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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
20章 天体反乱(後編)
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渦崩壊

 時間は少し遡る。


「ん?」

「クレメンスどうした?」

 渦の内側、それを発生させたクレメンスが怪訝な表情を浮かばせたことにフレイアが気が付く。

 フレイアでは分からないが渦を作り出したクレメンスには外側の様子が良く見て取れているのだ。

「アムブリエル」

「何じゃと!」

 クレメンスの発した言葉にフレイアは警戒心を跳ね上げる。

「何処におる?」

「我が管理するニヴルヘイムから垂直に左の森の中。距離は離れている」

「よく見えた、と言いたいところじゃが、ニヴルヘイムに近付いたということは明らかにクレメンス狙いじゃの」

「うむ。我を倒さねばこの渦は元より結界もどうにもならないからな」

 アムブリエルの狙いを読み取り、真っ先に狙われているはずのクレメンスは慌てる様子がなく、むしろ冷静でいる。

「結界は元より渦はクレメンスを倒さなくてもよいだろうに何を言う?」

 当たり前のことを忘れたのかとフレイアが呆れて言うと、クレメンスから怒りが感じられた。先程の冷静さはどこへいったのかと突っ込みたい。

「その気で挑んでこなければ困る。我々は奴等に心底怒っているのだ」

「だからと言って挑発する体勢はよせ。妾達は守りの要じゃ。けして城に辿り着かせるわけにいかぬ」

 少し冷静になれと促すフレイアだが、フレイア自身も気持ちが分かる為に注意だけで留める。

「……そうだな。我としたことが興奮した。らしくないことをした」

「全くもってそうじゃ。本来ならそれは妾がやることじゃ。妾にもらしくないことをさせるな」

 立場の逆転はどうにも居心地が悪い。だが、お陰で気持ちが収まったとクレメンスは言うが、フレイアは内心で今の話を他の天族に聞かれなくて良かったと思っている。

 アムブリエルは反乱の首謀者であり、目的が何かであることは全天族に伝わっている。それだけに四大天族側の天族は怒りを抱き、何がなんでもアムブリエル達天体をヴァルハラ城に近付けさせるつもりなどない。

 だが、気持ちが前に出てしまえばアムブリエルを止める前にヴァルハラ城を守ることが出来ない。

 だからこそ伝える見極めが必要となる。


「セラフィナ、ダグザ。アムブリエルが現れた」

 フレイアは話を切り上げてすぐに残りの四大天族の2人に知らせる。

『クレメンス、場所は?』

「ニヴルヘイムから垂直に左だ」

『クレメンス狙いか。周囲は?』

「待て」

 ダグザに促されてクレメンスはアムブリエルを見つけてから止めていた周囲の確認をする。その結果は……

「各々の塔から垂直にいる。ムスペルヘイムにハナエル。アルフヘイムにズリエルとアスモデル。ヨトゥンヘイムにウェルキエルとバキエルだ」

 それはまるでいつでも渦が崩壊した直後に攻め入れる体制である。

『他は?』

「見当たらなっ……!?」

 い、と言おうとした直後に、クレメンスに力が歪まされる、正確には渦の中に異物が入り込んだ感覚が襲う。

「どうした!?」

 フレイアがクレメンスの異変に気付いて尋ねた直後、頭上からバシャッと小さな、けれども突破されたと分かる音が聞こえた。

「ムリエルか!」

 そこにいたのが硬化のムリエルと呼ばれた天体であり、ムリエルなら渦を突破するのに時間はかかるが可能であることは確か。

 しかし、渦に入ってきたならその前にクレメンスが何とか出来たのだが、その暇すらなくムリエルはとんでもない速さで渦の内側に到達してしまったのだ。

「何故……」

 クレメンスが驚愕した表情を浮かべていると、ムリエルが叫んだ。

「マルキダエル!」

 直後、渦は光を徐々に発し、次の瞬間には渦は形を保てなくなり崩壊した。



* * *



「えっ……」

「なっ!?」

 モルテとディオスは破裂音が響いた方向を向いて驚愕する。

 何故なら、クレメンスがヴァルハラ城を守るために包み込んでいた渦が崩壊したからだ。

 今まで覆っていた渦は崩壊に伴いただの水となり、滝の如く大量に遠くまで降り注ごうとしていた。

「展開!」

 瞬時にモルテは自分とディオスの身を守る様に領域を展開する。

 それからすぐに渦を構成していた水が森中に落ちて来た。粒の大きさごとに大きな威力を伴って落ちる水滴は木々を折り地表に穴を開け、落ちる際の轟音と共に見る見る内に広範囲で被害をもたらした。

 その猛威が収まると辺り一面、いや、今まで木々で遮られて見通せなかった場所までの惨状が露となった。

 折られた木々は雑に積み重なったり根ごと跳ばされたのかそのまま横になったり、地面は水を吸って泥になった、と言うよりも水没している箇所が数えきれないほどある。

 これがヴァルハラ城を包んでいた渦が崩壊したことによる代償と思うとぞっとしてしまう。

「早すぎる!」

 モルテはヴァルハラ城を見て叫ぶ。



『モルテ!』

「ハイエントか!」

 その時、領域を使ってハイエントが連絡を入れてきた。

『無事のようだな』

「そちらも無事か?」

『間一髪だ』

 どうやらハイエント達も無事であることに安堵したかったがその時間はない。

「ハイエント、今すぐヴァルハラ城に迎え!全ての分体がアムブリエルに戻っていると考えていい!」

『本当なんだな?』

「そうだ。私達もすぐに……」

「そんなことはさせないよ」

 指示を飛ばすモルテに攻撃が仕掛けられた。

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