遺体を切る
扉が開けられ中に入るとそこには四つの台が置かれており、その内の一つには男の遺体が寝かされていた。
ディオスの目に遺体が入ると、後ろにいるミクが見ないようにと遮る様に立ち直した。
直後にミクが頬を膨らますが背後にいる為に表情は分からない。
「ディオス、ミクも慣れているんだ。そんなことしねくていいんだ」
「そう言われても……」
ファズマが呆れながら言う様子にディオスは複雑な表情を浮かべた。
葬儀屋フネーラに住み込んでから知った事であるがミクは遺体と言うものを見慣れているのだ。
店で遺体を預かったりしているからなのだろう。遺体を目にする機会が多く自然と慣れてしまっているらしい。
慣れてしまったと言う言葉は聞こえはいいがそれが果たして、妹のユリシアと歳が同じ女の子が遺体に慣れてしまっていいものなのかと複雑な思いを感じてしまう。
そんな複雑な思いを感じているディオをすり抜けてミクが横に立った。
「それでは、お願いできますでしょうか?」
「はい」
クロスビーの言葉にファズマは遺体が寝かされている台に近づくとどこからともなく一本の短剣を持つと鞘から抜いた。
その鞘から抜いた短剣を遺体の首元に当てると、遺体を切らないように切り裂いた。
「これで大丈夫です」
「ありがとうございます」
遺体全体に布をかけ、鞘に短剣をしまうファズマにクロスビーはお礼を言った。
一方でディオスはファズマが遺体の喉の近くで短剣を振るっただけなのにクロスビーがお礼を言っているのは何故なのかと横で見ていたミクに尋ねた。
「ミク、ファズマは一体何をしたんだ?」
「繋がりを切ったんだよ」
「繋がりって……確か、肉体と魂?」
ミクの言葉に今朝方モルテが死神について話す前に行っていた言葉を思い出すディオス。
そのディオスの言葉にミクは頷いた。
「うん。切らないと大変なんだ。だから師匠とファズが交代で繋がりを切るために教会に行くんだよ」
ミクの言葉にディオスは急に疑問が浮かび尋ねた。
「何が大変かは分からないけど、ファズマって死神の弟子なんだよね?ファズマでも切れるのかな?」
「それはさっき見た。ファズでも切れるよ」
「俺が言いたいのは、イメージする弟子って力とか技術とか能力が劣っていると言うのか、出来ることが少ないと思うんだ。それなのにあんなにあっさり剣を振るったからおかしいと思って」
「切ることは簡単だけど師匠みたいに綺麗には切れない」
「何言ってんだミク。切る側も大変だぞ」
ディオスの疑問に回答をするミクにファズマが短剣をしまいながら呆れた様子を向けた。
「そもそも死神になれば鎌なんか出さずにそこら辺の物に力を纏わせて切ることが出来るんだ。それをしても切ることが難しくねえっつうからスゲーんだ」
「そこですごいっていうファズマもすごいと思うけど……」
むしろそんなことが出来てしまう方が怖いとディオスは思う。
「それよりも、どこから聞いてたの!?」
「ディオスがおかしいと言ったところからだ」
そう言えばファズマが何故話に入って来たのかと疑問に思って尋た。
「俺には店長みてえに綺麗に切ったり物に纏わせることはできねえ。だがな、これがあるから切れるんだ」
ファズマはそう言うとディオスに短剣を見せた。
「生霊を切り裂くことは難しいが遺体なら切り裂くことが簡単だ」
短剣をよく見るとそれ程大きくはないが刃と柄の境に赤い宝玉が埋められていた。
「これがあるから師匠の弟子でいられるんだ」
そう言うと短剣をしまいクロスビーに向き直した。
「ところで、この遺体を誰がいつ運んで来たのですか?」
ファズマはミクから聞いてからずっと疑問に思っていたことを尋ねた。
「早朝です。ミサが終わってからリナシータという人物が運び込んで来たのです」
クロスビーの言葉に三人は驚いた表情を浮かべた。
「葬儀屋と言っていましたがあなた方からは何も聞いてはいません。そこで切られていないと思い連絡をしたのです」
「なるほど」
クロスビーの話にファズマの表情が強張る。
「遺体を改めて見せてもらってもよろしいですか?」
「どうぞ」
ファズマの要望にクロスビーは疑問も問を投げず頷いた。
ファズマはすぐさま遺体にかけたばかりの布を払った。
「ディオス、そこの台をくっつけてくれ」
「あ、はい!」
ファズマからの突然の指示にディオスは慌てながら何も乗っていない台を遺体が寝かされている台にくっつけた。
ファズマは台が付けられたのを確認もせずに遺体の頭部を確認すると来ていた服を脱がして、クロスビーに手伝ってもらい上半身を起こした。
「外傷はねえ」
呟くと再び寝かせて瞼を開けて眼球を見た。
「……」
僅かに顔を曇らせるとすぐに顔を上げると脱がせた服を改めて着せ、布をかけた。
「よろしいのですか?」
「はい、ありがとうございます。それと、この遺体のことは明日警察に連絡をお願いします」
ファズマの要望にクロスビーは静かに頷いた。
それを見ながらディオスは警察と聞いてやっぱり何かあるんだと思った。
「それでは失礼します」
「本当にありがとうございます。出口まで見送りましょう」
そう言ってクロスビーは聖ヴィターニリア教会を出る三人を見送る為に歩き出した。




