結界を壊す為の戦いへ
モルテとディオスがアムブリエルとマルキダエルに襲撃された同じ頃……
領域でモルテと話していたハイエントが顔を歪める。
「連絡が切れた」
会話の途中でモルテとの連絡が途絶えたことを伝える。
「えぇ!?師匠大丈夫なの?ねえ?」
「落ち着け」
その知らせに不安に煽られて慌てるミクがハイエントに問い掛ける。
「いいか、ミクの方がモルテの事をよく知っているだろ?なら、連絡が途絶えただけでモルテがやられたと思うか?」
「……思わない」
「そうだ。なら、考えられるのは、連絡を中断しなければいけなくなったということだ。今の状況で考えられるのは襲撃だ」
「それじゃ早く師匠の所に……」
「行かねえよ」
「どうして?」
モルテの置かれている一つの状況を聞いて助けに行かなければと訴えるミクをハイエントが許否する。
「分体を倒す為に2組に別けた時点で襲撃なんてものは予測済みだ。対処出来ない様ならはなから別行動なんてとらねえよ」
行方不明となった分体を探しだして倒すことが難しいから別けただけではない。危険に対処出来てそれ相応の実力があってこそ出来たものであると諭す。
「それにな、モルテもその事を知っているし危険であることも理解しているんだ。そして、モルテは襲撃に合った。それだけだ」
まだ戦いと言う緊迫した状況を理解しきれていないミクには酷であるとは思うも、それは運も絡むことで仕方がないのだとハイエントは言う。
「それじゃ、どうして師匠を助けないってことになるの?」
予想通りミクは納得しなかった。それにヴァビルカ前教皇が代わりに答える。
「一つはモルテさんなら対処が可能だからです。モルテさんがお強いことはミクさんも知っているしはずです。それならまずは信じることです。無事であるということおの」
「……うん」
聖職者らしい言い方にミクが少し考えた後に頷く。
「そしてもう一つですが、途中で別の問題が起きた際の対処となります。問題が起きた際、何らかの事情で対応に行けない際にもう一つが問題を対応することとなります」
「それって……」
「はい。あちらの問題を私達が対応しなければならなくなりました」
ヴァビルカ前教皇はヴァルハラ城に振り向いて、自分達がやるべきことが変わったのだと言う。
「でもいいの?勝手に行っても?」
「問題ねえ。モルテからヴァルハラ城に行く様にと言われている」
これまでヴァビルカ前教皇に説明を任せて黙っていたハイエントが別の行動をしてもいいのかと疑問に思っていたミクに言う。
その言葉を聞いたヴァビルカ前教皇も驚きを見せる。
「それは本当ですか?」
「ああ。つうか、さっきそれっぽく言っていたから理解していたと思ったんだが?」
「そうするべきと思って言っただけです」
すっかり先読みしていたと思っていただけにハイエントはヴァビルカ前教皇を軽く睨んでからミクに視線を向ける。
「それに、その宝玉獣も分身が探しても見当たらないみたいだからな」
「うん」
ミクの足元に集まる宝玉獣はズリエル以外の他の分体も探したのだが見つけられることが出来ずトボトボと残念そうな顔をして戻って来ていた。
「どのみち詰みだ」
「そうなりますとやはり……」
「詳しくは移動しながら言う」
これ以上の期待もなければモルテから言われたこともあるからとハイエントは領域でヴァルハラ城に移動する準備にかかる。
「そうですの。ミクさん、これから更に危険になりますから私から離れないでください」
「はい!」
ヴァビルカ前教皇の言葉にミクは頷き、その後に宝玉獣数匹がミクの体に飛び乗り。
丁度準備が終わり、それを目にしたハイエントが呆れた表情を浮かばせた。
「どうでもいいことだが、宝玉獣がそんなに必要か?」
その言葉に宝玉獣が必要だから連れて行けとハイエントに向けて猛抗議するのであった。
◆
渦が崩壊したのと同じ頃。
フレイアとクレメンスから連絡を受けていたダグザが塔の前で渦があった場所を見ていた。
「渦を一瞬にしてって何をやったんだ?」
その疑問は渦が消えたことでようやく近付くことが出来たと現れたウェルキエルとバキエルに向けて言われた。
「それを言うと思うかな?」
「ああ、いいよ、大体予想が付くから」
案の定、バキエルは言う気がなかったようだが、ダグザは予想がついていた。
その主旨を笑みを浮かべて言うが、ダグザの周りにいる部下たちは対照的にウェルキエルとバキエルを警戒心を隠すことなく睨み付けたまま構えていた。
* * *
「ムリエルの力によるものですね」
セラフィナは自分の推論をズリエルとアスモデルに言っていた。
それとは別にセラフィナの部下もダグザの部下同様であった。
「ですが、ムリエルの力だけでは突破するのが関の山。あのままクレメンスに挑んだとしてもフレイアや私達が駆け付けて倒されることは目に見えています。だからこそマルキダエルの力が必要不可欠となります」
クレメンスがいたところでムリエルがマルキダエルの名前を叫んでいたことはセラフィナは知らない。しかし、渦が崩壊した現状と様子からマルキダエルがいたことは確かかなことだと確信していた。
* * *
「突破だけでなく破壊とは、よくもやってくれたの……」
悔しそうに吐き捨てるフレイアだが、実際は渦を作り維持していたのはクレメンスであり、フレイアが言った言葉を言う権限もクレメンスにある。
しかし、そんなことは気にしていないとクレメンスはムリエルとマルキダエルがやったことを冷静に分析し終えてから言う。
「硬化を使えるムリエルが渦に突込み、マルキダエルがムリエルが通った場所を固定してトンネルを作り、そこを中心にして破壊をしたか」
渦の内側に入るだけなら簡単であるが崩壊となると難しい。
仮にムリエルだけとなると渦崩壊の為に使う力は四散して纏まらないし威力も弱くなる。マルキダエルではそもそも渦の中に入れないし外側から壊そうとしても効果は低い。
つまり、渦に入っても問題がないムリエルと、入れば何とか出来るマルキダエルの組み合わせによって渦は崩壊したことになるのだ。
クレメンスが解説を終えると、ムリエルとマルキダエルの背後からアムブリエルが歩いて現れた。
「フレイア。塔に戻れ」
「そうさせてもらう」
クレメンスの言葉にフレイアは急いで自分が管理している塔へと転移を使って消えた。
この時点でクレメンスに気を使って居続けようとしなかったのは、アムブリエルが来たからであり、ヴァルハラ城を守る結界を壊させない為だ。
「残念だな。ここでフレイアも足止めしようと、いや、倒せたら倒そうと思ったんだけど」
これからやることが成功するのだと自信満々で言うアムブリエルにクレメンスは睨み付ける。
背後ではいつの間にか部下達が集まっていることを感じながら構える。
「思い通りに行くと思うな!」
クレメンスの強い威圧感がアムブリエル、ムリエル、マルキダエルに向けられた。
ーーー戦いは四大天族とアムブリエルの対決へと変わった。




