死神と教会
クロスビーの言葉を聞いたファズマは首を横に振った。
「待たせたのはこちらです。本日は臨時休業により休みで連絡をくださった時には俺と店長は外出していましたから」
「それはご連絡をした際に聞いております。むしろ、それを承知して無理して来てもらったのです。こちらの方が無礼と存じます」
年齢からして40代に見えるクロスビーは教えの深さからか信仰心からか分からないが表情が穏やかであると思うのだが今はその表情を申し訳なさそうに浮かべていた。
そんな表情で言うクロスビーにファズマは先程まで低かった声を一変させ、決意ある表情で話した。
「それはこちらとしては問題ありません。切られていない死体が教会に運ばれたのならそれを切るのはきちらの役目です」
「そうでしたね」
ファズマの言葉にクロスビーは頷くと聖 ヴィターニリア教会の奥へと続く扉へと招いた。
「こちらにどうぞ。ダイアナ助祭はここに残ってください」
「かしこまりました」
女性助祭であるダイアナ・マスティアが一礼したのを見届けてクロスビーが開けた扉に入る三人。
三人はクロスビーを先頭にして聖ヴィターニリア教会の廊下を歩いた。
「ところで、そちらの少年は前に聞いていた新しい従業員で間違いありませんか?」
「はい」
クロスビーはファズマに見た覚えのないディオスが新しい従業員であるかを尋ね、頷いたディオスは自己紹介をするようにと目で合図した。
「ディオスです。よろしくお願いします」
ディオスの自己紹介を聞いたクロスビーは少しだけ興味を持った素振りをした。
「ほう。なかなかに。葬儀屋に勤めたということはモルテさんの弟子になったのですね」
「いえ、ディオスはまだです。店長はディオスに決めさせると言っていました」
「だからね、紹介が遅れたんだよね?」
クロスビーが死神の弟子について尋ねるとファズマが否定してミクが聖ヴィターニリア教会への紹介が遅れたであろう理由を述べた。
「ちょっと待ってください!」
そんな会話をしているとディオスが待ったをかけた。
「どうして司祭が死神のことを知っているんですか?」
モルテから死神は秘匿される存在であると聞かされた。そんな存在を教会、司祭であるクロスビーが知っていのか分からない。
「早い話が、死神と教会は協力関係にあるんだ」
「え?」
ファズマの口から思ってもいなかった言葉が出てきて表現に困るディオス。
「ディオスさんは知らないのですか?」
「今日少し教えただけですが肝心なところは見た方が早いのでまだです」
「そういうことですか」
ディオスの反応から何も知らないと感づいたクロスビーはファズマに尋ねて納得をすると教会側から見た死神の必要性を唱え始めた。
「死者に死を与えることが出来るのは死神だけというのはご存知ですね?教会にはそう言った力はありません」
「そうなんですか!?」
クロスビーの発言にディオスは大きく驚いた。
教会なのだから死者の一人二人は弔うことが出来るのではと思っていたのだがどうやら出来ないようである。
「教会は昔からご遺体が運ばれて保管をする場所もかねていますが、やはり死神の持つ力が必要なのです」
「力?」
「はい。死者に死を与える力。その力が必要で死神と協力を結んでいるのです」
「で、でも、死神って教会が教えている死神とは別の存在ですよね?」
「もちろんです。なので、死神の存在と力に関してはロード教を含め全宗教最大の秘匿となっています。この秘匿をロード教では司祭から知ることとなります」
「だから司祭は知っていたんですね」
結論はもう出ていたのだ。
死神でなければ死者をどうにかすることが出来ないのである。
何故死神が持つ死者に死を与えるという力をそこまで求めるのかは分からないがそれがなければ教会側が困るということは分かった。
「それにしても意外です。教会だから弔ったり祓ったり出来ると思っていたんですが。祓魔師のような人もいると」
ディオスが一般人が抱いている教会のイメージを述べると、クロスビーが笑った。
「死者を弔うことはできませんが生霊が持つ力を一時的に弱めたりして死神の手助けを行ったりはできます」
「はい?」
何だか予期していなかった言葉にディオスの表情が固まった。
「そういった力が強い方は生霊の力を一時的に無効化にすることができます。恐らく祓魔師と言われる者達はそう言った者達が普通では見えない悪霊を払っていと思い作りだした仮想集団と思います」
「は、はあ……」
またとんでもないことを聞かされたディオスは曖昧に返事をすると思った。
(司祭も人間だよね?)
生霊が持つ力、その力がどういったものかは分からないがそれを弱めたり無効化すると聞かされ、それが人間でも出来るのかと自問自答を行う。
「ここです」
すると、クロスビーは足一つの扉の前で足を止めると、静かに扉を開けた。




