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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
20章 天体反乱(後編)
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時間稼ぎ

しばらくお休みにしていて申し訳ございません。

更新ペースを元に戻す為に週一に1話ずつ投稿していきます。

 アドナキエルは本気で相手にするつもりがない。

 その事に気がついたアムブリエルの言葉は水面に一石投げ入れて出来た波紋の様に静かに呟かれたものであった。

「何だと!?」

 それとは対照のバルビエルは感情に任せて驚く。自分は手を抜いていないが、アドナキエルが手を抜いていたことに苛立ちが募る。

「だって、僕達の打つ手が全て読まれている。あれは知っているからじゃない。本気を出してまでやるつもりがないんだよ」

「クソが!」

 全てを知っていたことで甘く見られていた。しかも、対処可能であったことに吐き捨てるバルビエル。だが、アムブリエルは更なる爆弾を投下する。

「アドナキエルは時間稼ぎをしているに過ぎない」

 結論を出すとアドナキエルのこれまでの行いが納得出来る。

 アドナキエルはアムブリエルとバルビエル、2人の天族を相手にしているにも関わらず退けを取っていない。むしろ、圧倒していると言っていい。それにも関わらず自分から積極的に攻撃しようとしない。もし正面から戦っていたなら、2人の力を知っていることを入れても簡単に退けることが出来たはず。

 アドナキエルが攻撃をする時は自分の身を守る時か邪魔をする時だけ。明らかにおかしいのだ。本当に倒そうと思っていない。

(まあ、僕の力を考えれば倒すことが無理だからね)

 バルビエルは倒せても、分体を作り出して鞍替え出来るアムブリエル相手では無駄に力を消費させるだけの鼬ごっこだ。いずれ詰むことが分かっている。だからこそ、アドナキエルが取った手段が力の消費を極端に抑えた時間稼ぎなのだ。

 しかし、時間稼ぎは相手を直接倒す手段ではない。目的を達成する手段を準備する事を意味している。では何故、アドナキエルは時間稼ぎをしているのか。


 アムブリエルは意識を戦いの場から違う戦いの場へと変えた。

(……近付いて来ている)

 意識を変えた風景は、ここへ来るまで通った白亜の廊下。そこでは自身の数体の分体を相手にするモルテ、少し離れた場所に避難して見守って立つ節制がいた。

 足止めの為に多くの分体を置いてたが、確認してみると多くの分体が消滅している。2人は確実に分体を退けながら近付いて来ているのだ。

(それと、|もう1人……)

 2人とは別の場所に彼女(・ ・)がいた。

 モルテと節制の2人よりも先にヴァルハラ城入っていながら、自分達よりも到着が遅いのは地理が分からないからだろう。ならば好都合だから倒そうと思うかもしれないが、アムブリエルにそんな気はない。何より、把握していながらも分体を仕掛けるつもりがないのが証拠だ。

 いつでも倒せるからではなくむしろ逆、アムブリエルにとって彼女(・ ・)の力が現状では唯一倒せる一手とも言える。それでも倒そうとしないのは分体の1人であるからだ。今はただ泳がせて動向を知れればいい。そして、彼女(・ ・)は確実にここへと辿り着く。それを理解しているから自分から手を下さないのだ。



 状況の確認を終えて、アムブリエルは意識を目の前へと戻す。

 ほんの短い時間ではあったのだが、バルビエルの表情は不機嫌を通り越し、いつでも怒りを爆発出来る状態であった。

「ふっざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 出来る状態ではなく寸前であった。

 アドナキエルの行動が発覚した途端にバルビエルは叫び上げながら、廊下一杯に幾つもの力の弾を生み出して放った。

 これを見たアドナキエルは回避が不可能と判断して守りの盾(シールド)で守る体制を取り、多くの力の弾が守りの盾(シールド)にぶつかる直前で爆発を起こした。

 廊下の端から端の目一杯で起こった弾同士がぶつかって起きた爆発は、数に比例して威力やら衝撃が膨大なものとなり、身を守っているアドナキエルは守りの盾(シールド)が崩れないように維持する為に呻き声を上げる。

「くっ……」

 爆発の最中でも無事であった力の弾が守りの盾(シールド)へと着弾する。

「おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 バルビエルの叫びに呼応する様に力の弾が爆発の中から守りの盾(シールド)へと大量に着弾していく。

 爆発を起こしたのは意図的であったのだ。その場から動かないのならアドナキエルの力を消費させればいいこと。爆発で動けない状況を作り、そこに大量の弾を撃ち込んで消費に追い込む。なにより、数の多い攻撃を受け続けるということは、綻んだ場所を追従修復しなければならない。逆に言い替えると追い付けなければ崩壊する。下手な鉄砲も数打ちゃ当たるの精神である。

 弁明するが、バルビエルは、けして的に当てるのが下手なわけではない。むしろ達人である。その腕前で持って当たらない方がおかしいことであって、この場合の故事は沢山放った弾が邪魔な壁を壊して当たればいい方の意味である。


