天眼のハナエル
ムスペルヘイムに姿を表したフレイアは、まるで現れるまで待ち構えていたと言わんばかりのハナエルを睨む。
「ハナエルのみがここに居ったのは、妾がここにいなかったことが分かっておったからだろ?しかし、残念だが上手く行くものではないぞ」
フレイアは臨戦態勢、部下達はフレイアが現れたこととハナエルがいることに気が付いて急いで集まってきていた。
ハナエルの力は天族の殆どが認知している所である。
最たるものが一部を除き遠くで距離を問わず起きている出来事を見通すもの。天眼のハナエルと呼ばれていることから見る力に長けているものの、それだけと認知され天体の中では最も弱いと認識されている。
だからこそ、四大天族で最も戦うことに長けている武神に属する天族と統括するフレイアとの戦いは誰がどう見ても負けることを意味しているとしか言えない。
そんなハナエルが口を開く。
「別に。フレイアがいようが、その部下がいようがどっちでもいい」
挑発的な口調に武神の天族達がどう言うことかと睨み付ける。
武神は四大天族の中で特に戦いに特化している。本来であれば一対一で戦って天体に勝てるのはフレイアを含めた統括者4名だけ。しかし、最弱であるハナエルならば希望があるというのが武神の天族の考えであった。
にも関わらず、ハナエルはそれらも含めて一掃した。どちらでもいいと。
「ほう。大層大きな口を吐くのだな」
フレイアとしてもこれは少し意外であった。
ハナエルの評価は知ってはいるが、部下ほど楽観していない。なにしろ、ハナエルの見るはただ見るだけではないのだから。
だからこそ、フレイアは最初に渦の内側だけを覗き込んでいた見るについて指摘した。
ハナエルの評価も合わせ、自分がいなければ問題ない。武神も何とかやり過ごせるから、と。
しかし、実際はハナエルにとってそれは意味がないことと分かっており期待もしていなければ願望も楽観もしていない。結果的にそうなっただけなのだ。
だからこそ、フレイアはハナエルの警戒を上げた。ハナエルではなくフレイアがである。そのことに気が付いたら武神は恐らく多くはない。
「お前達、妾が動けと言うまで手出しするな」
「フレイア様!?」
「よいな!ムスペルヘイムを守るんじゃ!」
部下の反対を押切りフレイアはハナエルへと近付く。
フレイアはハナエルの目と合わせない様にする。
(これの方が良いからのう)
ハナエルと戦うには視線を合わせない方がいいというのは四大天族の統括者の総意である。
何故なら、ハナエルは見ることに長けた力を持つ。それなら、見る為には何が必要か。見る為には目がなければ見ることが出来ない。
「光弾!」
フレイアは空中にいくつもの光の玉を出現させると全てをハナエルに向けて放つ。まずは小手調べの為に物量で押す。
「……甘く見られたものだな」
ハナエルにとってフレイアのサイショノ攻撃手段が予想通りだったのかぼやく様に言うと、余裕を持って光弾全て避けた。
「なっ!?」
これに驚愕したのが武神の天族達。
フレイアがいくら小手調べとして大量に放った光弾を簡単に脱出出来ると思っていなかった。
対処するには守りの盾等で防ぐか光弾以上の速度で回避しなければならなかったのだが、ハナエルはそのどちらでもない。避けたとは言っても別段早くもない。にも関わらずハナエルは光弾を回避した。
そんな武神の天族達にハナエルは呆れた面持ちで言う。
「何を驚いているんだ?これくらい当たり前だろ?」
別段難しいことはしていないのに何がおかしいんだとハナエルは意味が分からないと訴える。
「第一、ここにいる天族は俺が最弱だから勝てると思っている様だが、最弱なんてのは俺達の中にはない。お前らに負ける要素ないからな」
挑発と言うよりは見下していると言ってもいい。その言葉に当然の様に怒りを抱いて命令に反して攻撃を仕掛けようとする天族もいた。
それをフレイアが口だけで納める。
「事実じゃ。お前達では勝てんよ」
フレイアまでもハナエルが言ったことを火に油を注ぐ勢いで肯定する。これでは納める為に言ったとは思えない。
「ハナエルの力を甘く見くびるな。奴ほど凶悪な奴はおらん」
警戒心を剥き出しにした言葉に武神の天族がどういうことかと戸惑う。
「凶悪はバルビエルじゃないのか?」
「あれは凶悪ではなく危険じゃ。バルビエルはまだ分かりやすくやり易いが、ハナエルほど戦いたくないと思わぬ天体はおらんよ」
フレイアが戦いたくないと発言した衝撃が武神の天族に襲う。
「それに、妾達では明らかにハナエルとの相性はよくない。よく考えて当てられたものじゃ」
ここまで言うと先程まで訴えようとしていた天族が血の気が引いたのか戦う姿勢を止めた。
フレイアの発言にハナエルは思うところがあった。
「まさか、フレイアが俺のことをそう思っているとは思わなかった」
「ほざけ。先程の攻撃に対して仕掛けておったくせに。妾が分からんとでも思ったか?」
その言葉にハナエルの目が少し真剣になる。
「何のことだ?」
「分かりきった返事を返すな」
もはや当たりと言っている決め台詞にフレイアは突っ込む。
「ハナエル。貴様、光弾の速度を落としただろ」
ハナエルがフレイアの放った小手調べの光弾を回避出来たのは自分の目で光弾を認識出来たから。
ハナエルは自分の目で見て認識出来たものなら何でも干渉出来る。
今回は光弾を認識、そこに速度を落とすように施す、そして自分はいつも通りに避けたのだ。
武神の天族は光弾が遅くなったことに気がついていないのは、元々フレイアが放つ光弾の速度が早かったのと、当たる直前に回避したから気付かれなかったのだ。
そこまでフレイアに言われてハナエルは顔をしかめる。
今のところ力を使ったのがた一回しかないにも関わらず見破られたのだ。
「そこまで言うなら、俺の力にも大体の目処があると思っていいか?」
ハナエルはフレイアを見極める。ただ戦いにしか脳がないわけではないというのは先程のことで理解している。
「見ることなら何でも出来るじゃろ?自分の目でも、妾の目でもじゃ」
自分の目までもがハナエルの力の対象であるとフレイアは言う。
「ハナエルの力は見る為だけのものではない。未来に過去、あらゆる動作の動きを遅く見えたするが、見るのなら自分の目だけでなく相手の目から見たものも見られる。見ること全てに特化しておるのじゃよお前は」
やはり知っているようだとハナエルはフレイアに改めて宣言する。
「残念だが、俺にはフレイアがどの様に仕掛けるのか分かっている。だから言う。俺達、いや、アムブリエルには勝てない!」
普段のハナエルは気が抜けた様な性格であるが、やるべきとを言い渡されればその雰囲気を一切出さずに行う。
それが今のハナエルの状態であり、本気でもある。
「そうか」
言いたいことは分かったとフレイアは両手に光弾を纏わせる。
「ならば、お前が見た未来を撃ち破ってやろうではないか!」
それ相応の対応をしてやろうとフレイアは身構えることなくハナエルに突っ込んだ。
ハナエルの本当の凶悪性はまだ先ですが、それとなくヒントは入れてます。
答えまでご想像ください。




