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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
20章 天体反乱(後編)
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浄化のアドナキエル

大変遅れて申し訳ございません。

先程まで腕の中にいたハナリエルは、光の粒子となって消えてしまい、最後を見届けたアドナキエルは唖然となった。

消える間際にハナリエルが呟いた言葉がアドナキエルに苦い過去を思い出させたからだ。

仕えていた主が呼び止める為に必死になって叫ぶ様子。今の主が悲観して崩れ落ちる様子。フラッシュバックとして何度も何度も繰り返される。その全てを近くで見てきた故に。


ブゥゥン……と言う短い音が聞こえ、反射的に回避行動に出たアドナキエルは寸での所でバルビエルが振るったシャルルの突きを避け、それによって我に帰った。

「おらぁ!」

もう一発、今度はシャルルの2ヶ所が別れ、そこから鎖に繋がれた状態で振るわれた。それはヌンチャクに近くリーチが長くなったが、アドナキエルは続けて回避して攻撃が届かない所まで後退した。

「チッ!避けやがって!」

誰が見ても分かる隙にアドナキエルが嫌いなバルビエルは、何故か動きが止まったアドナキエルに慈悲深く待つ時間を与えることなく攻撃を仕掛けたが、気付かれてしまい舌打ちをする。

一方でアドナキエルは、バルビエルが持つシャルルを見る。


バルビエルの森羅万象(ユニバース)であるシャルルはバルビエルの持ち味である遠距離攻撃とは真逆の物である。

天体の森羅万象(ユニバース)は各天体の持ち味に合わせた物であるのだが、バルビエルは何故か棍棒であり、遠距離とは無縁である。

これについて神曰く、

『こやつに遠距離武器持たせたら外す事がないから頼もしいじゃろうが、他を寄せ付けないじゃろう。じゃからこっちにした』

この時点で神はバルビエルの性格から遠距離武器系を持たせれば対人関係も含めて危ないと危惧して棍棒を与えたのだ。もっとも、棍棒には色々な仕掛けが施されているから絶対に近距離からと言うわけでもない。それに、工夫次第で近距離でも大差なく振るえるのだがらデメリットらしい所は見当たらない。

しかし、それは建前であり本当の目的は何らかの理由でバルビエルが暴走した際に止められる様にする為だ。

バルビエルの力は敵に必ず当たる攻撃を与える力と言っていい。止める為に立ち向かう存在は瞬く間に鎮圧されてしまう。だからこそ、力の抑制の為にシャルルが与えられたのだ。



シャルルを見るアドナキエルに気付かず、バルビエルは忌々しそうに吐き捨てる。

「ケッ!アムブリエルに戻ってねえハナリエルが庇っても関係ねえのか」

「何?」

バルビエルは何と言ったのかとアドナキエルは仰視する。

「はぁ?気づいてねえのか?ああ、知らねえのか。その顔が見れただけ傑作だな」

「まさか!」

「そのまさかだ!ハナリエルはアムブリエルに殺されてねえ!もちろん俺もだ!」

気が付いたと驚くアドナキエルに自慢げに真実を明かすバルビエル。

ハナリエルとバルビエルはアムブリエルの分体でありながら本体に戻っておらず自分の意識を持って動いていた。ハナリエルはアドナキエルを支える為に。バルビエルはアムブリエルに自分から協力していた。

「戻っていないにも関わらず、何故アムブリエルに加担する!そもそも、何故自身がアムブリエルの一部であることを知っている!」

今までの発言からバルビエルが全てを知った上でアムブリエルに協力していることは明白であった。

「てめえをぶっ殺す為だアドナキエル!」

その発言にバルビエルは顔を歪めて叫んだ。

「俺はてめえの事が心底気に入らねぇ!気づいてんだろ、俺がどう思っているのか!それでもすかしたてめえがもっと気に入らねえ!てめえの抱えてる物、全部ぶっ壊してやりたいくらいだ!」

「その為にアムブリエルに加担したのか?」

「悪いか?主に反乱すれば、てめえが止めるのは分かっていたんだ。まんまと乗せられた事に気付いてねえんだよ、間抜けが!」

バルビエルはあくまで自分の直情に従ったまでのこと。そこにアムブリエルに利用されたと言う思いはない。

何故ならバルビエルはアドナキエルの虐殺を、アムブリエルは神への復讐と言う似た目的により手を組んだまでの事。アムブリエルの目的しか見ていなかったアドナキエルはバルビエルの性格から軽視していた為に気が付けなかったのだ。


思いがけない真実にアドナキエルは立ちすくんでいたが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「そうか。貴様がここまで危険であるとは思わなかった」

