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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
20章 天体反乱(後編)
853/854

消失

予定日を過ぎてしまいすみません。

「ん?」

アロイライン教皇はミサの最中であるにも関わらず異変を感じ取って声を漏らした。

「どうかなさいましたか?」

小さい声を漏らしたにも関わらず隣に座っている枢機卿の1人が小声で尋ねる。

そう言われて少し悩み、アロイライン教皇は後ろに控えている秘書に席を立つ事を伝えると同時に隣の枢機卿に後の事を任せてミサから退場した。

「アロイライン教皇、いきなりどうなさったのですか?」

ミサが行われている大礼拝堂からロード教の教皇がいきなり退場した出来事に秘書が問い掛ける。ミサに参加している聖職者達はアロイライン教皇の突然の退場に何があったのかと驚いた顔をして眺めていた事を秘書は背中越しから感じ取っていた。

アロイライン教皇はそれを気にせず大礼拝堂から出てしばらく、秘書に振り返って足を止めた。

「貴方は戻りなさい」

「え?」

説明もなく追い返す言葉に意味が分からないと困惑する秘書を他所にアロイライン教皇は続ける。

「何が起こるか分かりません。後の事はよろしく頼みます」

「お待ちくださいアロイライン教皇!一体何を?ご説明を!」

「着いて来る事は許しません!」

「……アロイライン教皇」

短くも威圧ある抑止に秘書は背を向けて1人で歩くアロイライン教皇を見送るしかなかった。



アロイライン教皇は秘書や他の聖職者が追って来ない事を確認しながら目的の場所へと早足で向かっていた。

(退場したことを責められるでしょうが、こればかりはしかたがありません)

わざわざミサを抜け出した理由は死神(デス)に何かあったと知ったからだ。

歴代の死神(デス)と教皇は密接な関係を持っており、場合に寄っては公私関係ない程にだ。そんな中で歴代の教皇達は死神(デス)に何かがあった時、すぐさま駆け付けられるようにと四大天族からいくつか教えられる天眷術の1つを使って異変を察知する事が出来るようになっていた。

そのお陰でアロイライン教皇はミサの最中でただ1人気付くことが出来て、同時に古い決まり事の為に動くこととなった。

しかし、本来ならば天眷者として優秀な枢機卿を誰かしら連れて行くのだが、感じ取った異変がモルテから聞かされた事態と関係していたなら、何も知らない枢機卿は戸惑いと困惑で対応が遅れる可能性があった。だから、アロイライン教皇は誰も付けず事情を知る自分だけでラルクラスの元へと向かっていた。

(無事でいてください)

天眷術を唱える為の聖典の一句は既に唱えている。後は敵であろあ天体にどこまで通じてラルクラスを補助出来るかである。最も、それは間に合ったらの話である。だから、心の中で無事を祈るしかなかった。


* * *


「くっ!」

一方、ラルクラスはアムブリエルとガムビエルを相手に乱戦(・ ・)を繰り広げていた。

具体的にはガムビエルがラルクラスの姿を写し取って死神の鎌(デスサイズ)を振るい、アムブリエルが自身の分身を生み出して追い討ちや奇襲にサポートを行って一対複数と言う戦いを仕掛けている。

それは圧倒的に見えてしまうが、ラルクラスは守りの姿勢を取りながら乱戦の中で激戦していた。

「ラルク兄!」

「ユーグ!自分の身を守る事に集中しろ!手は出すな!」

ラルクラスが自分から打って出ない理由はユーグを守る為であった。

ユーグは死神であり、死神(デス)候補でもあり、師であるラルクラスから厳しく指導されている。その為に戦う事は出来るのだが、天体相手では決め手となる死神の力が弱い為に倒す点では難しい所だ。

だから、ユーグは自分の身を守ることに歯痒くも務め、ラルクラスはユーグを守りながら戦っていた。

「いつまで持つかな?」

それを知っている為にガムビエルがラルクラスの姿で言うと死神の鎌(デスサイズ)を横に凪ぎ払った。

ラルクラスも死神の鎌(デスサイズ)を振るって打ち消すと、襲い掛かって来たアムブリエルの分身を死神の鎌(デスサイズ)で切り付けて払って、散らかった床や傷つけられて崩れた壁へと飛ばされていた。

アムブリエルとガムビエルの襲撃で周りをなりふり構っていられる場合でない為に、いつも見慣れた部屋の風景は今や見る影がない程に荒れて崩れてしまっている。とはいえ、周辺に異変を感じ取られない様にとラルクラスが領域を展開しているので感知はされていない。

