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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
20章 天体反乱(後編)
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まずは1人

 ズリエルの拘束から解放されたヴァビルカ前教皇は絞められていた首を擦りながらやれやれと言いながら安堵する。

「何とか倒せましたの」

「まったくだ。体が少しいてぇな、悪いが治してくれ」

「分かりました」

 ズリエルを倒した立役者のハイエントに天眷術をかけて怪我した箇所を治す。

 すると、近くからガサガサッと草を踏む音が徐々に近付いて来る。

 どうやら影の立役者が指示を無視して来てしまったようだ。

「おや。迎いに行くまで待っている様にと言いましたが?」

「うん。でも、もう倒しちゃったからいいかなって思って」

「倒したとしてもそれで安全とは言えないな。俺達が行くまで待っているべきだ」

「……うん。ごめんなさい」

 ミクが既に戦いが終わったからと足を運び、迂闊なことだからするなとハイエントから注意を受ける。

 それをミクの足元にいる宝玉獣(カーバンクル)がキィーと鳴いて怒っている。

「ハイエント。ミクさんに不安があったはずですし心配もしていたはずです。あまり怒らないでください」

「怒っているのは待っていなかったことにだ。それ以外を攻める理由は俺にはない」

 庇うヴァビルカ前教皇の言葉にハイエントは理解した上でミクがやったことのみに怒っていたのだと言う。

「それを聞いて安心しました」

「何でお前が安心するんだ?」

 ヴァビルカ前教皇の反応にジト目で突っ込むハイエントだが、宝玉獣(カーバンクル)はミクを庇ってくれたことを理解してかキラキラした目で見ている。

(こいつら、完全に落ちたな)

 ヴァビルカ前教皇の優しさ(・ ・ ・)に心を打たれた様子は懐柔されたなと思う。

 しかも、今の流れでハイエントが悪役でヴァビルカ前教皇が正義の味方という構図も出来てしまった。

 宝玉獣(カーバンクル)のあからさまな反応からその様に見たハイエントはこれ以上言うべきではないと思うも、年からか注意を重ねてしまう。

「だが、第一にやることは自分の命を守ることだ。俺達が命を落とすと思ったならミクも死ぬことになる。その時は逃げろ。いいな?」

「はい!」

 ミクがいい返事を返したことで説教タイムは終了となった。



 3人がズリエルを倒す為に行った作戦は動きを止めるという意外にもシンプルなものであった。

 シンプルとは言ったが相手は強敵で止めることさえ本来なら難しいのに何故この手を使ったのか。それにはズリエルの調整を冠する力に理由があった。


 ズリエルの力はあらゆるものを平等に調整することで増減は出来ない。そして、その状態では満足どころか思いっきり力を使うことも出来ない。

 そうした条件でズリエルを倒すとなると、ズリエルが力を使えなくするしかない。

 だが、同等の力を持った存在同士で調整されれば変動が少なく、戦おうとすれば状況判断と手段とで何とかするしかない。しかも、ズリエルには森羅万象(ユニバース)のアストライアーで力を増幅出来るから理不尽である。

 しかし、ズリエルが持つ力を何とかしなければならない為にやはり消費を狙うしかない。つまり、少ない力を長々と使う長期戦か大々的に消費させる短期戦でしかズリエルを倒す手段がなかった。

 だが、それは条件が同じながらもズリエルよりも一回り戦えなければ出来ない様なもの。いくらハイエントとヴァビルカ前教皇が強者であっても、それ以外が行い上手くいくいかないを抜きにしても現実的とは言えない。返り討ちか犠牲が見えてしまう。

 だから別の案を考えた。ズリエルの力の範囲が及ばない所からの長距離攻撃もあったが外す可能性があったりしたことでボツ。他も考えたが最終的には足止めで防げない距離で攻撃することとなった。そちらの方が現実的であり確実であったからだ。


 しかし、ここで1つの誤算があった。それは、初期計画ではなかったミクの存在だ。

 作戦に関係なくズリエルがやることを考えると調整されてしまう。そこに特に力を持たないミクが加わると極端に力がない(・ ・)状態となる。

 出来ることならミクには安全と思える場所で待機してほしかったのだが、ズリエルの力の最大範囲が分からない。範囲にいたなら力がなくなる前に決着を着けなければならず、長期戦どころか超短期戦で挑まなければならず制限が極端に高過ぎる。

 どうすれば解消できるのかと考えるも、そんな都合のいい方法はないと早期に結論付け、むしろミクがいればズリエルも森羅万象(ユニバース)がなければ同じ条件になるのだからと前向きに捕らえてミクも作戦に加わることとなった。

 そうして、組み上げられた作戦はと言うと、ズリエルに力を使わせてハイエントが早期に離脱。ヴァビルカ前教皇がズリエルに力を使わせて限界と思えたタイミングでズリエルを拘束された所をハイエントがトドメを刺すというものであった。

 結果的に命の危険は何度もあったがズリエルが飛び込んでくれた為に拘束という点が簡単に出来、それにズリエルが動揺してくれたことで最後は簡単に出来た。

 最初から危うかったが最大の敵を退場出来たのは誉められるものである。



(しかし、慣れておりますの)

 ヴァビルカ前教皇はミクとハイエントから視線を外してズリエルの遺体を見る。

 ズリエルの体はハイエントによって真っ二つにされている。体が人間とは違うのか血の代わりに光の粒子が漏れている。

(あの年では近付きたくもなければ見たくもないはずですが……遺体を見るのを慣れているのでしょう)

 ミクが近付いて来た時、ズリエルの遺体も目に入っていたはずなのに見たくないから視線を反らしたり嫌な表情一つもなかった。

 恐らく、今のモルテの職業と死神修業に振り回されて遺体を見慣れているのが原因であろう。

 そう思うと悲しく複雑に思う。

「それで、どうするの?」

 ヴァビルカ前教皇が思う所にミクがズリエルの遺体を指差す。

「モルテの話では自然となくなるらしい」

「そうなんだ!」

 天族の驚くべき事実にミクが目をこれでもかと開く。

「……そろそろ離れましょう」

 ズリエルを倒したこととミクに長く見せたくないという思いでヴァビルカ前教皇は離脱を進める。

 その提案に2人と同意し、3人はズリエルを残して森の中を歩き出した。

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