たとえ思いが届かなくても
すみません、素で予約投稿忘れてました。
ヘルヘイム城が襲撃されてしばらく……
「酷い目に会った……」
幻獣達に気付かれない様に脱出したムリエルはやれやれと首を振る。
「力が通じなかったな。逃げ出そうとしなかったのは突破が無理なのではなく、いつでも対処出来たからか?」
共に脱出したマルキダエルがヘルヘイム城から逃げ出す切っ掛けとなった事、モルテの事を考えていた。
天体はモルテが持つ力と権限を警戒して隙を見て閉じ込めた。脱出出来ない様にとその手に長けた天体が集まって封じ込めていた程にだ。最初こそは抵抗はあったが、以降はなく諦めたものだと思っていた。
だが、森の母と幻獣達が襲撃を掛け、その隙に解放された時はまとめて封じ込めようとしたが、諦めていたと思っていたモルテに反撃されたどころか、通じないと言われてしまった。
その時の為に力を溜めていたかは分からない。そうでなくても状況が悪いと判断してその場にいたハナリエル、ムリエル、マルキダエルは距離を開ける為に退避することにした。しかし、幻獣達に襲撃されていることも相まって、3人はヘルヘイム城から撤退するに至ったのだ。
口々に言うムリエルとマルキダエルをよそに、ハナリエルはヘルヘイム城を見つめていた。
「皆は大丈夫でしょうか?」
ヘルヘイム城には他にも天体がいた。突然の襲撃で遅れを取ることはないだろうが、それでも無事であるのか気になる。
(それに、アムブリエルがどうなったか)
ハナリエルは反乱を行う事に表面上は賛成を示していたが、実際は反対派であった。
反乱を行う動機がないと言うこともあったが、反乱をしても天体と呼ばれる組織、シエラとエーラ2つの世界の先行きが見えなかったからだ。
(アドナキエル……)
何より、ハナリエルはアドナキエルの力になる方がずっと良かった。
だから、アムブリエルに近付きつつ情報を集めては反対派筆頭であるアドナキエルに全てを伝えていた。頼りにはされず扱いも良くはなかったが、それでもいいとハナリエルは尽くし続けてきた。
今のハナリエルにはアドナキエルの安否とアムブリエルの行方の方が襲撃よりも気になって仕方がなかった。
「ぐあっ!!」
ヘルヘイム城を眺めていると、背後からムリエルの悲鳴が聞こえ、何事かと慌てて振り返って信じられないと起こった光景を疑う。
「何をしているのですか、マルキダエル!!」
マルキダエルがムリエルにラビュリントスを振るって傷付けたのだ。
この暴挙を止めなければとハナリエルは拘束の為にレージングを投げて、マルキダエルに絡まる直前で別方向からのレージングに弾き飛ばされる。
「……っ!」
一瞬驚愕するも、すぐに自分に似た力が迫ってくるのを感じてその場から大きく後退する。
「あれ、バレちゃった?」
そう言って現れたのは、鏡の森羅万象テスカトリポカを持ち、変身を解くガムビエルであった。
「ぐあぁぁぁ!……マル、キダエル、どうし……」
直後、マルキダエルがムリエルにトドメを差して息絶えたのを見て、ハナリエルは2人を睨み付ける。
「どういうことですか、ガムビエル!マルキダエル!この様な暴挙を行うなんて正気とは思えません!」
「正気だよ。必要なことだからやっているんだよ」
「必要なことですって?」
受け答えに答えたガムビエルの言葉にハナリエルは身構えた。
ガムビエルとマルキダエルの目に狂いが見られない。本当に目的の為に必要であり、だからこそ躊躇なく行える『必要』な事に警戒する。
「その為に仲間を手に掛けると言うのですか?そんなやり方は……」
「認められないよね。うん。ボクもね、聞いてたら反対していたよ」
「ならば……」
「だけど、それをしてもいい理由があったんだよ」
ハナリエルの言葉を遮り、ガムビエルが歪んだ笑みを浮かべた。
「ボク達はアムブリエルの一部だったんだよ。主がアムブリエルを生み出した時、その力の強大さに恐れて力を別けた。それがボク達だ。ボク達がやっていることは元に戻る為のことなんだ。だから、手を出しても問題がないんだよ」
「なん、ですって……」
自分がアムブリエルの一部と伝えられたハナリエルは信じられないと震える。
