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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
20章 天体反乱(後編)
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戦わずして

 ヴァビルカ前教皇は危機的状況になったというのに苦笑いに似た反応を浮かべる。

「あれは嫌ですな」

 ハイエントが倒された様な攻撃は嫌だと呟くと、土柱から逃げ出す。

「風の刃よ!」

「天眷・我らは害する者達から(ギアト)信じる者達を守らねば(エレンフォ)ならない!」

 不可視である風が刃となって襲ってくるのを察して結界を張り何とか耐える。

「風の刃よ!」

 再び放たれた攻撃に今度こそ結界が破られ、ヴァビルカ前教皇は再び老体に鞭打って逃げる。

(これは延長戦ですの)

 額から汗がツーっと流れた。


 ハイエントが倒された今、ズリエルを倒すにはヴァビルカ前教皇が攻撃に転じなければならないのに未だに攻撃出来ていないのは天眷術が攻撃向きでないことと決め手にかけるからだ。

 天眷術は治癒や護りと言った奇跡の技と呼ばれている。これを死神や天眷者側から見ると後方でのサポート向きで攻撃と言う言葉がなかなか思い浮かばない。

 一応、一部天眷術は少し応用を加えれば攻撃に転じることも出来るのだがヴァビルカ前教皇はそんなことをしない。と言うよりも攻撃出来るほどの身のこなしが出来ないので無理だ。

 それ以前に天眷術は四大天族側の眷属になることで使えるもの。天族の力の一部を天族であるズリエルに向けても効果がある様には思えない。

 こうした理由からヴァビルカ前教皇が出来ることはズリエルに殺られる時間を伸ばす為に逃げるしかないのだ。



 何度目かの結界が破られたことでヴァビルカ前教皇は足を止めて新たな天眷術を唱える。

「天眷・血肉は命を吹き込まれ(クレアッセ・)我の中に(メサ)あり!」

 ヴァビルカ前教皇は切り札の1つを切った。

 唱えた天眷術は身体能力増加である。つまり、ヴァビルカ前教皇は自身の身体能力を底上げしたのだ。これにより逃げる速度が上がったこともあるが体力が増えた。

 では何故ここで切り札を切ったかと言うと、単純に体力が尽きかけてきていたからだ。

「その程度のこと」

「その程度と申しますが、この体で逃げ回るのはかなり辛いのですよ」

 使う理由が分からないと哀れんだ様に言うズリエルにヴァビルカ前教皇は大問題であると訴える。

 確かにヴァビルカ前教皇は老人でありズリエルは若い外見をしている。造られ出されてからの年月を抜きにしても体力的意味でズリエルの方がヴァビルカ前教皇よりも上回っている。

 若い体というものは老人にとって羨ましいものである。

「私も後50年若ければ……」

 ここで10年や20年と言わない辺り、ヴァビルカ前教皇の茶目っ気を含めて実は本心からであることが伺える。

「くだらんな。土柱!風の渦よ!」

 それをバッサリ切り捨ててズリエルが足止めと攻撃を仕掛け、それをヴァビルカ前教皇は結界なしで懸命に回避する。

(厳しいですの)

 結界を使わずに回避するのは、ヴァビルカ前教皇に結界を連発する分の力が残されていないからだ。

 普段なら今以上に結界を晴れるのだがズリエルの力で極端に減少されて均等に配分されてしまっている。その僅かな力で力を連発するには不足しすぎていた。

 だからこそ、力の減少を極力抑える為に手段を切り替えたのだ。

 そして、それはズリエルも同じなのだが、アストライアーのせいで衰えが見られない。


「雷よ!」

 ズリエルはヴァビルカ前教皇の一定範囲目掛けて雷を発生させた。

 至近距離からなる大音量と高圧電流から白く輝く視界、異様な臭いに周辺全てを一瞬にして炭に変えた。ただ1つを除いて。

「くっ……」

 今持ている全ての力で防ぎきったヴァビルカ前教皇であったが力を一気に使った為に膝を付く。

 あれではいくら身体能力を底上げしても逃げられない。そして、雷という迫力ある自然現象を発生させたズリエルの様子に変化が見られない。

「心臓に悪いですの……」

 つい本音が溢れる。

 ヴァビルカ前教皇はよっこらせっと立つとフラフラとなった足取りにも関わらずズリエルと向かい合う。

「死んでいれば楽になれたものを」

 本心とは全く逆であることをズリエルは言う。ここで手を抜いていることと悟られたくないという本心があるからだ。

「確かに。この老体ではいつでも死ぬことは出来ましょうが、私はまだ生きていたいですの」

 そう言ってすぐさま新しい天眷術を唱える。

「天眷・肉に流れる血は(ソモマン・)唯の一つなり(モノ)!」

 身体能力底上げに加えて今度は強化された。ヴァビルカ前教皇が今持てる全ての力を使ったものだ。

(来るか?)

 ここまで身体能力を向上させたのだから今度こそ仕掛けてくると見越してズリエルは身構えた。

 だが、ヴァビルカ前教皇は一行に攻めようとはせずに立ったままで見つめている。

 ここまで攻撃しようとする気配が感じられないことにズリエルは違和感を感じ始めた。

「何を企んでいる?」

「何か勘違いをしておりませんかの?」

 ズリエルの発言にお門違いと反抗する。

「私はハイエントと違い戦うことが出来ません。私から攻めるということは出来ませんの。ですから、逃げてもどうせ力を使われ行く手を遮られるのならば使えなくなるまで耐えるしかないではないかの?」

 確かにそうであるとズリエルは改めて認識する。

 ヴァビルカ前教皇がここまで逃げているのは例え攻撃を仕掛けるても敵わないと分かっているからだ。だから逃げる。

 では、何故ズリエルが逃げるヴァビルカ前教皇を放ってけばいいものに攻撃を仕掛けているのかと言うと、目的の為に捕まえたいから。理由があるから無視しないのだ。

「……そうだな」

 どうやら初めから対処の仕方を間違えていたとズリエルは手段を変えた。

 直接捕まえるということにだ。

「ぐっ」

 ズリエルはヴァビルカ前教皇に一瞬で近づいて右手で首を絞める。

「初めからこうすれば良かった」

 ヴァビルカ前教皇は天眷術を使わなければ弱い。その証拠にこうして呆気なく捕まえることが出来た。

(力を使わせずとも良かったのだかな)

 今までヴァビルカ前教皇に攻撃していたことが馬鹿らしく思えるほど呆気ない幕切れであった。


 直後、ヴァビルカ前教皇はズリエルの右手と左手に握られているアストライアーを両手で握り絞める。

「何をしている!」

 突然のことに叫んだその時、ズリエルの体が真っ二つに切り裂かれた。

「それはこっちが言いてぇな」

 倒れていたはずのハイエントが肉塊となったズリエルの背後で肩に鎌を乗せて言った。

作戦が何だったのかは次回

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