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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
4章 葬儀屋である理由
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死神の役割

「……え?」

 モルテの言葉にディオスの目が丸くなった。

「人間が、死なない!?」

 信じられないことを聞き、信じられないというようにモルテを見た。

「待ってください店長!人って寿命や病気になったりしたら死にます!どうして死なないって言うんですか!」

「それは肉体の死だ」

 早口で否定を言うディオスにモルテは冷静に言った。

「人間は姿を形成している肉体と肉体を動かす魂の二つから成り立つ。だが、魂というものには肉体でいうところの寿命がない」

「はあ……」

 モルテの説明に何故か納得出来てしまうディオス。

 そもそも魂の認識というのもは不滅の超越した物という捉えが強い為にモルテの説明にもそうであると納得出来てしまうのである。

「人間の肉体を動かすことが出来る魂は肉体以上の力を要しているが、そんな物を肉体がいつまでも宿すことは出来ん。肉体は魂を抱え続けることは不可能。魂を抱えることが出来なくなること、それが肉体の限界であり人間の仮初の死を意味する」

「仮初?」

 それだけでもディオスにしてみれば死なのではないかと思うのにモルテは仮初と言った。

「言ったであろう。人間は死なんと」

 仮初に疑問を浮かべるディオスにモルテが大切なことを言ったのだから思い出せというようにきつい口調で言った。

「人間の肉体には魂が宿っている。だが、肉体に限界はあれど魂にはそれがない。永遠に宿ったままだ」

「宿ったままってどうして!?」

 世間が抱く常識と違う、全く真逆の死神常識を言うモルテに驚いたディオスだがモルテの口からはさらに信じられない言葉が発し続けられた。

「肉体と魂は常に繋がった状態だ。それは肉体の死が訪れても同じこと。肉体とは強すぎる魂の枷。だが、その枷が外れた時、魂はその力を解き放つ」

「ま、待ってください店長!もしかして……」

 ディオスは頭に現在下で悲惨な状況となっていることを思い出した。

不死者アンデッドは二つある内の一つだ」

 やっぱりと思ったがもう一つあると分かり安心出来ない。

「不死者は肉体から出られない魂がその肉体を動かす。枷がないに等しい肉体を魂は思うがままに操ることが出来、あのように人間を襲う」

 それはディオスでも嫌に分かる。

 今でも下で起こっている状況、あの人食鬼グールに意思が感じられなかった。意思はなく、代わりに本能を感じた。

 獣のように目の前にある獲物を狩る、動くものを捕らえるといった野生の獣に相応するもそれよりも怖い存在である。

「もう一つは生霊リッチだ」

「生霊!?」

 生霊と聞いてディオスが驚いた表情を浮かべた。

 生霊は何度も周りから聞かされた。

 始めてみた生霊にはとてつもなく怖い感情を抱いたが、話によく聞く幽霊ゴーストとは違う存在であるらしいが区別が分からない。

「生霊は肉体から出た魂が生前とは違う独自の新たな姿となった存在だ。不死者よりももっと厄介だ」

「厄介って何が?」

 生霊と幽霊の区別は分からないが厄介と言ったモルテに何が厄介なのかと尋ねるディオス。

「生霊は不死者よりも狂暴だ。個々に人間を殺すための力を持ち人間を殺す。そして、殺そうと殺さなかろうと人間に憑りつく」

「憑りつくって、どうして?」

 殺すための力を持っているのにも驚いたが憑りつく意味が分からない。

「考えてみろ。何故魂は肉体から出た?」

 モルテに促されディオスは考えた。

「もしかして、遺体……肉体がない?」

「一つはそれだ。魂は例え肉体が粉々になったり燃やされ跡形がなくなったとしても肉体であったものがある限り繋がりがなくなるものではない」

 それはそれで可哀想に思うがそれで憑りつかれても困ると思う。

「そしてもう一つは、肉体と魂が合わない」

「合わない?」

 予想外のもう一つの理由にディオスは呆けた。

「肉体と魂は確かに繋がっている。だが、仮初の死後、魂が肉体を動かすことが出来ないことがある。そうした魂は合う肉体を求めて他の肉体へと憑りつく。心当たりがあるだろう。ディオスの学友がその状況に置かれていたのだから」

 モルテに言われてディオスは硬直した。何故モルテが学友に憑りついていたと言った愚者ピエロのことを知っているのか知らないが正しくそうだと言った。

「もしかして、あの愚者って生霊!」

「気づくのが遅いぞ」

 今になって愚者ハーレクイーンが幽霊ではなく生霊であると認知したディオスにモルテは呆れた。

「加えて生霊は枷から出ている。不死者と違い欲望のままに動く。欲望のままに動き、人間を危めて快感を得る」

 生霊の危険性を唱えるモルテにディオスは今さらながらよくあの愚者から逃げられたものだと思っていた。

「あれ、それじゃ幽霊は?」

「あんな突っ立ているだけの存在は不死者でも生霊でもない。あれはただの思念の固まりだ。その内に消える。それが耐えられなければ教会にでも行き払ってもらうことだ」

 どうやら幽霊は生霊とは違い思念の固まりらしい。

 思念の固まりでも恐ろしいように感じるが死神から見たらそうで もないらしい。

「死神とはそういった肉体と魂の繋がりを切り本当の意味で人間に死を与える者。不死者や生霊が世に現れないように監視する役割を持つ」

 死んだ人間を本当に死なせる役目。それは世の理を崩さない役割を持ち、いざという時にはその対処をしなければならない。

「昔ならば墓守と呼ばれる者達がその繋がりを断つ為に動いていたが時代の流れで今は殆ど存在しない。葬儀屋は墓守の代わりに死を与える為の最後の砦だ」

 ディオスに葬儀屋の役割を説くモルテ。それは死神にとって由緒であり、あまりにも重い役割であった。

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