自分の今までの認識を改めたアドナキエルの言葉にバルビエルは顔を歪める。

「はぁ?それだけか?」

「……」

思っていた反応でないことに眉を上げて言うが、アドナキエルは何も言わない。

「おい、聞いてんのか?」

「……」

「くっそ、結局てめえはすかしたままかよ!」

「そうだ。その程度の(・ ・ ・ ・ ・)危険(・ ・)で私が狼狽えるはずなかろう」

結局、バルビエルの告白はアドナキエルの認識を改めた程度で脅威でなかった。

「アドナキエルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

バルビエルはこれでもかと叫んで、ありったけの力の塊をアドナキエルに向けて放った。

自身の力とシャルルの補助は例えアドナキエルが防御しても突き破り、回避しても当たる様になっていた。完全に消滅させる気で全力を注いだ攻撃であった。


「……愚かな」

アドナキエルに攻撃が当たる寸前、バルビエルの耳に小さな声で侮辱する言葉が聞こえた気がした。

瞬間、1本の光の一線が力の塊から発射されてバルビエルの胸を貫いた。

「ごほぉっ!?」

口から血が零れ、光の一線は霧でも払う様に力の塊を呆気なく消滅させた。

何が起こったのかと見たバルビエルは、アドナキエルが弓を構えていたのを目にして、光の粒子となって消えていった。



バルビエルの消滅を見届けたアドナキエルは自身の森羅万象(ユニバース)であるシェキナーを見て目を細めた。

「使うつもりはなかったのだがな」

感情に動かされてしまったかと思いながらシェキナーを手元から消す。

アドナキエルは天体だけでなく天族全体から見ても特異な存在である。

その理由を先に述べるなら、死神(デス)の為に生み出されたアドナキエルは、死神(デス)が何らかの理由で動けなくなった場合の間を保つ為の存在であるからだ。

今でこそ多くの死神がいる為に不足や予想外の事態に陥ることはないが、元々死神と呼べる存在は死神(デス)1柱しかおらず、死神(デス)だけで対処仕切れない場面もある。そうなった状況で共に立ち向かう役割を担ったのがアドナキエルである。

アドナキエルに死神(デス)と同じ死者を殺す力はない。だが、強力な攻撃で目の前の敵を葬って無力化する事が出来る。

それ故に付けられた呼び名が、浄化のアドナキエルである。




廊下から走る足音が聞こえてアドナキエルは振り向いた。

「モルティアナ様」

走って来ていたのが今仕えている主であるモルテと、その弟子のディオスであった。

「アムブリエルは?」

辿り着くまでの間、モルテはアムブリエルの分身相手に連戦であったにも関わらず疲れた様子を浮かべずにアドナキエルの元に近づいて尋ねた。

その言葉にアドナキエルは頭を下げた。

「申し訳ございません。先に行くのを許してしまいました」

「そうか」

短い報告にモルテは、信頼しているアドナキエルの失態に怒りと失望を見せずに結果を静かに受け入れた。

一方、アドナキエルを警戒して境目である扉の前で立ち止まって様子を伺っていたディオスは体が固まってしまっていた。

モルテが信頼していると言ったから辿り着くまで足止めしていると思っていた。けれどもまさかの失敗に驚いている。

『がっかりだ』

前触れなく聞こえてきた声にディオスの顔が歪む。

『期待していたのにがっかりだ。でも、いても何も出来ないから良かったかもしれない』

「……うるさい」

どこが良かったんだと言い返したい所だが、モルテがこちらを振り返ったことで文句を言うのを止めた。


「あ、いたいた」

「は?……はい?」

その時、背後から聞き覚えのある幼い声にディオスは振り返って裏返った声を上げた。そこにいたのが、妖精の王(オーベロン)のプロテアであるからだ。

「な、何でいるんですか!?」

突然現れただけでなくこの場にいるのが分からない。そもそも、妖精の楽園(フェアリーガーデン)を守る為に出られないのではないかと記憶を手繰り寄せる。

「やあ、間に合ったようだね。ここから先に行かれたら私達では入れないからな」

「あ、あの……?」

プロテアの勝手に納得する様子に意味が分からないと言うディオス。

それを他所にプロテアはいつの間にかあった切り裂かれた空間に向かって声をかけた。

「バラ」

プロテアの言葉に空間の先に妖精の女王(ティタニア)のバラがいるのかとディオスは思っていると、そこから2人、遅れてもう1人の計3人が現れた。

「おいっ!?」

「おおおっ?」

「うわあっ!?」

現れた3人は三者三様で驚きの声を上げた。

だが、そんな声はディオス、成り行きを見ていたモルテとアドナキエルの耳に入っていなかった。

現れた3人が現死神(デス)のラルクラス、現教皇アロイライン、ラルクラスの弟子であるユーグであるからだ。

何故この3人が?と訳が分からずポカーンと立ち尽くしてしまった。柄にもなくモルテとアドナキエルまでもがである。

何でこの3人が出て来たの?訳分からない状態です。

ちゃんと理由はありますので次回をお楽しみに。



次回更新(予定)が9月22日です。今度こそ守るぞ!

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