真相へ
街灯が消えてしまった真夜中の旧住宅街をディオスとミクが通りを離れないように並んで歩いていた。
「すごくおいしかったね、ごはん」
「ああ」
「パスタもシチューもおいしかった!」
「パスタって、あれはラビオリだよ。母さんが得意な料理なんだ」
ディオスとミクはディオスの家で食べた夕飯について話していた。
夕飯を食べてしばらくゆっくりしてからディオスとミクは葬儀屋フネーラへの帰ることにしたのである。
その際に母親であるシンシアから泊まったらどうかと言われたがいくら臨時休業でもモルテの許可なしにはまずいと考えたディオスが辞退するとまた訪れると言って葬儀屋フネーラに向けて帰路についたのである。
「久し振りに食べたけど、前食べた時よりもおいしかった」
「そうなの?」
ラビオリがおいしかったのに意外なことを言ったディオスにミクが驚いた表情を向けた。
「借金を返すために色々と切り詰めてゆとりがなかったんだ。ラビオリはごちそうとなってしまったんだけど、その時は少し味が薄かったんだ。多分、今にして思えば食材にも気を使っていたんだと思う」
「そうなんだ」
最後に食べたラビオリの味を思い出しながらディオスの話に納得したミクではあるが話をした当のディオスは内心では後悔をしていた。
いくら借金を返済する為とはいえもう母親であるシンシアに随分と負担をかけてしまっていたのではと料理を食べて思ってしまった。
もう少しシンシアの気持ちに気がついていたら何かできたのではないかと考えている。
「そう言えば、ユリシアと話していたけど、楽しかった?」
「……うん。楽しかった」
ディオスは落ち込み気味であった気分を吹き払おうと話を変えた。
だが、話を振ったはずのミクは僅かな間を開けて頷いた。
(あれ、今の間は?)
明らかに分かる間にディオスは首を傾げた。
夕飯の時に見ていたがミクとユリシアは楽しく話していた。それなのに今のミクの答え方は明らかにおかしい。それに、表情もどことなく沈黙している。
「ぎゃああああああ!」
そんな思考を破るように突如として悲鳴が響いた。
「な、何!?」
「あれ!」
悲鳴に驚くディオスにミクが店の方向を指さした。
もう目と鼻の先にある店の向かい、葬儀屋リナシータから突然人が二人、遅れてもう一人が慌てた様子で出てきた。
「な、なんだこれは!」
「おい、なんだあれ!」
「俺に聞くな!」
慌てる三人の声がディオスの耳に聞こえた。
「何があったんだ?」
街灯が消えていて月明かりによる夜目である為によく見えないが三人の声が慌てているというよりも何かを恐れているように聞こえたディオスは何が起こったのかと考え始めた。
そんなディオスにミクが手を握った。
「早く店に入ろ~!」
「え、でも……」
「早く!」
たじろぐディオスにミクが力いっぱい手を引いた。
流石に訳が分からないが引っ張られるままにディオスはミクと共に店に入った。
そんな中でもあまり見えない夜目で三人の様子を見ながら。
店に入るとミクが急いで扉を閉めて鍵をした。
「一体どうしたのミク?」
引っ張られた時の力もそうだがどことなくミクも慌てているように感じたディオスは尋ねた。
「おう、無事に帰ってこれたか」
そんな時、ディオスの背後か急に僅かに明るくなり、振り返るとファズマが火の付いたろうそくを持って立っていた。
「ただいまファズ」
「おかえりミク」
何かが起こっているというのにミクは帰って来た言葉をいい、ファズマが快く迎え入れた。
「って、何でのんきに!」
そんなファズマとミクの様子にディオスが突っ込んだ。
急いで店に入れて、しかも鍵までした。何かを入れさせないようにしているとしか思えない。
それに、店に入る前に見た葬儀屋リナシータの従業員の慌てっぷりを見て何かが起こったと思っていたのにそれを微塵と感じさせないファズマとミクに突っ込みたくなった。
「帰ったらただいまって言うのが当たり前」
そんなディオスにミクがこれが常識と言うように言った。
「んなこたぁどうでもいい。」
ミクの言葉に何か突っ込もうとしたディオスだがファズマが割り込み話を中断させると後ろにある仕事場に向けて親指を立てた。
「来いよ。何が起きているか特等席から見せてやる」
「特等席?」
「そうだ。何が起きているのか屋根から覗くんだ」
ろうそくの明かりに照らされたファズマの顔が不気味に感じられた。




