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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
4章 葬儀屋である理由
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母との会話

 ディオスはテーブルを挟んで向かいに座っているシンシアと久しぶりの会話をしていた。

「本当に驚いたわ。帰ったらディオがいたのですもの」

「連絡もなくすみません」

「いいのよ。こうして顔を見せに来てくれたのだから」

 申し訳なさそうな表情を浮かべるディオスにシンシアは気にしていないと言う。

「けれども、今まで顔を見せに来なかったことはどうかと思うわ。一ヶ月?もう少しで二ヶ月経つのにいつまでも顔を見せに来てくれなかったのはどうですか?上手くやっているのか心配していたのですから」

「すみません。慣れていくのに精一杯で中々来れずに」

 シンシアの言葉に心配されていると気づかなかったディオスは謝罪をした。

 実際に葬儀屋フネーラの仕事と出来事に慣れるのが大変で、まだ慣れてはいないこともありそこまで頭が回っていなかった。

 シンシアとて本気でそこまで言ったわけではない。

 ただ親としてずっと思ってはいたが口に出さずにいたのがディオスと合って会話をした途端に口から出てしまったのである。

 直接様子を見に行こうと思ったことが何度あったことか。それでも迷惑になってはよくないからと我慢をして子を思って一言二言余計に言ってしまうのは親の性というものである。

「けれども、ディオの元気な顔を見て安心したわ」

 安心したとシンシアに言われて一変、ディオスの表情が和らいだ。

「ところで、どうして今日は顔を見せに来られたの?」

「はい。今日、店が臨時休業となったんです」

「臨時休業?」

 ディオスから返ってきた質問の答えにシンシアは僅かに驚いた様子を見せた。

「はい。しばらく臨時休業にすると店長から言われました。」

「そうなの。理由は?」

 シンシアから理由を尋ねられて目線が違う方向へと向く。

「えっと……色々とありまして……」

 歯切れ悪くどうやって答えるのがいいのが一番なのかと考えてしまう。

 まさか、向いに突然できた店を潰すまで休みとは言えない。

 そんなことを言ったらシンシアが驚いて目を回してしまう気がしたからである。

 そんなディオスの気持ちと言えない事情を察してシンシアは安心の言葉をかけた。

「分かりました。言いたくない理由があるのなら言わなくていいわ。言いたい時に言いなさい」

「……はい」

 事情を聞かないと言ったシンシアの言葉に安堵するディオス。

 本当は言えないことに申し訳ないと思いつつも心のどこかでほっとしている自分に驚いていた。

「それで、どうして家に訪れようと思ったのですか?」

「ユリシアに声をかけられました。先程まで色々な場所を訪れていたのですが、市場で偶然ユリシアがいて、久々に家に帰ようと思ったんです」

「そうだったの」

 臨時休業ではあるが忙しいディオスがどうして家にいたのか理解したシンシア。

 もしユリシアがディオスを見つけなければディオスは家に訪れることもなく顔を見る事が出来なかったと思う。

「ところで母さん、俺の部屋のことですが、あの部屋はユリシアに与えてください」

 話に区切りが着いたと見たディオスは帰って来てから思っていたことをシンシアに言った。

「どうしてですか?」

「今の俺は葬儀屋に住み込みで働いています。ここにある俺の部屋は使うはずである俺がいません。それなのに残っていることがおかしいです。だから、ユリシアの部屋として使わせてあげてください」

 帰ってから思っていたことは明らかにディオスがいつでも帰って来てもいいように部屋がきれいであることである。

 ユリシアは現在、シンシアと同じ寝室で寝ている。それだけに誰も使わせない部屋があっていいものであるのかとディオスは考えていた。

 そして、使わないのなら今いる住人、ユリシアの部屋にしてしまった方がいいとディオスは結論を着けたのだった。

 そうやって考えて言ったディオスにシンシアは首を横に振った。

「なりません」

「どうしてですか?」

 シンシアの反対に驚いたディオスは尋ねた。

「ユリがディオの部屋を残したいと言ったからです」

「ユリシアが?」

 思っていなかった答えにディオスは何故と視線を向ける。

「ユリがディオの居場所に困らないようにしたいと言ったの。私もディオがいつで帰って来た時に安らげるようにと思っていたの。だから、ディオの部屋はそのままにしようと二人で決めたの」

 まさか二人が決めたことであったとは思わなかったディオスは少し複雑な心境を抱いた。

「ですが、ユリシアが成長したら……」

「それまでには貯金を貯めて引っ越すわ。そうしたら余裕を持ってユリに一人部屋を与えるわ」

 シンシアなりの考えを聞かせられたディオスはゆっくりとそれを受け入れた。

 非常に物静かな雰囲気に騙されそうになるが本来は根が強くしっかりと自分の考えを言う。

 シンシアがそう言ったのならばそれは決定であるとディオスはこれ以上言うのをやめたのである。

「ところでディオ、これからどうするの?」

「これから?」

「ご飯を食べていかない?」

「……いただきます」

 久々に家でシンシアの夕飯を食べるのもいいかもしれない。そう思ったディオスは頷いた。

 それを聞いたシンシアは喜んで立ち上がった。

「それじゃ今から準備をするわね」

「はい。あ、すみません。店に連絡をしてきます」

 臨時休業でありファズマからゆっくりしてこいと言われてはいるが、いつも夕飯を葬儀屋フネーラで食べているだけに一応は連絡を取ったいいとディオスは思った。

「分かったわ」

 ディオスの言葉を聞いてシンシアは承諾するとキッチンへと向かった。

 それを見てをディオスは外へと出た。

 家の中に電話はない。下の階の共同スペースに電話がある。そこからかけようと歩いて気が付いた。

 自分が葬儀屋の秘密、モルテが死神であることを話そうとしないことを。

 まだ肝心なことを知らないからかもしれないが何故か話そうという気が起きなかった。

 それは親にも言えないと。何故と思いながらディオスは階段を降りたのだった。

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