妨害手段
ヘルヘイム城から離れた森の中。特に目立つ場所ではなく平凡なその場所にアムブリエルと分体がヘルヘイム城襲撃時から退去して潜んでいた。
「どうかな?」
「四大天族がヴァルハラ城に戻った」
「そうか。予定通りだね」
ハナエルの報告にアムブリエルはこの場にいる、自分に戻した分体達に向けて言う。
「ここにいてもバレると思ったが?」
「バキエルのお陰だよ」
ウェルキエルの質問にガムビエルが代わりに答えるとバキエルは無言で首肯く。
バキエルを取り戻して知ったことだが、どうやらミクと密談の為にハナエルの目を騙していたのだ。
それを今回は四大天族に仕掛けて成功した。
「ケッ、このまま倒せば良かっただろうに何でこそこそ隠れねえといえねんだ」
「まあまあ。ここで戦ったらモルティアナ様達も駆け付けて来る。そうしたら、この数じゃ対抗出来ないよ」
戦う気満々で今は文句をブツブツ言うバルビエルにアムブリエルは本格的に対抗するのには早いと遠回しに言った。
何故アムブリエルはわざわざ取り戻した力で自分の分体を出しているのか。
それは、分体に任せていれば楽だからだ。
取り戻した力で分体が得意としていた力を振るうことも出来るのだが、数種類の力を同時に使いこなすのが大変だからだ。
その為にアムブリエルは分身ではなく再び分体を出し、自我を与えて自律的に行動をさせている。
とはいえ、自我を与えているとは言ってもはアムブリエルの支配にあり、分体が行う行動全てが自分の意思ではなくアムブリエルが望みに忠実に動いている。
それが例えアムブリエルに戻される前に神に反乱するのを反対であっても今は賛同の立場である。
「残りも動いた」
「どんな感じにかな?」
モルテ達の監視を続けていたハナエルの言葉に再び尋ねる。
「取り戻していない力を削る為に二手に別れたな」
「そう……」
その報告にアムブリエルは考え込む。
確かに分体を消されてはアムブリエルに力は戻らなくなる。だから、これも想像出来ていた。
対処、と言うよりは邪魔をしてその隙に取り戻すのが手っ取り早い。
だが、それは戦わなければならないことを意味している。先程は早いと言ったのを覆さなければならず、加えて向こうは別れて行動を決定した。
纏まって動くかどちらかがヴァルハラ城に向かってくれたら良かったのにと思う。当然、この展開は予想出来ていたのだが、その対応に未だ悩んでいた。最良の手立てが思い浮かばない。
(マズイな。このままじゃ……)
焦りがアムブリエルの中で積もる。
「どんな感じに別れたのか聞かないのか?」
「何となく予想出来るからいいよ」
まだ全て話していないと言うハナエルにアムブリエルはお断りした。最も、その理由は聞く気になれないからだ。
「アムブリエルはいいだろうが世は聞きたい。話してくれ」
「はいよ」
ウェルキエルに言われてハナエルはどの様に別れたのか教える。
その間、アムブリエルは考えるがやはり出ない。
自分の力を使えば邪魔は出来るがそれだけでは足りない何かを感じている。その何かを解決にない限りは例え足止めしても長くは持たない。理想は長く騙し通せることである。
「出ないの?」
「ああ」
力が籠っていない返事にガムビエルがニヤリと笑う。
「それじゃこれはどうかな?」
そう言ってガムビエルは先程思い付いた名案を提示する。
すると、徐々にアムブリエルの表情、同時に話を聞いていた分体も呆気からんと言った表情を浮かべる。
「名案じゃないかな?」
「名案でしょ!」
バキエルの呟きにガムビエルは胸を張る。
「うむ。確かにそれならば長く騙せる」
「俺はどっちでもいいがな」
言葉にして言うウェルキエルと頷くハナエルも名案と示して、バルビエルは特に興味なしと示す。
一方、まだ反応していないアムブリエルはゆっくりとガムビエルの名案を飲み込んで方針を立てて行く。
そして、纏まったのか力強く言う。
「それで行こう」
アムブリエルも自分の目的遂行の為に手を施し始めた。
◆
モルテが言う死神の剣を取りに行く為にヘルヘイム城の廊下を歩くディオスは思い浮かんだ疑問を口にする。
「店長、アムブリエルの分体を消すのには理解しますが、向こうが抵抗ないってことはないですよね?」
「ない。アムブリエルも分体を消されれば力が戻らないことを理解している。当然、私達よりも先に接触する気でいる」
モルテの解答にディオスはやっぱりと肩を落とす。
これは探すことよりも抵抗が激しいということが早い段階で分かる。
抵抗してくるのはアムブリエル含む分体と未だに戻っていない分体。
アムブリエル含む分体はモルテが言った通り。そして、アムブリエルに戻っていない分体はモルテが消すことを決めた為にもしかしたら反発してくる可能性があり、逆に味方と信じるアムブリエルに近付いて力を取り戻されるとこともある。
どう考えてもこちらの方が理不尽に思う程に都合が悪い。
しかし、見方と言い方を変えるなら、どのみち全てが敵で全てを消すのだから変りがないのだ。
「それとアムブリエルですが、その天体は自分の分身を作り出すんですよね?数で俺達の邪魔をするってことも可能ですよね?」
「そうだ。アムブリエルは私達の前に立ちはだかる。だが、それは極一部だ」
「どうして?」
「邪魔など少ない数で嫌と出来るからだ」
アムブリエル達にとっては真面目に戦う必要がないのだ。モルテ達を邪魔するなら立地を利用したり適当に横槍を入れたりするだけで足止めとなる。そして、それを可能にするのに多くの数は必要ないのだ。
そう聞かされてディオスは納得する。
「それに、私ならヴァルハラ城を攻める為に大多数で攻め入る」
「……つまり、数が多く必要な場所を、力を最大限に使える方を選ぶってことですか」
アムブリエルならば、今やヴァルハラ城を大多数の天族が守る為に動いているが天族の数ですら軽く覆す力をアムブリエルは有している可能性が浮かび上がる。
果たして限界は何処までなのだろうかと疑問に思う。
「ん?待ってください。そうするとヴァルハラ城の守りってどうなっているんですか?」
もしかしたらヴァルハラ城の周りを無限とも思えるアムブリエルが取り囲んでいることだってあり得る。
そして、その後に一斉に四方から攻め入れば簡単に落とせてしまう。
顔を青ざめるディオスにモルテは進行方向を変えるて近くの窓を空けた。
「その心配はない。むしろ、数を減らされているが近付けずどうするか悩んで手が出せていないからな」
「……どういうことですか?」
「見れば分かる」
理由を知らないディオスはモルテに言われて開けられた窓から外の光景を眺める。
「うわぁ……」
そして、遠くからでも見えたその光景に何とも言えない呻き声を上げた。




