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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
4章 葬儀屋である理由
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金欠ディオス

 ファズマは市場の前で車を止めるとディオスとミクを下した。

「それじゃゆっくりしてこい」

 そう言うと早々に車を走らせた。それを見送ったミクはディオスの手を握ると嬉しそうな様子で言った。

「行こうディオお兄ーさん」

「あ、うん」

 本当にこんなことをしていていいのかと思いながらもディオスはミクが行きたい場所に付き合おうと思い行動を共にした。


  * * *


 ミクの行動力はすごいものだった。

「こっちー!」

 疲れる様子も見せずにミクがディオスに向けて腕を振り回す。

 その当のディオスはミクに驚きを通り越して呆れていた。

(これで八軒目か?)

 市場を見て回るディオスとミク。

 主にミクが行きたい場所にディオスを連れて行くのだが行きたいと言った軒数がものすごく多かった。

 普段から店の店番をしているミクは葬儀屋の住人の中では一番出る機会がない為に外に出ることが嬉しいらしい。しかも、市場には行きたい店が多くあるようで滞在する時間が長く数も多い。

 従って、ディオスはミクに大いに振り回されていた。

(またお菓子じゃないよね……)

 ミクが次に行きたそうな目的地を考えてディオスはため息をついた。

 現在ミクが行った場所は、菓子、菓子、菓子、ブティック、菓子、服、菓子……と殆ど菓子が占めている。

 小さい子には甘いもの、と言う言葉があるがこれは少し度が過ぎている。

 しかも、食べ歩きに近い状態で移動をしている為にそれに慣れていないディオスは人目を気にしてゆっくり味わうことが出来ず、満腹を感じる暇もない。何よりも、砂糖の物価が高い為に出費が重なる。

 それ程金銭に余裕がないのに痛いところを突かれて今にも泣きたいところなのに、ミクが平然とお金を出して菓子を買おうとする様子に砂糖の物価の価格を知っているのかと聞きたい思いと年下の子に払わせるわけにはいかないという年上の感情からさらに出費が増え泣く涙すらない。

 ちなみに、ブティックは到底手が出せるものではないので見ただけで終わった。

「うわ~!かわいい!」

 泣く涙すらない思いでいるとミクが足を止めてショーウィンドーを覗き込んでいた。

 ディオスもつられたように覗き込むとそこには雑貨が並べられており菓子でないことにほっとしていた。

「入ろ~!」

 ミクが手招きをしているのを見てディオスは一緒に雑貨屋に入った。

 雑貨屋に入ってミクが最初に飛びついたのはショーウィンドーに並べられていた小物であった。

 ディオスはそれを見ると僅かに微笑み、店にはどの様な雑貨があるのかと見回した。

 アクセサリーにファッション雑貨と女性が目を引くものから写真立て、花瓶、キャンドル、文房具。そして、

「皿?」

 皿やマグカップ、スプーンにフォークを見て日用雑貨からキッチン雑貨へと変わったことに統一感がないと思っていた。加えて、この雑貨屋は一体何を専門として扱っているのかと疑問に思っている。

 ちなみに、ディオスが雑貨を見て統一感がないと思ったのは月に一度訪れて葬儀屋フネーラ日用雑貨を持ってくる道具屋がほんの僅かではあるが雑貨とは何かと教えたからである。

 雑貨の種類を知らなければ恐らく間違った認識をしていたであろうと思われる。

「でも、これいいな」

 雑貨の種類の多さに疑問を持ちながらもディオスは気になった皿を見た。

 皿は白く、縁には模様が描かれてるが落ち着いたイメージが感じられる。

 屋敷暮らしの時は派手な皿が多かったからこんな落ち着いた皿の方がいいなと思いながら見ていた。

「あれ?お兄ちゃん?」

 その時、背後から聞きなれた声が突然かけられたディオスは振り返った。

「やっぱりお兄ちゃんだ」

「ユリシア!?」

 声をかけてきたのやはり妹のユリシアであったことにディオスは驚いた。

 そのユリシアは現在通っている学園の制服を着ていた。

「ユリシア、どうしてここに?」

「ここね、かわいいものがいっぱいあるから時々来るの」

 それは分かる。ミクの食いつきを見ればユリシアもそうなのであろうと頷くディオス。

 それよりも、時間帯的に学園での勉強が終わった後にユリシア一人がこういった店を回ていることが財閥の時には考えられず意外であると思っていた。

「あれ、ユリシア?」

「あ、ミクちゃん!」

 ディオスがそのように思っていると、ユリシアの存在に気が付いたミクが声をかけてきた。

 声をかけられたユリシアは嬉しそうにミクの名前を言うと、ミクは驚いた表情を浮かべた。

「覚えてたの?」

「うん。お兄ちゃんが働いてるお店だもん。それにね、ミクちゃんにまた会いたかったから会えて嬉しい!」

「そうなんだ」

「うん。ミクちゃんと話してて楽しかったから」

 笑顔で話すユリシアに最初は驚いていたミクも徐々に笑顔になっていった。

 その様子にディオスはこんなにも嬉しそうに笑うユリシアを見たのはいつ以来かと考えていた。

 父親であるグランディオが死んで借金を背負うこととなってからあまり嬉しそうに笑うところを見なくなっただけに、本当に今嬉しそうに笑うユリシアが幸せであるのだと感じていた。

「そうだ。ミクちゃん、これからお茶しない?」

「え?」

 そう思ったのもつかの間、ユリシアの提案にディオスが青ざめた。

「お茶?」

「うん。ここの近くにおいしいお菓子が食べられるお店があるの」

「お菓子!行く!」

 お菓子と聞いてすぐに食べに行くと決めたミクにディオスは慌てて止めた。

「ダメ!ダメだよミク!」

「えー!どうして?」

「食べ過ぎだから!ここまで一杯食べたじゃないか!」

「まだ足りない」

「足りないじゃない!一体どれだけ食べるつもりなんだ!」

 菓子と聞いて目の色が変わったミクにディオスは何としてもあきらめてもらおうと必死になる。

 それと同時にユリシアに砂糖の物価がどれ程のものでそれを使った菓子がどれだけ高いものであるのかミク同様に聞きたい思いを抱いた。

 結局、菓子をあきらめきれないミクの様子にディオスはどこかで安い菓子を買ってユリシアと一緒に家で食べるようにと手を打たせ、財布からまた金がなくなったことに泣くのであった。

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