「ここまで数が多いと厄介だな」

倒しても倒しても徐々に増えるアムブリエルの分身にラルクラスは嫌気がして呟く。

「こっちも、ここまでやれることに驚きだよ」

言い返す様にアムブリエルも予想外と聞こえるように呟く。

現状では激戦だが、このままではラルクラスが防戦一方になるのが目に見えていた。

「ラルク兄、俺も戦う!」

「ユーグは自分の身を守る事に集中しろ!守りきれなくなる!」

先の展望にユーグが参戦を示すが、ラルクラスはそれをはね除けた。

本当は逃がせればいいのだが、自分の姿を写し取っているガムビエルと無限に分身を生み出せるのではないかと思えるアムブリエルではユーグが捕まってしまう可能性があり、最悪殺されてしまうこともある。それはラルクラスにとって非常に避けたいことであった。だからこそ、先の展望が絶望的であってもユーグを守ると決めていた。


その時、光る輪がアムブリエルとガムビエルを捕らえようと襲い掛かるが呆気なく打ち落とされた。

「邪魔だよ!」

所詮んは天族と眷属契約をした術者の術である為に対象されたが、それが隙となりラルクラスが周囲にいたアムブリエルの分身を死神の鎌(デスサイズ)で切り裂き、流れる様にガムビエルにも振るわれた。

「やってくれたね」

守りから突然の攻めにガムビエルが悔しがる。それから数秒は鍔迫り合いをしていたが、ラルクラスが大きく後退する。

「遅くなって申し訳ございません」

「問題ない」

声だけで誰か分かったラルクラスは振り返らずアロイライン教皇に応える。

「やっぱり来ちゃったか」

「アムブリエル、どういうことかなこれ?」

「ガムビエルの正体が予想よりも早くにバレたから足止め出来なかったんだよ」

アロイライン教皇の到着にガムビエルがどういうことかとアムブリエルに問い掛ける。

どうやらガムビエルがラルクラスとユーグの気を引き付けている隙にアムブリエルがアロイライン教皇が張っていた異変察知の天眷術を解除するつもりであったのだが、2人の予想に反してラルクラスが初っ端から気づいてしまった為に出来なくなってしまったのだ。お陰で1人の増援を許してしまったが、アロイライン教皇だけであることは喜ばしい事であった。


「彼等が天体ですか?」

「ああ、そうだ」

対峙する2人が天体であることを確認すると、アロイラインは天眷術を唱え始めた。

「もう一度隙を作ります。天眷・我は害する者を(ヴィラヴィ・)許すまじ(アパゴレシィ)!」

それは光る輪が標的を捕縛する天眷術。しかし、唱えたにも関わらず何故か光る輪が現れない。

「……」

予想外の事態にラルクラスとユーグが固まった。



壁が大きな音を上げて吹き飛ばされ、そこからユーグとアロイライン教皇が駆け出し、続いてラルクラスが2人を守る様にして立ち塞がる。

「ユーグ、アロイライン教皇を連れて逃げろ!」

「はい!」

守りから一転、ユーグを逃がしたラルクラスは死神の鎌(デスサイズ)を構えた。

アロイライン教皇の天眷術消失は痛手となった。天眷術は天族に効果が薄くても効かない訳ではない。使い方次第では十分に対抗出来るはずであり、2人の天体を退ける事も可能であった。

しかし、原因不明の消失によってアロイライン教皇の身の危険が跳ね上がった。ラルクラスはユーグの守りを捨ててアロイライン教皇を任せ、自分は足止めの為に天体と対峙する道を選んだ。

「申し訳ございません。まさか、力が消失してしまう事になるとは……」

「それは後です。今は御自分の身を守ることだけを考えてください」

助けに来た筈が足手まといになってしまったことを悔やむアロイライン教皇にユーグは無事になるように務めろと訴える。

実は、この時ちょうどシエラにおいて、セラフィナが力の回復を早める為にアスクレピオスの提案を飲み込んで天眷者との契約を解除した所であったのだ。

その事を知らない側からしたら突然の事に混乱、どうするべきかと頭を悩まして、声が響く。

「ユーグ!」

ラルクラスの焦った声がユーグの耳に届く。

振り返ると強い力を持った斬撃がアロイライン教皇へと飛んできていた。

「アロイライン教皇!」

ユーグは慌ててアロイライン教皇を突き飛ばすと、死神の武器である鎌にありったけの力を込めて斬撃を飛ばした。

今のユーグには飛んでくる斬撃を打ち消すだけの力はない。しかし、軌道を変えることだけは少しだけ希望があって賭けた。

そして、飛んできていた斬撃はユーグの斬撃を消滅させたが代わりに軌道を変えられて、ユーグの足元付近へと着弾した。

「があっ!」

しかし、元から込められていた力と着弾の勢いでユーグは吹き飛ばされてしまった。ゴロゴロと転がるも遠くへ飛ばされた訳ではなくすぐに起き上がってアロイラインへ駆け寄れるくらいの距離である。ただそれだけなら良かった。

飛んできていた斬撃はユーグを飛ばしただけでなく床を切断、さらには今までの戦いで負っていたダメージが合わさって亀裂が生じ、ユーグが倒れ伏している一部の床が崩れ落ちた。

「ユーグさん!」

アロイライン教皇が慌てて駆け出して手を伸ばしたが既に届かず、ユーグは暗闇の外へと放り出された。

今度こそ守りたい更新予定日。次回は10月20日。

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