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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
20章 天体反乱(後編)
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天眷者の弱点

長らくお待たせして申し訳ございません。

少し鬱憤貯まって執止めとなっていました。

 モルテとディオスがスペルヘイムに辿り着く少し前。

 ミク、ヴァビルカ前教皇、ハイエントもヨトゥンヘイムに辿り着いて、惨状を目の辺りにしていた。

「ひどい……」

 セラフィナを含めた創作の天族の容態に、遺体の傷等を見慣れているミクが顔をしかめる。

「どうすればこれほどまで……」

 ヴァビルカ前教皇も顔をしかめる。

 負傷の具合はバラバラで特に部下達が酷い。人間で言えば、骨折、大量出欠に一部欠損と様々。しかも、思っていたよりも生存数が少ない。考えられるのは、アムブリエルに殺されてしまったことだ。

 そんな生き残った創作の部下で外傷が少ない天族に、十数匹の宝玉獣(カーバンクル)がつついたり乗ったりして遊んでいる。

 そんな宝玉獣(カーバンクル)をハイエントが引き離しているのだが、聞き分けのない宝玉獣(カーバンクル)を領域に閉じ込め、抗議する宝玉獣(カーバンクル)も領域で閉じ込めるという作業を行っている。

 そして、セラフィナは幸運なのか、大怪我らしい外傷を負っていなければ、宝玉獣(カーバンクル)の遊び道具にもされていない。気絶させられているだけか、あるいは内側を負傷して動けないのかは見た感じ分からない。

「まずは、セラフィナ様の容態を見ましょう。ハイエント、宝玉獣(カーバンクル)と遊ばずに彼らの容態を見てくれませんかの?それと、応急手当も」

「こいつらが邪魔なんだよ」

 宝玉獣(カーバンクル)の抗議が威嚇から光線へと実力行使になり、お前達はいつの間に好戦的になったのかと呆れるハイエントに、茶化しながら指示を飛ばすヴァビルカ前教皇。

 それに抗議を入れようとするハイエントだが、ミクが前を駆けて行く。

「皆も手伝って!」

 指示されているわけではないが、率先して創作の天族の部下の救護へと向かうミク。その後ろを先ほどまで遊んでいた宝玉獣(カーバンクル)が列を成して追い掛ける。領域に閉じ込められている宝玉獣(カーバンクル)も行きたそうにハイエントに抗議する。

 これには複雑な気持ちを抱いたハイエントだが、すぐに気持ちを切り替えて救護へと向かった。


* * *


 ヴァビルカ前教皇はさっそくセラフィナの容態を天眷術で確認した。

「……これは、強い衝撃を受けたことで、内側がボロボロになったのかの」

 その具合は人間であれば即死。気を失った程度でいられるのは、さすがは天族であり、四大天族のセラフィナであるからと言える。

 そして、確認して分かったことだが、天族の体の構成は人間とほぼ同じ。外見から予想していたが、思いがけず知った事実に色々と思う。

 しかし、その思いに浸る暇を与えない事態が迫っていた。

「参りましたの……」

 ヴァビルカ前教皇は再び顔をしかめた。何故なら、ヴァビルカ前教皇が持つ今の力ではセラフィナを治せないからだ。

 これが、先のズリエルを引き付ける為に力を使い過ぎたのなら悔やむ(・ ・ ・)程度で済むが、別の要因から治すことが出来ない。


 その理由は、ヴァビルカ前教皇が天眷術を使用する為に契約しなセラフィナに問題があるからだ。

 セラフィナが倒れたことで、ヴァビルカ前教皇に何の問題があるかと言うと、天眷者は天族と契約することで天眷術を使える。そして、教皇になる存在は四大天族の誰かと契約することで他の天眷者以上の術を使用出来る。天眷術の力の源は天族であるのだ。

 その天族が何らかの理由で弱まれば天眷術の威力は落ち、亡くなれば天眷術は使えなくなる。

 つまり、ヴァビルカ前教皇が契約したのがセラフィナであり、セラフィナの命の灯火は弱くなっている為に、天眷術の威力が落ち始めている。

 それに、天眷者が天族に天眷術をかけようとすると利き目が弱くなる。契約しているのが四大天族で力の強いセラフィナであってもだ。

 これにより、ヴァビルカ前教皇が四大天族の怪我を完治することが出来ない。精々が部下の怪我を完治二歩手前程が限界。助けたくても助けられないのが現在の難しい所であるのに、力が無くなる気配が、更に難しくさせている。