「そんなこと、信じられ……」
「信じられないよね。あ、アドナキエルは別だよ。あれはボク達よりも先に生み出された天族だからね」
先に生み出されたから自分達とは別の存在であると伝え、ハナリエルを更に追い詰める為に告白する。
「それに、おかしいと思わなかったかな?ハナリエルはアドナキエルに尽くしているのに、アドナキエルが見向きもしないことに?それはね、アドナキエルがボク達の事を知っていて、暴走しない様に監視していたからなんだ。だから、ハナリエルが信頼していても、アドナキエルはボク達を信用していなかったんだよ」
「!?」
アドナキエルの目的と気付かなかった本性にハナリエルは何も言えなかった。言い返すことが出来なかった。
例え狂言であったとしてもガムビエルの言葉は、今まで時折見えていた違和感を納得させるものであったからだ。
「だから、一つに戻るんだよ。そうすればハナリエルが持ってる気持ちは気にならなくなるから」
ガムビエルだけでなくアムブリエルの分身全てが、ハナリエルがアドナキエルにどういった感情を持っていたかは知っていた。だから、これ以上苦しまなくていいからとテスカトリポカからレージングが現れてハナリエルを貫こうと飛び出す。
「くっ!」
だが、それに対してハナリエルはレージングで弾き飛ばすと転移でその場から逃げ出した。
「……あ~あ、逃げちゃったよ」
動揺させて気持ちを弱らせれば簡単に殺せると思っていたのだが、どうやら逆効果であったようだ。
「だけど、いいかな」
ハナリエルには逃げられた。だが、それを挽回する手立ては残されていた。その余裕から笑みを浮かべてしまう。
「それじゃ、行こう」
ガムビエルはマルキダエルを促して探すでもなく転移で消えてしまった。
* * *
転移で危機から回避したハナリエルはこれからどうするべきかと考え込んだ。
アドナキエルの為に尽くしていたのに頼られていなかった。信用されていなかったショックがとてつもなく大きい。
「……それでも私は……」
しかし、思ったよりも早くハナリエルは立ち直った。自分がやるべきこと、役割、やりたいことを再認識したからだ。
その認識を胸にヴァルハラ城を見る。恐らくアムブリエルを、天体を止めるためにアドナキエルはそこにいるだろうと検討を付けて歩き出した。
◆
胸を貫くシャルルから滴る血が床へと落ちる。とてつもなく痛いと感覚が大きく訴えている。
「よかった……」
だが、ハナリエルは突き飛ばしたアドナキエルが驚愕の表情を浮かべながらも無事であることに笑みを浮かべた。
「何をしているんだ?」
だからこそ、アドナキエルにはハナリエルが起こした行動が分からなかった。
「チッ!」
邪魔をされて殺し損ねたバルビエルは乱暴にシャルルを引抜いた。それによってハナリエルはアドナキエルに向けて倒れ込んでしまい、アドナキエルは慌てて受け止めてしまった。
「ふっ!」
直後、再び突き出されたシャルルにアドナキエルはハナリエルを抱えて大きく退避して、今まで聞いたことがない声で尋ねた。
「何故だ?何故私を助けた?」
アドナキエルの認識では、ハナリエルはアムブリエルの分身の1人。今は反乱を企てる敵である。その敵がどういう訳か自分を助けた。
分身がアムブリエルに戻れば、個性は各分身のままであるが、意識はアムブリエルに向いてしまう。それを知っていたからアドナキエルは他の天体とは距離を置いて、心の隙を悟らされない為に信頼しない様にとしてきた。
「どうやら、私はアドナキエルの目的を知っても、気持ちが、変わらなかったようです……」
そんなアドナキエルにハナリエルは今にも消えそうな声で語る。
現にハナリエルの体は限界に達しようとしていた。バルビエルがシャルルで貫いた場所は天族が形作る為の核、人間で言うと心臓の様な物、の場所に近かったのだ。核を破壊されれば天族は形を取れずに消滅、死してしまう。
僅かに核から外れていた為にハナリエルは自分が消えてしまう前に伝えなければと力を振り絞る。
「アドナキエル、私はーーーー」
それがハナリエルの最後の言葉となり、力尽き光の粒子となって消えてしまった。
次回更新は9月15日です。




