♪」
くそ、たまにこいつ可愛い時があるよな…。調子狂う。
「相手は元生徒会長と副会長だぞ…。それに比べてこっちは最弱と新米…」
「大丈夫です!私には闇属性魔法がありますから!」
「俺だって魔剣が…」
使えねーーー!そういや武器禁止だった!
やばい、ほんとにやばい。俺、何もできねー!
「じゃあ始めるぞー!試合開始!」
は、始まった。
「瑞希ぃ!後方であいつらに闇属性魔法をぶっぱなせ!俺が前衛で止めておく」
「了解です!暗黒 疾風!」
俺の後方から黒い風が吹き荒れる。
そして風がおさまる頃。
「やりましたか!?」
あ、それフラグね。
「甘いよ、新谷。雷撃!」
くっ…、雷属性の基本技。俺のただの魔法 障壁で防げるのか?
全魔力を使ってでもこの魔法を止めてやる!
「魔法 障壁ォォォ!!!」
パリン…。
俺の渾身の魔法 障壁が、プレパラートと顕微鏡に挟まれて割れるガラスカバーみたいに粉砕する…。
「後は…、任せた。瑞希…。ぐは…」
体が魔法によって痺れて力が入らないまま、俺の意識は薄れていった…。
「ん…、あれ?ここは俺の部屋か」
そういや、俺は宮城隊長の雷撃をくらったんだっけ。
あの後、瑞希はどうなったんだろうか。まあ結果は目に見えている。
俺は寝返ろうと思った為、ベットの上で向きを変えた。
「え?」
そこには俺の布団に入った瑞希の顔があった。
「先輩、体調はどうですか?」
何やってんの!?顔近い近い!
「あれ?先輩顔が赤いですよ?熱があるかも」
そう言って俺の額に瑞希の額を合わせてきた。そう、唇と唇も合わさりそうになるほどに。
「だ、大丈夫!大丈夫だから。とりあえず布団から出てくれ」
そうやって俺は起き上がりおもむろに外を見た。
もうすっかり暗くなっていた。恐らく長い事、瑞希は俺の看病をしてくれいたのだろう。
「あ、あのさ…」
「なんですか?先輩。告白ですかぁ~」
む、ムカつくけど何も言い返せない…。
「それは違うが…、その、今日はありがとな、看病してくれて」
恥ずかしいが瑞希に世話になったのは事実だ。例を言うのは当然だ。
「あ、違うんですね…。いえいえ、気にしないでください!後輩として当然の事をしたまでです!」
あれ、一瞬顔が曇ったような…。
「ま、本当は私が………………、ですけどね」
え、今なんて言った?
「い、今なんて?」
瑞希は珍しく頬をぼっと赤らめた。
「べ、別に何も言ってないです!」
ここまで動揺する瑞希を見るのは初めてだ。
「あ、私部屋に戻りますね!」
瑞希はガチャリとドアノブを捻り、チラッと顔をこっちに向ける。
「今日の模擬戦、勝ちましたよ!」
は?嘘だろ…。
その一言だけ言って瑞希は去っていった。
あの時、瑞希が言った言葉は俺の聞き間違いだったのだろうか。
いや、確か瑞希はこう言っていた。
「ま、本当は私が唯先輩の事が好きだから、ですけどね」




