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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
1章 新従業員採用
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嫌な男達

「はぁ~……」

 ディオスは人気のない道でため息を付いた。

(……疲れた)

 疲労困憊である。

 日常からかけ離れた出来事に付いて行くのが精一杯だった。

(そもそも、何で面接から実践になって大掃除になったんだ!)

 周りに流されたとはいえ当初の目的はどこへ行ったのかと心の中で叫ぶ。

 あげくのはてには全てから解放されたのが夕方である。他の就職希望先で面接を受けた時は昼頃に解放されて採否を聞かされたのに倍かかっている。

(そう言えば、採否聞かされてない……)

 疲れていたから気にもしなかったがモルテから採否を聞かされていなかった事を思い出した。

(あの店長さんだ。多分採用しないだろうな)

 モルテの言動を思い出して肩を落とした。


 その時、ディオスの進む道を誰かが遮った。

「よお、ディオス」

 貧相の悪い男が馴れ馴れしく声をかけてきた。すると、ディオスを複数の男が取り囲んだ。

「何だよ」

 ディオスは声をかけてきた男を睨み付けた。

 男達はディオスにそれぞれ語りかけ始めた。

「何だよはないだろ。つれないなぁ~」

「今度は葬儀屋か?かわいそうに」

「だけど、採用されたんだろ?頑張るな~」

「何がかわいそうか分からないけど少なくともまだ採用はされてない」

 厳しい表情で睨み付けるディオス。

「うわっ!じゃあまた落ちたんだ!」

 その言葉にディオスの表情が一瞬強ばった。

 男が一人、馴れ馴れしくディオスの肩に腕を置いた。

「悪い事は言わねぇから俺らんところ来い」

 人を人と見ない目。むしろ、獲物を見つけたような目だ。

 嫌気しかない。だから、ディオスが次に言う言葉は決まっている。

「誰があんた達と!」

 そう言って乱暴に腕を振り落とした。

「おいおいディオス~いいのか~?」

 その行為に男達がディオスの周りに近づいた。一人は指を鳴らし、一人は腕まくりをしている。

 ディオスは息を飲んだ。

「俺らに逆らえばどうなるかもう一度教えてやる!」

 男の腕がディオスへ向けて振り下ろされた。

「あ、お兄ーさん!」

 その時、幼稚な声に男達は突然の事に驚き振り下ろしていた腕を止めた。

 ディオスは声をかけてきたその姿に驚いた。

「もしかして帰り道?」

 葬儀屋にいた少女ミクだ。

 周りの様子に気にもせずミクはディオスへと近寄ると手を繋いだ。

「え?どうしてここに?」

「買い物お願いされたの。ねえねえ、市場まで行くの?行くなら途中まで行こー」

 そう言って戸惑うディオスの腕を引っ張り囲っていた男達から引き離した。

「ちょと待ておい!」

 予想外の状況に呆然としていた男達だがディオスが幼女に連れて行かれるのを見ると我に返り呼び止めた。

 男の表情にミクは首を傾げた。

「ねえ、おでこにシワできてるよ?」

 緊張感のない声に男達は毒気を抜かされた。

 ミクは男達に近づくと鞄から飴玉を出して一つ一つ渡していった。

「はい、アメあげる。師匠が言ってたよ。悩んでる時はあまい食べ物がいいって」

 そう言って全てを渡すと再びディオスの手を握った。

「じゃ~ね~」

 ディオスを引いてその場を走り出した。

 男達は思いもしない流に立ち去る二人の後ろ姿を呆然と立ち尽くして見送っていた。


 大通りの市場までディオスとミクは手を繋いだまま歩いていた。

「ありがとう。えっと……ミクちゃん」

「ん?うん」

 ディオスは満面笑みを浮かべるミクにお礼を言った。

 ミクがいなければディオスは男達に殴られていた。偶然とはいえ助けられたのだ。

「そう言えば、買い物って何を頼まれたの?」

「夕ご飯だよ。ファズがまだ帰って来ないから師匠が作るんだ。それでね、足りないのがあるから買って来てって」

 そうなのかと思いながらディオスはミクが見た目に反してかなりしっかり者なのだと感じた。

「お兄ーさんはお店で働きたいの?」

「え?」

 ミクから予想もしない言葉にディオスは目を丸くした。

「師匠にみとめられたら働きたいの?」

 ディオスは何だかミクに今悩んでいる問題を見抜かれているような気がした。

 ディオスはしばらく考えてから言った。

「出来たら働きたい。家族を養っていかないといけないんだ。だけど……」

 心の底から願っている事だが続きが口から出ない。

「働けたらどこでもいいの?」

「いいはずない!……って言いたいけど、今は働ける場所があるなら働かないといけないんだ……」

 どんなにきつくても辛くても働かなければならない。急いで働かなければならない理由があるからだ。

「ふ~ん」

 その話をミクは頷きながら聞いていた。

「あ、俺の家こっちだから」

 ディオスはそう言うとミクの手を放した。

「帰りは気をつけてね」

「だいじょーぶだよ」

 そう言って二人は手を振りながら別れた。

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