擬似的な不老不死
コツーン、コツーンと、白亜の廊下を歩く2つの足音が響く。
「本当にこっちなのか?」
「うん。分身を四大に付けて探らせていたから間違いない」
問題なくヴァルハラ城内を歩くアムブリエルの後を歩くバルビエル。
しかし、バルビエルの表情は徐々に面白くないと浮かばせて、舌打ちをする。
「しっかし、分からねえな。何だって直接乗り込むんだ?分身の侵入に成功してんなら、そのままでもいいだろうによ?」
「それじゃ駄目なんだよ」
アムブリエルが取った手段であれば、このままヴァルハラ城にいる主の元まで行けて目的を果たせたはず。それを指摘したバルビエルにアムブリエルは笑って否定する。
「主がいる場所は簡単には行けない。いいや、行けないようになっているんだ」
「どういうことだ?」
「ひねくれているんだよ。本当に、裏をかいたようにね」
全てを知るアムブリエルの表情は、一見すれば笑っているが、内心では悪態と嫌悪で一杯だ。
「それに、僕だけが主に会うのは許せないでしょ?」
「……ふん」
アムブリエルに共にいる理由の目的の一片を出され、バルビエルは鼻を鳴らす。
「そのひねくれたものってのを教えやがれ!」
「うん。いいよ」
そして、アムブリエルはあっさりとバルビエルに理由を教え始める。
* * *
ファズマの毒舌に何とも言えない纏まり方となったものの、アスクレピオスは気持ちを早々に切り替えた。
「それでは、私は他の天族の手当に参ります。ファズマのことをよろしくお願いします」
そう言って、転移でこの場から消えてしまった。
「あいつ、勝手に締めやがった」
自分がやることはまだあり、あとのことは任せたと言わんばかりの丸投げにファズマが再び毒を吐く。
その証拠に、セラフィナの部下達も、あまりな展開に浮足立っている様に見える。
「……アスクレピオスがやってくれるのなら、喜びましょう」
しかし、アスクレピオスがやろうとしていることは、天体との戦いで消耗している四大天族にはうれしいことであると、セラフィナとフレイアはあっさり受け入れていた。
「しかし、問題はアムブリエルじゃな」
「ええ」
そして、次の問題へと目を向ける。
「アムブリエルって、確か、複製のアムブリエルか?そんなに厄介なのか?」
2人の話を耳にしたファズマが疑問をぶつけると、ミク、ヴァビルカ前教皇にハイエントまでもが、その理由を教える。
「アムブリエル様の力は数を増やすことに長けておられますの」
「うん。目の前にいたと思ったら後ろにもいるって感じで、とにかく一杯増えるの」
「無限と言いたいことろだが、あれは力で増やせるだけで、なくなれば増やすどころか維持も出来ない」
「なら、力を消耗させれば……ああ、そう言うことか」
何を言いたいのか理解したファズマは顔をしかめる。
「そう。消耗させるには、奴に力を使わせるしかない。じゃが、それに妾達が耐えられるかとなれば、不可能じゃ」
「そして、アムブリエルが他の天体を自分に戻しているとなれば、その力は私達が知る以上のものです」
つまり、消耗させて倒すことは出来ない。そんなことをする暇があれば違う方法を考える方がいい。
「更にじゃ、奴は己が倒されたとしても、分身が無事であるなら、そちらに意識を移し変えることが出来る」
「おい、それって!?」
「擬似的な不老不死だな」
フレイアからの思いがけない真実にファズマ達人間が驚愕する。
「でも、死神の力だったら……」
「無理でしょう」
「え?」
死神の力は死を与える力であるからとミクが訴えるが、セラフィナは否定した。
「死神の力は、その力に触れなければ効果は発揮されません。力が及んでいない分身には効果がありません」
「そんな……」
ここに来て、死神の力でも不可能があると突き付けられる。
ハイエントが擬似的な不老不死と言ったが、もはやこれは不老不死と言っても過言ではない。
「それじゃ、倒すことが出来ないの?」
ミクの言葉に全員が言葉に詰まる。
どう見たところでアムブリエルを倒す手立てがないのであるから。
「方法は後でええ!」
諦める様な雰囲気に、フレイアが叫ぶ。
「今はモルティアナ様を追う。セラフィナ、妾は先に行く。後でクレメンスとダグザとこやつらと共に来い!」
「フレイア!」
「どのみち、アムブリエルを止めねばならんのじゃ。諦めるのは成し遂げられなかった時じゃ!なにより、モルティアナ様は諦めておらぬ」
「!」
フレイアの言葉にセラフィナは、モルテがアムブリエルを止める為に、自分が止まらず走り続けていることに気付かされる。
「後で来い。よいな?」
そう言って、フレイアは1人、ヴァルハラ城へと向かった。