 力が無くなる前にと、ヴァビルカ前教皇はやれることからと動き出す。

「ハイエント、そちらは?」

「そっちはいいのか?……そうか」

 近寄って来たヴァビルカ前教皇に、重軽傷の天族を応急手当していたハイエントが怪訝に思うも、事情を理解する。

「そっちは比較的ましな方だ」

「分かりました。ミクさん、こちらの方々の傷が治りましたら起こしてあげてくださいませんかのう?」

「いいの?」

「はい」

 ハイエントの手伝いをしていたミクを呼び寄せ、ヴァビルカ前教皇は天眷術で治し始める。

「天眷・我が主が祝福せし者に(セラペヴォリオウル・)我らもそなたを祝福(セラピリアナ)しよう」

 天眷術の治癒系で最上位を唱える。それは、早く治したいという気持ちからではない。

(治りが遅いの。やはり威力が落ちているの)

 小さな怪我を治す程度の天眷術では天族には効果が発揮されない。

 天族にようやく効果が現れるのが中くらいなのだが、威力が落ちて治る見込みがない為に、仕方なく最上位を使うも、効果に反して効き目が悪く力の消費も良くない。

 だが、文句は言ってはいられないからと、力の消費を代償にして、無理して治しきる。

「おじいちゃん、大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

 額に汗を浮かべ、明らかに大変なことをしていると分かる様子にミクが心配するも、ヴァビルカ前教皇は笑ってやり過ごす。

「さて、起こしたらここで寝ている天族を治す様に申してください。ある程度動けるようになりましたら、セラフィナ様を治せるはずですからの」

「うん。分かった」

 ミクに伝言を伝えて続きをと動く。



 そこに、この場に新たな人物が現れる。

「セラフィナ無事か?ここもか……」

 現れたのはフレイア。セラフィナが倒れているのを目にし、そこから周囲を見回して状況を理解する。

「フレイア……さん?」

「じゃから、何故疑問符を付ける。まあ、いい。セラフィナはどうだ?」

「強い衝撃を受けた為に意識が戻りませんの」

「そうか」

 セラフィナの容態を聞き、周囲の様子から既に想像が付いているフレイアは、近くで倒れている軽傷で気を失っている創作の部下を蹴り飛ばす。

「いい加減に起きんか!いつまで寝ておる!起きてセラフィナを治さんか!」

 容赦なく蹴り起こすフレイアに、ミクは役割を取られたと少しショックをうけ、ヴァビルカ前教皇は少し戸惑うも、次には苦笑いを浮かべていた。


* * *


「申し訳ございません。力を多く使ってしまい使えません」

 部下に治療され、ある程度回復したお陰で天眷術の威力がなくなることは回避された。そして、フレイアの質問に答えたセラフィナの一声は、4人の表情を固くするのに十分であった。

「何故なくなるまでやった?」

森羅万象(ユニバース)を使ったアスモデルとズリエルを倒す為としか……

「ズリエルか……」

 ズリエルには苦しめられた為に、セラフィナの気持ちが分かるとハイエントは頷く。

「……どうやら、セラフィナも妾と同じ様にやられたようじゃな。しかし、困ったの……」

「何が?」

 何が困ったのかと、頭を抱えるフレイアにミクが尋ねる。

「セラフィナならば、負傷した全天族の完治といかずも治すことは可能であった。じゃが、力がなければ治すことが出来んのじゃ」

「その様子では、セラフィナ様を必要としておられたようですの?」

 話に割って入ったヴァビルカ前教皇にフレイアは頷く。

「そうじゃ。ダグザとクレメンスの所も様子を見て来たが、酷いものであったぞ」

「お二人は?」

「酷く殺られておった。残念じゃが、妾ではあれほどの怪我を完治することは無理だ。セラフィナならばと思ったのだが……」

「申し訳ございません」

 希望を抱いていたのに期待に応えられないことを謝るセラフィナ。


 しかし、話を聞いていたハイエントは、フレイアの言葉に疑問を感じ取った。

「フレイア、何故完治だ?ある程度ではダメなのか?」

「モルティアナ様の指示だ。四大天族はヴァルハラ城に来いと」

「なるほど。そういうことですか」

 短い指示内容であったにも関わらず、ヴァビルカ前教皇とハイエントは、モルテが何を望んでいるのか把握する。

「確かに、それは完治が必要です」

「だが、セラフィナの力が尽きているとなれば……」

 現状で合流可能なのはフレイアのみ。四大天族がモルテと合流するのは様々な要因から不可能である。

「ねえ、他の天族の人じゃ治せないの?」

「治せんことはないが、数に力に時間が多くかかる。今やって間に合うとも思えん」

 やらないよりはまし、と思うかもしれないが、それだけ集められるのならば違うことをする気持ちである。

「……仕方がありません。フレイア、貴方は3人を連れてモルティアナ様と合流を。私はダグザとクレメンスの容態を見てから……」

「その必要はありませんよ」

 苦渋の決断をしたといった様子のセラフィナ。

 そこに予想外の声が響いたのだった。

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