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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
20章 天体反乱(後編)
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調整のズリエル

 突然現れて再挑戦、つまりは戦うと宣言して身構えるヴァビルカ前教皇とハイエントを前にズリエルは動揺していた雰囲気を瞬時に引かせて向かい合う。

「戦うと言うのか。それは、負ける覚悟が出来ているということか」

 意外にもズリエルは2人の挑戦を正面から受け止めた。

 これは1ヶ月前の行った捕獲作戦が成功したこともあるが、何よりも天体である故の余裕があった。簡単に負けるはずがないという自信だ。

 しかし、今回はそれだけではない。理由が分からない身内の裏切りと天体の現状が把握できない。辛うじて分かることは目の前の老人が逃げ出す事件が起こり、どういうわけか戦うと宣言したこと。

 不明な情報が多く、立て続けに起きた出来事は判断を付きにくくさせるのだがこれだけは決定していた。

 目の前の人間を再び捕らえて拘束する。事情は数が多ければいいが、それよりも天体としての役割を遂行する方がズリエルにとって大切であったのだ。


「負けはしないな」

 舐めるなよと挑発すると、ハイエントはすぐさまズリエルへと駆け出した。

 老人とは思えない動きと速さで肉薄すると握り締めた鎌、死神の武器で振るい、ズリエルの顔面近くで結界に阻まれて防がれる。

「この程度か」

「まさかな」

 ハイエントはすぐさま反撃とズリエルに鎌を振るっては結界に防がれる。

 途中でフェイントを入れたり、一瞬で鎌をしまい出現させて再び振るったりもするが、どれもズリエルの一定の範囲に張られた結界に防がれてしまった。

「固いな……」

光弾(ライトバレット)

 ハイエントが浮かべた隙を付いてズリエルが攻撃に転じた。

 接近していたこともあり幾つも出現し光弾(ライトバレット)はハイエントに向けて放たれた。

 だが、ハイエントは領域を使って回避すると的をなくした光弾(ライトバレット)を見送りながら斬撃を放った。

「ふっ!」

 明らかにハイエントも隙を付いた様な攻撃であったがズリエルはあっさり斬撃を消してしまった。

 正確にはズリエルの力が発動したのだ。

「もうかよ……」

 意外にも早い調整を冠する力の切り札にハイエントは予想外と思うも、この展開は遅かれ早かれあったのだと切り替える。

 体から感じられる力はかなり弱まっている。この場にいる存在から力が均等に別けられた証拠だ。

(こりゃキツいな)

 均等にされた力が予想以上に少ない(・ ・ ・)ことに焦りが浮かんだ。


(何だこれは?)

 均等にした力があまりにも少ないことに力を使ったズリエルも動揺する。

 この場には力が強い存在が3人しかいないはずなのに均等に別けられた感じがしない。まるで3人以上いるかの様であり、その存在はここにいる誰よりも弱く、もしかしたらないに等しいほどの無力である。

(私達以外にもいるということか)

 ズリエルにとって予期せぬ事態。だが、それを脱却する手立てがある。謎の存在は直感ではあるが何となく分かる。何処にいるのかは後回しでもいい。

 今は目の前の2人に集中するべきと気持ちを切り替えると森羅万象(ユニバース)のアストライアーを出現させた。


 今まで成り行きを見守っていたヴァビルカ前教皇がハイエントに向けて声を掛ける。

「ハイエント、調子はどうかの?」

「感じている通りだ。予想以上の少なさに驚いたが……ここからは任せるからな」

「承知しているの」

 1ヶ月前はこの力が切っ掛けで長居は無用と見定めて投降したが、今回は投降する気はない。だが、あの時以上の力の少なさは2人にとっては枷であるが何とかするしかない。

 そして、ここからが本番でもある。



 ズリエルはアストライアーを掲げて叫ぶ。

「アストライアーよ、我の声に応えよ!」

 持つ天秤が輝きだしてアストライアーが真価を発揮しだす。手始めに2人に目掛けて重力を倍にしてかける。

「ぐっ……」

「これは、老体にはキツいですの……」

 体重が重くなって動きにくいと体が悲鳴を上げる。

 耐えきれないとヴァビルカ前教皇が結界を張ろうと天眷術を発動しようとして、ズリエルがその余韻と暇を与えるはずがなかった。

土柱(どちゅう)よ!」

 ヴァビルカ前教皇の足元から土柱が生えて襲い掛かる。

「これはいけませんの!」

 絶え間なく出現する土柱に重力という枷がありながらも精一杯逃げる。

 とはあえ、逃げられなくなったら結界を張るが強度は弱く数度受ければ解除される為に常に逃げ続けなければならない。


 ズリエルの本来の力はあらゆる現象を均等に平定するのものだが、望む環境を作り出すのも可能である。

 例えば灼熱を生みたいとなればそれ相応の寒気を上空に生み出すといった様にしなければならない。

 今回の場合は重くなった重力分と同等に周りの重力が軽くなり、土柱は真下が空洞になったりと必ず相互交換、もしくは現象を作り出さなければズリエルが望む望みたい現象は生み出せない。

 一件難しそうに見えるがこれがズリエルの強味である。



「いい加減にしろ」

 ハイエントが怒りを抱きながら領域を自身に展開して重力を軽くする。

 完全に動けないのはズリエルが持つアストライアーがズリエルの力を増幅しているから。そして、その増幅分の力は残念ながらズリエル1人だけのものでヴァビルカ前教皇とハイエントには当てはまらない。

 それでも舐めるなと挑発を端混ぜながら斬撃をズリエルに向けて放つ。

「風の刃よ!」

 それに気が付いたズリエルが対抗する様に風で生み出した刃を斬撃にぶつけ、力が勝って斬撃を打ち消しながらハイエントに迫る。

「くそっ!」

 増幅された力の差により打ち消された斬撃を見た瞬間からハイエントは回避行動に移っており、風の刃がそのまま元いた場所の背後へと消えて行く。

「風の渦よ!」

 ズリエルはハイエントの動きを読んでいた。

 ハイエントが回避した瞬間に続けて環境を変える。今度は竜巻。

 竜巻の発生地点にいてしまうこととなったハイエントはそのまま急成長した竜巻に飲まれると、しばらくして乱暴に放り出されてぐったりと倒れた。

「ハイエント!」

 攻撃の要であるハイエントが倒れたことでヴァビルカ前教皇は慌てて治癒しなければと駆け寄ろうとしたが、体に掛かる重力と足止めとして現れた土柱に遮られる。

「残るはお前だけだ」

 ズリエルの標的がヴァビルカ前教皇へ移った瞬間であった。

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