友達
その頃、ミクとユリシアはというと、ユリシアが出した『かわいい』ものを手にしながら話に花を咲かせていた。
「これかわいい!」
「そうでしょ」
ミクが手にした蝶を模ったブローチに嬉しく頷くユリシア。
ブローチと言ってもそれは子供向けの安物なんていう品ではない。
財閥時代にユリシアがせっせと集めていたコレクションの一つである。
その後、借金返済の為にシンシアとディオスの二人によってユリシアが忘れているであろうブローチを『いらない物』と称されて金銭に換金されてしまった。
今にしてみればあれは仕方がないことであるが、激変する環境に追いついていなかった当時は泣き騒いで困らせていたのである。
今は金がない為に派手に買うことは出来ず雑貨屋やブティックを覗いたりして我慢をしているが、僅かに残ったブローチをユリシアはミクに見せたのである。
「そういえば、あのお店のブローチもかわいかった」
「あのお店?どんなブローチだったっけ?」
「動物の雑貨が置いてあったお店。そこのカエルのブローチかわいかったよね?」
「……かわいいの?」
動物の雑貨と聞いて動物を模ったり描かれた雑貨が置かれていた店であると思い出したユリシアだが、蛙のブローチがかわいいと言ったミクに顔を歪ませた。
「うん。緑色のと黄色いのがかわいかった」
「かわいいのかなそれって?」
蛙のブローチがかわいいと聞いてユリシアはどこがかわいかったのかと悩み言葉に困ったが、何かを思い出して言葉を続けた。
「そう言えば、冠を被ったカエルの小さな置物があったよね?私はそれがいいかな」
「あったねそんなカエル。それがかわいかったの?」
「うん。冠を被っているからなのかな?あまり気持ち悪いと思わなかったの」
「カエルって気持ち悪いものなの?」
「生きたカエルは見たことないけどかわいくないって思う」
「そんなものなんだ」
蛙が気持ち悪いと聞いたミクはこれが自分と同い年頃の子の慣性なのかと違いについて考えていた。
どうも自分は気持ち悪いという慣性がずれていると昔ファズマに言われたのである。
これについてモルテが言うには、散々遺体がある場所や生霊が現れる場所に連れ回したのが原因であるかもと言っていた。加えて、生霊は怖い存在だけでなく不気味、見た目が気持ち悪い存在もいる為にその辺にいるそういった存在に全く動じなくなったのではとさえ言っている。
その時は自分の慣性をあまり理解していなかったがユリシアという比較対象が目の前にいる為に比較して、違いに悩んでしまったのである。
「でも、どうして冠を被っているのかな?」
ミクが悩んでいると、ユリシアがふと思いついた疑問を口にした。
その疑問を耳にしたミクは慣性から冠について考えを変えた。
「冠?カエルの王様だから冠をしているのかな?」
「王様なんだあのカエル」
「分からないよ。もしかしたら王様がカエルになっちゃったりとか」
「う~ん、それだったら冠の中に隠れてないかな?」
「そうかも。それだったら冠につぶされてるかも」
「それに、そんなカエルだったら可哀想すぎて買えないよ……」
蛙の冠について話すが急に蛙が哀れに感じて可愛くなくなり話が途切れる。
「やっぱり冠って重いのかな?」
「重いんじゃないかな?有名な絵でもね、両手に持っているからものすごく重いと思うよ」
「それじゃ、カエルはどうやって頭に乗せてるのかな?」
「う~ん、分からない」
話はどうやって冠を乗せたのかに変わり、再び会話は途切れ沈黙が流れた。
「カエルに冠っていらないね」
「うん」
そして、蛙には冠は不要であると二人で結論を出した。
そして、二人の口から笑い声が漏れた。
「アハハ、おかしい」
「うん、おかしいね」
どうして真剣に蛙の冠について考えなければならなかったのか分からおかしくて笑ってしまう。
そうして、笑いが止むとユリシアは姿勢を正してミクに言った。
「ねえミクちゃん。私と友達にならない?」
「え?」
「だめかな?」
突然の言葉に驚いたミクは黙り込んでしまった。
その様子にユリシアは緊張しながら返答を待った。そして、
「うん。いいよ」
「本当に!」
「うん」
「やったー!」
頷いたミクにユリシアが抱き付いた。初めて見た時からミクと友達になりたいというユリシアの思いが叶ったのであった。