 アドナキエルとバルビエルの攻防は続き、制したのはアドナキエルであった。

 爆発も弾も収まったことと、発動している守りの盾(シールド)が限界に達していたことで解除した途端、目前にバルビエルがいた。

「ぶっ飛びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 守りの盾(シールド)が収まった頃を見計らって狙ったバルビエルのカウンター攻撃。

 当てることに特化しているバルビエルの拳はアドナキエルの顔面目掛けて突き出され、右手で受け止められた。

「何!?」

「愚かだな」

 不意を狙った攻撃のはずなにの受け止められたことに驚くバルビエルに一言呟くアドナキエルは、そのまま突き出された拳を握ってバルビエルは放り投げる。

 投げた場所は、隙を付いて奥へ行こうとしていたアムブリエルに衝突する。

「がっ!」

「がふっ!?」

「お前が得意としているのは、遠距離からの攻撃だ。近距離に持ち込んでは、お前の持つ戦いを生かせないだろう」

 アムブリエルの動きを止めたのを見届けて、バルビエルの欠点を述べるアドナキエル。敵に情けと言うよりは、この場合は煽っていると捉えていい。

「こっのやろぉ……」

 ただでさえアドナキエルを嫌悪しているのに攻撃を封じられたり馬鹿にされれば、バルビエルの中にある怒りが何処までも上がる。



「バルビエル、僕の声、聞こえてる?」

 そこに、小さな声でアムブリエルが声を掛けると、

「ああぁ?」

 不機嫌な声だけが帰ってきた。しかし、聞こえているならそれだけでいいと、アムブリエルは小さな声のまま語る。

「やってほしいことがあるんだ。多分上手くいくはずだから」

 名案が浮かんだと言わんばかりに手短に、本当に短く、特に難しいことをしなくていい方法を伝える。今のバルビエルに命令や難しいやり方を伝えると、成功するものが失敗する可能性があるからだ。相手がアドナキエルであるならなおさらだ。

「……後は好きにって、バルビエル!?」

 アムブリエルの説明が終わろうとした時、バルビエルがゆっくりと立ち上がり、アドナキエルを睨み付ける。

「いいぜ!だったら、受けてみやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 特大な力の弾を作り出して打ち出した。煽りに乗った形であり、アムブリエルの名案を無視した感情任せの攻撃だ。

「……」

 そんな攻撃を無言で見届けたアドナキエルは、少し体を動かすだけで回避してしまった。

 戦い始めた時から何度も見ている為に対処が出来ていることと、対抗する為に力を消費したくないと言う考えがあったからだ。

 当たらなかった力の弾はそのまま直進するが途中で弾ける様にして形を崩し、中からアムブリエルが姿を現した。

「何!?」

 突然現れたアムブリエルの気配にアドナキエルの表情が初めて驚愕へと変わった。


 バルビエルは確かにアドナキエルの煽りに乗ったがアムブリエルの名案を無視したわけではない。いや、半分は無視している。

 アムブリエルが出した名案は、バルビエルが特大の力の弾を作り、その中にアムブリエルが入ったら放つだけの簡単なこと。

 そもそも、アムブリエルが純粋な力で出来た弾の中に入って問題がないのかと聞かれると、問題はあるがないと言える。確かに力の弾は込めた分だけ威力が上り、内部ともなれば消滅をしてもおかしくない。だが、アムブリエルは新しい分体を随時生み出して続ければ切り抜けられるのだ。

 そして、アムブリエルが力の弾を対処するのではないかと予想もあったが、これに関しては心配していなかった。何故なら、アムブリエルが対処するものは明らかに回避が不可能なものから身を守る守りの盾(シールド)と足止めに放つ光弾(ライトバレット)だけ。それ以外で力を使うことがないのは今までの戦いで分かっていたことだからだ。

 ならば、何故バルビエルが半分無視したと言うと、アムブリエルの準備なしに勝手にやったからだ。しかも、初めからやるつもりであったと言うのだから、アムブリエルが慌てて力の弾に入り込んだのだ。

 もはや、これがバルビエルだからと諦めるしかない。

 だが、結果を見るなら作戦は成功し、アムブリエルはアドナキエルを突破した。


「待て!」

 新しい分体に体を移し替えて奥へと走るアムブリエルを追い掛けようとするアドナキエル。だが、背後に感じ取ったドス黒い気配に振り返る。

 そこには、棍棒の形をした森羅万象(ユニバース)、シャルルを突き付けようとする場合はがいた。

 アムブリエルの突破に驚愕したあまりに生れた隙は、アドナキエルに死を突き付けられる。






「アドナキエル!」






 突然聞こえた甲高い第三者の声が響いた直後、アドナキエルは誰かに突き飛ばされた。

「な……」

 何故、とは言葉に出なかった。アドナキエルの目の前ではあり得ない光景が写っていたからだ。

 バルビエルが突き出したシャルルに左胸を貫かれたハナリエルがいた。ハナリエルがアドナキエルを突き飛ばして身代わりとなったのだ。

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